邂逅するモブ
サッカーとは対照的に熱狂溢れる体育館。 そこでは熾烈な争い__もとい試合が行われていた。
相手は上級生の二年生だがそれでも気負いしてない伊達率いるバスケチーム。 身体的な差も物ともせずに一進後退の戦いを繰り広げる。 伊達はバスケ経験者のようで、ボールを自らの手のように巧みに動かす様は有名な曲芸師のようで......
「__やっぱここは凄いな......」
先生とのデートの約束を無理やり組まれた後、俺は人がごった返す体育館へと足を運んでいた。 本来はこんなむさ苦しい空間、女性は嫌がりそうなのだが、多くの女子生徒でごった返していた。
ただむさ苦しい空間にわざわざいる理由は__
”__伊達くん頑張って!!”
”__ファイトォ!!”
”__キャアアアアア”
学年問わず彼の応援をする女子を見れば人気なんて一目瞭然、 流石は人気のある行事と言ったところだろうか? 他所の高校の生徒も一緒に応援に加わっている。
伊達が活躍する都度上がるその爆音、伊達に向けられる黄色い声もアドレナリンで活性化しているチームメイトの面々は自分にかけられてると勘違いをし士気をうなぎ登りに上げる。
歓声が上がるたびに戦況も変わっていく、大方戦意によるものだろう。 応援に答える形で疲れているにも関わらず攻撃的な動きをする彼らに対し相手は防戦一方と化している。 相手にとってはアウェイな環境、さぞやり辛い環境であっただろう。結局、変わった戦況は最後まで変わらず、伊達チームの勝利となった。
『勝者、1年2組!』
勝利のアナウンスと共に姦しく鳴り響く歓声。学校の美少女......ハーレムたちも諸手をあげて喜んでいる。
ヒーローでも見てるかのようなうっとりとした視線の先に汗を流し中々に凛々しい伊達の姿。 ハーレムたちが駆け寄るのを血の涙を流しみる周囲の男子達。 異常に蒸したこの空間から逃げるように瀬徒は退席する。
「__ふぅ」
座りながらほっと息をつく。あの煩く、熱気あふれる釜から一転、新鮮な空気あふれる外へ出た。 未だ体育館は人が多いのだろう。
外の人口密度は低く、春特有の匂いを撫でながら来る爽やかな風と合間って心地のいいブレイクタイムを味わっている。 思えば休憩らしい休憩なんて久しぶりかも。
”__ねぇ!バスケの試合凄かったらしいよ!”
”えぇ〜 そっち行けばよかった〜”
どうやら伊達たちの活躍は外にまで漏れてるらしい。 それほどまでの試合、2回戦目でこれだ。
順当に勝ち続ければオーディエンスも増えるだろう。なんとも伊達ハーレムが増えそうだ。
今日の行事はもう終わり、サッカーのメンバーは全員応援に......佐藤くんは行方知らず。必然的に一人、応援にいくにもまたあんなサウナみたいな所に行くのも気後れるし何よりも人酔いしそうだ。
適当に時間を潰そうと立ち上がり始めると__
ふわぁっと風が靡くと同時に懐かしい高級香水の香りを醸し出し現れたのは一人の女性とメイド服をきた二人の女性。
__いつの間に?
そんな疑問すら覚えずに戦慄する。 だってそれは__
「オホホホホ!」
何処かの成金お嬢様の造ったような笑みではなく、純粋にご機嫌な高笑いと共に登場。側で支えているメイドさん達もクラッカーを鳴らしその登場を彩っている。
装いは女神、綺麗な白金色の髪を流し西洋人形を思わせる顔造。そして見るものを拐かす蠱惑的な肉体美、ハーレムなんて目じゃない美女がそこにいた。
「お久しぶりですね。隠してたってバレバレですわよ」
__久しぶり、 そう俺はこの女性と知り合いだ。 中学時代やたらめったらアプローチを仕掛け、唐突にいなくなった彼女__ソフィーア アロディタ。
今も緊張で胸の鼓動が聞こえそうだ。無論それは色恋沙汰での心拍ではなくもっとも別の__
ん?今の自分は変装しているはずだ。それはもう気味が悪いほどに。 なんで彼女は気付けたんだ? まさか他にも気付かれたり......
「御心配なさらずともたまたまここに来たら貴方がいたのですわ!これも赤い糸で結ばれてるのですわ!」
興奮し美しい顔を破顔させながら捲したてる。その横でメイドさんがウンウンと頷き拝聴している。
「アロディタさん お久しぶりですね。どうしてここに......てかなんで分かったんですか?」
1番の疑問で一番知らなければならないこと。何か変装に綻びでもあったのか、理由によれば今のところ穏やかな生活に満足している自分に陰りがさす。
何処か神妙な顔をする彼女、まさか本当に__
「愛ですわ!」
「え?」
「Love is power!!」
そう華奢な腕を今も爛々と輝く太陽目掛けて掲げる。さながら太陽の女神のようにも見えるのだが......
「いやいや 理由になってませんよ、本当に教えてくださいって」
なんか欠陥があるべきなら知るべきだ、早く教えてくれ。
「まぁ強いて言うなら本当の愛の力......ですわよ」
「ホントウノアイ......? なにそれ何処かに売ってるんですか?」
い、意味がわからない。中学の時何かと奇行が目立っていた彼女だが今回のは度が過ぎている。
「貴方が教えてくれたのでしょう?忘れたとは言わせませんわ!告白の時ですわよ!」
「__あっ」
すぐに思い出した。あの今にも脳内に残る壮大なファンファーレと共に滲み出る記憶。じわじわと......
本当の愛ってんのは見てくれだけじゃなく中身もって意味で言ったんだが...... メイドさんの射殺すような視線が怖い。
「思い出しました...... ごめんなさい」
何はともあれ女の子の一世一代の告白を忘れたなんて不誠実過ぎるだろう。自身の過失はすぐ謝らなければならない。
「オホホホ、いいのですわ。償いさえしてくれれば......」
何でも手に入る彼女に何か欲しいものがあるのだろうか?固唾を呑んで続きを聞く。
「__デートをしてくださいまし!」
主役と言わんばかりに日光というスポットライトを浴び、お嬢様ではない純粋な乙女の笑顔が一層際立つ。 白金の風が物語の歯車を回すのであった。