ドS店主にビビるイケメン
彼女と近場を歩き始めたのだが、どうも余所余所しい。 最初は積極的に身体を寄せ付けてきたのだが、会話らしい会話もなく本当に歩くだけ。 お互いが互いに気を使ってるためである。 チラチラと隣から此方を見る視線だけが感じる。
「あの、今どこに向かってるんですか?」
その静寂を切ったのは瀬徒、魅力的な女体のせいで霧がかった脳内を必死に探し、見つけた問い。
「私行きつけの喫茶店があるの...... そこのコーヒーが美味しくて...... 」
未だ顔に灯した熱が冷めてないのだろう、うつむきながらも聞こえる声で言ってくる。唐突な名前呼びでここまで衝撃を受けるているのだ。 一見男慣れしている所作もその実は初心。実際彼女も恋なんて初めてでどう行動したらいいのか手探りの状況。
なんとも気まずい空気なのだが目的地につく事で一変する。
「__此処がお気に入りの喫茶店ですか...... いいお店ですね」
それはお世辞とかではなく本音、自身が手伝いをしていた喫茶店とは趣向が似ていて落ち着いてる。
「ほんとに!ここ友達がやってるんだ! 気に入ってくれて嬉しいな〜」
さっきまでのチグハグな雰囲気も変わり晴れやかになる。満面の笑みを浮かべる彼女はさながら向日葵。そんな花に手を惹かれ扉に手を掛ける。
「いらっしゃ...... わっ 葵! えぇっとお隣さんは...... うわ凄い美形ね」
入店を告げる音と共に奥から現れたのは一瞬男装の麗人と見まごうほどの人物。 美人の友達もやはり美人なんだなぁと思ってると...... 強く再び組み直した腕を締めてくる。 正直痛い。
「むぅ、今見惚れてたでしょ?」
口を尖らせ睨みつけて来る...... 滅茶苦茶怖い。
「あら〜仲睦まじいのね? もしかして.......?」
そんな意味深な感じで言わないで欲しい。あぁ彼女が__
「え?ウソ!?そう見える? ねぇ見える!?」
体をくねらせ悶える。そんな姿に見惚れる他のお客さん、 そして集まる嫉妬の......あれ?
この時瀬徒は気付かなかったのだが、一瞬でも向けられた嫉妬の目線も直ぐに飽和するのは彼の容姿あってこそだ。 男ですら見惚れてしまうほどに。
「ちょっ、ちょっと落ち着いてね。はぁまだそういう関係じゃないのね?」
呆れた様に呟く店主さん。いつの時代も恋話というのは女性の興味を掻き立てるのであろう、グイグイと迫り質問をしてくる。
「んで 彼女とはどういった関係で?」
いきなり核心を突く質問、ここで生徒と先生ですなんて絶対に言えない。 気づけば他にも静聴しているお客さん。 そこまで気になるのだろうか? 落ち着いた雰囲気ではなくただ音はないが男性たちが醸し出す闘気に気後れしそうだ。
未だ席に案内されず立ち尽くしてしまう。回答を誤れば血祭りに上げられそうだ。不安げにこちらを見上げる彼女、どこか期待してそうな面持ちも__
「__いつもお世話になってるんですよ ははは......」
これが正解だと言わんばかりに目を見て答えるが......
「あらら〜 どうやら葵はそうは思ってもないみたいだけど?」
機嫌悪そうに顔を背けるが組んでる腕は頑なに離さない。 心臓の鼓動が腕に伝わる。自身の出した解答にえらく不満げだった。 いやその訳はわかってんだ。だけどそれを口にしたらいけない気がする。
「とりあえず席案内してもらっていいですか?」
場所を変えることで話題も変換。意図的にカウンターから遠い席へと案内して貰う、それは店主と会話をしたくないからだ。 いつかボロが出そうで怖い、まるで母親の様に鋭い彼女に恐怖を覚えてしまう。
「それにしても凄いですね彼女 なんかこうグイグイ来るかんじが......」
メニューを取りに下がったのを好機に話しかける。席に座っても尚視線が痛い。
「玲がごめんね...... 彼女恋話とか大好きなの、多分私との関係気づいてるよ?」
「まじすか......?」
だろうなぁとは予想してたけど... あれ?急に不安になってきたぞ?
「心配そうにしなくてもいいのよ?彼女とは長い付き合いでそんな意地悪な子じゃないし」
ほんとですかね?あれどう見てもドSでしょ? 質問してるときの彼女の顔を見ましたか?凄い嗜虐心溢れる顔して楽しんでましたが? あれはおそらく独し......
_____________ゾワッ
急に悪寒に襲われカウンターを見れば深く黒を灯した瞳と交差。それは不埒な事を考えた自分を咎める様な店主の視線ではなく、深く睨め付ける様な__愛憎を灯した視線。その発生源は......
「あれ?神崎さん?」
唯一応援に来てくれた一人のクラスメイト、神崎遥がそこにいた。
次回で閑話終わらせます。4月 28日は休ませていただきます。ごめんなさい。




