入学式のモブ2
これから三年間お世話になる桜良学園についても尚視線が痛い。 そういう事に敏感な瀬徒だからこそ異様に感じられるのだ。 中学の時受けていた視線とは全く違う視線。周囲の真新しい制服を着飾った新春の匂いを発する少年少女達からは距離を取られ、一部には陰口すら叩かれている始末。
「うわぁあんな奴もいるんだな」
「正直気持ち悪いよね......」
「なんか臭そうじゃない?」
過去に受けてきた賛辞の声とは180度真逆の言葉をコソコソと。だけど悲しいかな瀬徒にははっきりと聞こえていた。
(__もっと小さい声で言ってくれませんかねぇ......)
指は刺されてないもののこちらを見て陰口を叩けば周りの目も自然と集める。 そして一様に顔を顰め距離を取ろうとする。自分では大して気持ち悪いとは思ってはいないが第三者からはどうやらそうじゃないらしい。 自身の変装については誰からも感想を言ってもらってないので見切り発車で出て来たがどうやら失敗らしいのは周囲も見ても明らかだ。
それでも尚変装をとくつもりはない。流石は進学校だと言うべきだろうか。髪を染めている生徒なんている訳もなく全員が黒髪。だからこそ素の金髪は目立つのだ。銭貨のなかの金貨の如く一番目をつけられるのは想像に難くない。
刻々と入学式の時間が迫る中、瀬徒とは対照的に多くの視線を集める人影が見える。身長はそこそこだがアイドルみたいに甘い顔をした一人の男性。その面持ちは威風堂々としている。
(俺との視線の差よ......せめて普通の人として扱ってほしいなぁ)
落胆したってしょうがないだろう。自分が選んだ道なのだから......
「もう会場に行くか......」
まだまだ入学式が始まるまで先だが此処に居たって嫌な視線を集めるだけ。カツラとマスクを確認して瀬徒はトボトボと会場に急ぐのであった。