009 再会
ジルバートの商店街の一角、海に面し、彼方まで見渡せる通りをドミニクが歩いていた。街灯が等間隔に続き、月も出て、明るい夜道だった。
先ほどのラーメン屋からはさほど離れてもいない場所だ。どうやらいつの間にか怪盗が消えていたといういうことと、絵も盗まれたという報道がされて、ドミニクは帰宅していた。
昼間もさほど人通りが少ない通りでもあり、彼の他には人気はなかった。
海を見渡すと、星と月が穏やかな水面に映っている。ただ、静寂に包まれた光景をぼんやりとした様子でドミニクは見ていた。
「明日は、店どうするかな……」
誰に聞かれることもなく呟く。開けても開けなくてもどちらでも構わない。
ふと、彼は夜道の先に目をこらす。街灯の間の光に照らされていない場所に人が座り込んでいることに気がつく。どことなく、ぐったりとした様子で、酔いつぶれた人間か何かに見える。が、近場で普通の飲み屋なんかはさほどなく、わざわざこんな場所、ちょうど彼の住まいと店を兼ねた家の前にいるというのは妙だった。
少しばかりの警戒と興味本位をもって変わらぬ足取りで近づいていく。
そこには、栗毛の優男が一人力なく座り込んでいた。うつむいて、目線の先にはタイル張りの道があるだけだ。男の傍らには大きなドラムバックが置かれていた。
ワイシャツに紺色のパンツに革靴を身につけ、歳はドミニクとさほど変わらないか、やや上程度だろうか。
右手だけは力強く左腕をつかんでいる。つかんでいる部分には布が雑に巻かれ、布には何かしみこんでいる様子だ。
「珍しいね」
正面から優男を見下ろしながら呟く。
「やぁ。助けて欲しくてね。頼める? 」
優男は、ようやく顔を見上げてドミニクの顔を見た。顔立ちはスッと整い、夜道でも顔が絹のように白いことが判る。
だが、呼吸は乱れ一見して誰にでもしんどいそうであることがわかる。
「うん。入りな。怪盗スモークさんっと」
「今は、雨音って呼んで欲しいな」
ドミニクはシャッターの降りた店先の横にあるドアを開けて、店に入り、優男はドラムバックをつかみ、フラフラと続いていった。
夜道には人がいなくなり、水面には星と月が映り込んでいるだけだった。