040 帯刀
二人はジルバートの北西部に位置する工業区画にいた。
背後には窓のない同じ形をしたビルディングが等間隔に続いている。商業区画に比べれば、華やかさの真逆を追い求めたような無味乾燥な区画である。
その二人が眺めているのが、新しく作られている工業区画であった。時間は、昼も過ぎて、あと二時間ほどで日が沈む頃合い。天気も快晴であったが、やはり人気は少ない。
「第七期開発計画に来年完成予定の第四工業区画だ」
サイラスが、ここまで自分で運転してきた真っ黒なジープの屋根に手をつきながら話す。
「人は? 」
ドミニクが細長い袋を肩に担ぐように持って言う。
「あぁ。工事は工場を半分ほど設置したんだが、残りの工場の製造がかなり遅れてな工事は中止している。今は監視センサーだけの無人の区画のはずだ」
先ほど仕入れたばかりの情報を告げる。
「ふーん」
「港からの移動ルートを推測して、ここに潜伏している可能性が高いだけなんだがな。実は、潜伏先は他にもあってな」
警備隊のローラー作戦と監視カメラには逃走犯らしき人影が映ってはいなかった。しかし、その死角を考査すれば、自ずと怪しい場所が出てくる。問題は、その死角も、その死角から割り出されるルートも多すぎるということであるが。
「警備隊とかは来てないの? 」
「あとからな。ま、入ってみようぜ」
そういって、サイラスは手帳型のデバイスを操作する。そうすると、海中から幅二メートルほどの足場が浮上してくる。やけに凝った仕掛けがあるようだ。
「ふーん。だねぇ」
ドミニクは細長い袋から、刀を取り出す。鍔から鞘の先までが一メートル近く。真っ黒な鞘に真っ黒な柄とシンプルだったが、唯一奇妙な点は細い鎖が幾十にも鯉口に巻き付けられていた。複雑に巻き付けられて、簡単には抜刀ができそうにもない。
鎖を外すだけでもずいぶんと時間がかかりそうだ。
それをドミニクは腰に付けたホルスターに固定する。この長さの刀を身につけるにしては奇妙だったが、サイラスは慣れているのか何も言わない。
さらにドミニクは、刀を固定すると、ポーチから真っ黒な手袋を取り出して両手へとはめる。手首にある二つのボタンを留める。
「ま、居なくてもここを潰せば、かなり居場所は絞れるはずだ」
「そっ」
二人は、戦闘が起こるということを知ってはいるのに、ずいぶんと気楽そうに脚を進めていった。




