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告白する乙女

クラスメイトに『神崎 遥』とは?と問うと十中八九帰って来る答えがある。それは


「不気味」


長く邪悪を思わせる黒髪を垂らし、時よりその合間から視える深淵を宿す瞳も相まってかオカルトチックな不気味さを併せ持つ。 瀬徒が生理的な嫌悪感を抱かせるのなら彼女は精神に訴えかけて来る怖さがある。


故にボッチ。話しかける者などいない、それは餓えた男共もそうだ。どんな女にも優しいと定評がある学園のアイドルこと伊達正樹でさえ一線を置く存在。 まさに不気味の権化。そしてとんでもない変態であることをこの先知ることになる_______ 






「はぁ......」


場面はうって変わり麗らかな春の日差しが照らす公園。レジャーシートを広げ呆然と座りこみデート中とは思えない程に深いため息をついてしまう。唐突なクラスメイトとの出会い、それもただのクラスメイトじゃなく曰く付き。あの睨め付けるような視線と何かを企んでそうな醜笑のせいで気分はどん底に......


「まだ気にしてるの?」


全く気にしてなさそうにあっけらかんとしている彼女、手には今朝丹精込めて作り上げたであろうお弁当がある。だが今それを味わう余裕なんてない。 正直先生の方が深刻だと思ってたのだが__ 


「なんでそんなに大丈夫そうなんですか?」


「だって彼女キミのこと気づいてないよ?」


気づいてない? どこか確信めいた感じで言ってくるがそんなの本人しかわかりっこない。万が一でもバレるのは避けたい。 先生とデートなんてバレただけで...... 


「俺のこと云々もそうですけど学校周辺でデートなんて不味くないですか?きっと色々言われますよ?」


仮にも色々とよくして貰ってる身、それに自分に好意を寄せてくれる彼女が謂れもない悪意に蝕まれて苦しむ姿なんて見たくない。だったらまた距離を置くしか......


__また逃げるのか?


また前みたいに、大事なことから目を背けるのか?


一旦それが溢れたらもう止まらない。霞かかる脳内で正解を探す、これで何度目かわからない。 前もこうして探して見たけどただそれは空をつかむのみ。それからいつも考えることを辞め、逃げていた。


「__向き合って」


そんな心情を知ってかしらでかこちらを見据えてくる。爽やかな春の風が黒髪を靡かせる。その表情は何時ものアワアワと顔を真っ赤に染めているのではなく教壇の上で見る先生そのもの。


人は背負うモノがあると強くなるなんて言うけど、俺には背負いきれない。 多数の期待や憧れ、そして好意と言う重みに潰れ__逃げた。


背負えば背負うほどに泥沼に使っていく気分、もがけばもがく程に足に絡みつき離そうとしない。それが堪らなく嫌だった。 そんな俺に向き合う資格なんてあるのか? まだまだ俺が彼女のことが好きだなんてわからない。こんな俺にだって他にも好意を寄せてくれる人はいた。向き合うのならちゃんとケジメを付けてからじゃないと......


_____チュッ


閑静な公園の原っぱに響く音、それは突如自身の左頬にマシュマロを彷彿とさせる柔らかな感覚、それでいて嫌悪感を感じさせない湿っぽさを伴う。響いたのはリップノイズ。


「今はまだ向き合わなくていいよ。私、待ってるから。いつか身も心も私に向いてもらえるように待ってるから。そしたらキミの話を聞かせてもらえるかな__?」


今だ優しく吹き付ける風が白いワンピースを控えめに巻き上げるのをそっと抑えながら微笑む。


「素敵な景色を見たらさ、誰かと共有したいなぁ〜なんて思うんだ。 例えば家族とか親友とかさ、最近はそうだったんだけど今は違うの...... ねぇ 誰だと思う?」


「......」


そんなの一連の流れからでもわかる。俺は鈍感じゃない、けどその答えは言えない。自身に絡みつく鎖を取り払わなければならないから。焦ったってそれは厭らしく絡みつくだけ、一本一本丁寧に。


「うん、まだいいよ。焦らず自身が納得いく答えを見つけるまでは。お弁当冷めちゃうから食べよ?」


そう手渡された弁当はいつも屋上で食べてるのとは趣向が違う。その味はとても家庭的な味がした。









「あぁ〜なんであんなこと言っちゃったんだろ?」


私、黒羽葵は今日憧れの人とデートした。 相手は瀬徒生真君、私が受持つクラスの生徒。そう、教師と生徒との禁断の関係だ。 ベッドに横たわるクマの人形を胸に抱き寄せあうあうと声ならぬ声をあげる。


「はぁ〜恥ずかしいぃぃぃ」


明日学校で顔をあわせるのが恥ずかしい。喫茶店で一人のクラスメイトと偶々遭遇して以来彼の様子が少し変だったのだ。彼は過剰に正体がバレるのを嫌う気がある。そんな彼を慰めてると__ 


「なんであんな場面で告白したんだろ...... 焦る必要なんてないのに......」


彼が悩んでいるときに甘い言葉で拐かした。私はなんて卑怯な女だろうか? 相手は生徒で自分は教師、結ばれてはならない関係。そんな関係だからこそ焦っていたのだろうか?


初めての恋で手探り状態。私もまた正解を探している。初恋は報われないなんてよく聞く、実際友達の初恋も報われなかった。だけどそれも経験だと割り切る強さが友達にはあったけど......


「振られたらやっていけないかもなぁ......」


初恋が人生史における最高な男性だなんて幸運だろうか?不幸だろうか? 彼が私を選ぶかなんてわからない。無論彼を尊重するつもりだけど...... もし彼が他を選んだなら許せないと思う。


「はぁ〜醜いな......私って」


満月照らす夜、月光という儚い光もまた主役を照らすスポットライト。役者は教師と生徒。 その道は茨の道、いつかその道がヴァージンロードに変わる。そんな時を夢みるのだった。






お待たせしました。ソフィーも好きなんですけど......

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