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公務員、異世界で勇者に求婚される  作者: 弥永 みき
異世界公務員、求婚される
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乙女たちの恋模様4


 飲み会はレトラの家で開催するらしい。確かにマリナの部屋でどんちゃん騒ぎは難しいだろう。下手したら、罰が当たってしまいそうだ。

 レトラの家への道中の話題はもっぱら年齢の話だった。同じか、年上だと思っていた勇者様は一つ年下の二十三歳。レトラは二十七歳。マリナは十八歳。勇者様からマリナと同じくらいの歳だと思われていたことは心外だったが、なによりも驚いたのはアルベリッヒの歳だった。


「あぁ、アルベリッヒ?あいつは千三百歳くらいじゃなかったかしら?」

「え!?アルベリッヒ様が!?」

「むかつくでしょ!?あの若作り爺め!」


 珍しくレトラが激しい口調を使ったことにも驚くが、あの外見で、あの腰の低さで千歳を超えていることの衝撃の方が大きかった。というか、十回以上死んでいてもおかしくない年である。死亡届の出し忘れや戸籍の不正な残留を疑ってしまうのは職業病だと言ってもいいだろう。まさかアルベリッヒ七世というとかいうことはないだろうか。


「長命族の出身なのよ」

「長命族?」

「そう。リサの世界にはいないの?」

「いないですね」


 やっぱりファンタジーの世界だ。日本との相違点を見つけるたびに、この世界にとって自分は部外者なんだということを痛感させられる。それが寂しくもあり、諦めるための良いいいわけでもあった。


 レトラの家はメインストリートから少し入ったところにあった。木造りの洒落たアパートは、こだわりの物件らしい。若草色を基調とした爽やかな壁紙と、一つ一つが品の良い家具や小物。デザイナーによって作られたといっても過言ではないくらいセンスの良い部屋に目を見張った。失礼な話だが、レトラがそんな趣味をしているように見えなかったのである。


「適当にご飯とおつまみ作って飲むわよ!リサが飲めるなんて、思ってなかったわ。いつも一人で飲んでたから、嬉しい!」


 惜しげもなく美しい笑顔を見せて腕まくりをするレトラは台所で買い物してきた食材や酒を取り出した。


「レトラ、作れないのに」

「え、そうなんですか?」

「うん……いつも私が作ってる。リサ作れる?」

「多少なら……」

「じゃあ、一品おねがい」


 腕まくりをして準備万端の踊り子さんは、取り出した食材をマリナに渡しご満悦なようだ。慣れているらしいマリナが肉や魚を吟味していく。梨沙もそれにならい買ってきた食材を一つ一つ見ていく。さて、何を作ろうか。


 たっぷりのじゃが芋の細切り、にんにく一欠けらをみじん切りして、卵でとじる。ホカホカのスパニッシュオムレツにトマトを煮詰めて味付けした簡単なケチャップを添えると部屋中にいい匂いが広がった。


「リサ、料理できるじゃん。おいしそう!」

「うん、いい匂い」

「あ、りがとうございます」

「あれ、照れてるー?」


 ストレートに褒められることなんてそう多くはないのだから、照れるのも仕方ないのだ。


「それより、マリナさん、本当に料理が上手なんですね」


 彼女が用意した料理は手軽に作れるものだが、少しずつアレンジが効いている。ハーブバター塗ったバケットに、バジルとトマトの炒め物、茹で鳥にはゴマのソースがかけられ、白身魚もパセリと共にフリッターになっていた。香草やハーブを使う料理が得意なのだろう、こちらもいい匂いがふんわりと香る。それにナッツと焼き菓子、チーズも皿に盛られ、テーブルいっぱいに料理が並べられた。

 

「いやぁー、二人ともいい嫁になるわ」


 大量の料理を前にして、レトラは嬉しそうに笑った。それから席に着き、マリナはジュースを、レトラと梨沙は葡萄酒をグラスに注いだ。


「神に感謝を……それからうちの聖女様にも」


 祈りの言葉のあとに悪戯っぽく言葉を重ね、レトラはグラスを上げた。梨沙とマリナも控えめにそれに倣う。

 くいっと煽り、プハッと息を吐いたところで、レトラはそわそわと切り出した。


「いい嫁、と言えばさぁ。二人はどうなの?」

「レトラ、今日はいつにもまして強引」

「だってえ、今日は、リサもいるんだよ?気になるじゃん。レスリードのこと」

 

 口に含んだ酒を吹き出しそうになるが、なんとか飲み込む。酸っぱめの葡萄酒だが、そのキレの良さが現実逃避をさせてくれなかった。


「な、なんのことですか」

「ちょおっとお姉さんに恋の進展を話してくれるだけでいいのよ」

「マリナさん……!」

「レトラは恋バナが好き」


 それは見ればわかる。この会はただの飲み会じゃなくて女子会だったとは!

 

「お酒が入ったレトラほど無敵なものはないんだから、早く話した方が身のため」

「あららら、マリナが先陣切るの?」


 頬が少し赤いお姉さんは、瞳を怪しく輝かせ、マリナに詰め寄った。


「……私は何度も、話した」

「リサは知らないでしょ」


 レトラがマリナの頬を軽くつつくと、マリナは少し頬を膨らませて梨沙の方を見た。お酒を飲んでいないのにその頬が赤いのは照れているからだろう。


「……私の好きな人は、勇者……レスリードの弟、エドワード」


 一瞬、梨沙の息が止まったのをレトラは見逃していなかったのだろう。マリナから離れ、今度は梨沙の隣に陣取った。


「リサ、今ちょっとびっくりしたでしょ。ショック受けた?」

「い、いえ?」


 嘘だ。心臓が止まりそうなほどびっくりした。この愛らしい少女が勇者様を好きだったら、何度も考えてきたことなのに、心はそれを受け付けてくれなかった。


「別に、勇者様が他の誰と結婚しても私は関係ありませんし」

「いや、あいつ、リサとの結婚しか考えていないとおもうよ」

「でも、勇者様はお姫様とか、ほら幼馴染とかと最後は結ばれるものです!」

「ふーん。でも、この国、王子ばっかで姫いないし、幼馴染もいなかったと思うよ」

「そう、ですか」


 言い訳が見つからないことに焦りながら、心の奥底で喜んでいる自分がいた。なんの障害もなければ、彼は自分を選び続けてくれるんじゃないだろうか。そんな淡い期待を持った自分が浅ましくて、涙が零れそうになる。何を期待してしまっているのだろう。

 私は、物語のお姫様ではないし、ましてや登場人物でさえない。紛れ込んでしまった異分子。分かっていた。分かっているはずなのに。

 これではまるで、梨沙もレスリードのことを好きみたいじゃないか。降って湧いた考えを打ち消し去りたくて、梨沙は目の前の酒をあおった。


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