005 犯行
「煙と何とかは高いところが好きといいいますが……。私は両方ですから、もっと好きだということでしょうか?」
誰にも聞かれることもないにもかかわず、彼は丁寧でゆっくりとした口調で一人呟く。
暗闇の空。
輝く街。
天と地を結ぶかのように、そびえる鉄塔に一人の男が街を見下ろしていた。
世界屈指の歓楽街である眼下の街に紛れる一つのビルディングを見定める。
足首まで届こうかと言うほどに伸びた白髪が強風にたなびき、真っ白で上品そうなコートも髪と同じようにたなびいていた。ただ、異質なのは表情のない真っ白な仮面を付けているということだろうか。
世界で最も繁栄している都市『ジルバート』。
ビルディングから漏れる明かり同士が互いのビルディングを鮮明に写しだし、遙か彼方の地上では走っていく車が見える。
この区画は上級区のビジネス街であったし、時間も遅く、それほど賑わいなど無いはずだった。
が、鉄塔にいる男が見る先のビルは全ての階の照明がともっていたし、地上、屋上には幾人もの商会の警備員が巡回していた。
「さて、そろそろですか」
懐中時計を懐へとしまい込み、男は真横に置かれた鉛色の兵器に手を差し出す。
それは全長五メートルほどの巨大な人の形をしたモノだった。リンクアーマーである。
左手には四角い盾が握られ、右手にはメイスが握られ、腰には二本の長剣をさし、背中には銃器らしきものが二つ背負われている。
また、両肩にはそれぞれ胴体を覆うほどの肩盾がついていていた。当然のことながら、サイズはリンクアーマーの大きさに合わせたものなので、人間から見ればいずれも巨大なサイズとなる。
男は身軽そうにリンクアーマーの上に飛び乗った。そして、真っ赤な手袋をはめた左手の指先を複雑に動かす。
リンクアーマーの目が赤く光り、脚を折り曲げ、鉄塔の上から大きく飛翔する。夜空に人が飛び乗ったリンクアーマーが浮かび上がっていく。
ただ、高く。
鈍重そうな鉛色の鎧が重力を感じさせずに、跳んでいく。
鉄塔から五十メートルは飛翔したところで、両肩の盾からから爆発的に青白い光が漏れ、急加速する。最新鋭のリンクアーマーに搭載されていることの多い加速装置である。その仕組みは圧縮し熱したガスを爆発させて加速するというなんとも原始的な機構である。
肩盾から光の尾を残しながら、リンクアーマーが向かう先は、一つのビルディング。
白い男は、リンクアーマーににしがみつき、相変わらず左手を複雑に動かしながら、その一つのビルディングの十階の大きな窓を見据えていた。
突如として、リンクアーマーの背中に装備されていた12.7ミリ口径のライフルから数発の銃弾が続けざまに撃たれ、見据えた先の窓へと吸い込まれるように着弾し、大量の煙と共に破裂する。
慣性のままに煙に包まれた窓へと落ちていった。
宙に残ったリンクアーマーは、もう一度肩盾から爆発的な光と音を漏らしながらビルディングから離れていく。
ビルディングを中心に全てがあわただしく、歯車が動き出した。