向き合うモブと大満足なお嬢様
「__おい、何だよあの美人さん」
「__すげぇ」
「__お人形さんみたい......スタイルもいいなぁ」
「__高校生かな? 誰か声掛けに行けって」
集まる賛美を一心に受け闊歩するのは学園の美少女たちではない。言わずもがな彼女達も視線を受けるのだがその比ではない。それはメイドを伴い唐突に絡んで来たイレギュラー。
やはりその女神を思わせる美貌は人の目を惹きつけるのだろう。天然のスポットライトも彼女を際立たせるために優しく包み込み、天上の美しさを放つ。 集まる視線に邪な視線などない、一同感嘆と羨望を宿す。
一挙手一動に注目が行く。蜜に釣られる蟻のように、とやかく考えることを放棄した少年少女はフラフラと後を付いていく。そこは熱気を封じた釜__体育館のように人が密集している。 圧倒的なカリスマ性も併せ持つ彼女の色香にたぶらかされない男なんていないだろう。声を掛けようとしている男子がいるのだが互いに牽制しあっている。 不安定な均衡、一石でも投じたら崩壊しそうなほどに。
(__やっぱり一緒に回らなくてよかった......)
遠目から群衆を眺める瀬徒、デートの約束も取り付けられ、一緒に見て回ろうと提案されたのだが拒否させてもらった。その訳は今も彼女に群がる群衆を見れば明らかだろう。 俺がアフロディタ......ソフィーと回ったら嫉妬で殺されそうだ。無論彼女はそんなことを許すわけないが男の嫉妬もまたドロドロと粘着質で恐ろしいのを俺は知っている。
そんな鬱陶しい状況でも、涼しい顔で人当たりの良い笑みを振り撒き続ける彼女を見れば
恐らく日常がそれ何だろう。流石は名門の跡取り娘と言ったところか? ああやって群がれても涼しい顔で居られる方法があるなら教えて欲しい。
遠くからでも、彼女の慈愛こもる笑みで骨抜きにされた男女の影が確認できる。あぁやって勝手に憧れ、期待し、想われるという重圧をモノともしない彼女が羨ましく思える。だって......
__自分はそれから逃げたのだから......
太陽という自然のスポットライトも己が罪と向き合うこの時だけは役者を引立てる光ではなく、その罪を罰すかのように灼熱を伴い、身を焦がしてる気さえしていた__
「__よろしかったので?」
群衆の中心、ザワザワと騒がしい中一人のメイドが私に耳打ちをする。何がよろしかったのか__そう私が愛して止まない一人の殿方の事だ。 今も周りを威圧し近付けさせないよう睨みをきかせているもう一人のメイドも気になるようだ。
「えぇ、まさかこの学園におられるとは思いませんでしたわ。」
本当に偶然遊びにきたこの学園。今も尚血眼で探しているであろう影の猛者達よりも数歩先にリード出来ただけでも大満足。これ以上を望むのは”贅沢”というものだろう。
「フフッ まさか私が贅沢だなんて思うなんて......」
何でも手に入る彼女だからこそ新鮮なこの感情。いくら金をかけても手に入らないであろうモノがそこにはあった。
久しく見るその上機嫌な態度にメイドも顔を綻ばせる。 彼女が乳飲児の頃から仕えていたのだ。不敬に思われるかも知れないが娘だと思っていたし、だからこそ彼女の幸せを第一に考えてきた。 その確かな幸せへの一歩を今日踏み込んだのだ。 すっと肩の荷が降りそうになるがまだまだ序章、これから艱難辛苦が彼女を苦しめるのかも知れないが最後まで仕えようと改めて決意をする。
「ですが本当によろしかったのでしょうか? 一緒に運動会を回るだけでも距離がグッと近付くと思いますが......」
くどいようだが当たり前な疑問だ。あれ程会いたいと思っていた相手に会えたのだ。積もる話もあるだろう、変わった自分を見て欲しいだろう。
「良いのですわ、彼が変装をしてまで隠したいと思ってるのならそれを尊重してあげるのが女としての__将来添い遂げる妻としての務めですわ。」
愛の国で出会った一人の女性__師匠の受け売りだ。不思議と師匠に彼の面影を重ねる時があった。彼と同じ黄金を溶かしたかのような金髪に透き通る碧眼、 遠い地で活躍してるだろう師匠に思いを馳せる。
「__まぁそれに......不穏な影も気になりますし」
真剣な面持ちになりながら不安を孕む声色で語る。影は今も躍起になって彼を探しているだろう。
彼を探す傍らお互いの動向を監視、僅かな変化も見逃さない。ちょっとした変化も目敏く気づき、感ずくかも知れない。__自分が彼と出会ったことを......
それほどまでに神経を尖らせているのだ。自分は運よく再開できた。彼女達よりも数歩先にいると自負してるがいつ追い越されるかはわからない。焦って先急ぐのも失敗の元、それは中学の時に学んだ事だ。
未だ取り囲むように付いてくる群衆もそろそろ鬱陶しくなったのかメイドに視線をやり人払いをさせる。
(デートの約束も取り決められたしRINEも手に入られましたわ!!それにソフィーと愛称でも呼ばれた!)
もはやこれ以上価値のある物はないと言わんばかりに自身の携帯を抱き寄せる。うっとりと眺めたあと目の色を変える。その瞳には決意を灯し__
闇を払いのけ光を掴むソフィーアの物語が始まるのだった。
何だか自分の地の分くどいですね...... もう少し整理できるように努めます。




