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037 取引

 この世界には、キーパーズと呼ばれる秘密結社が存在している。

 元々、この世界には地球からの転移した者達がときどきやってくる。

 そういった人間達のことを、この世界の住人は異邦人と呼んでいた。

 しかしながら、そういった認識はされていながらも、何故転移するのかも戻り方も分からないままであった。

 多くの異邦人は、結局は言葉を覚えてこの世界に住むことを余儀なくされる。


 しかしながら、そういった異邦人がもたらす技術や知識は、時と場合によっては世界の均等を崩しかねない危険性をはらんでいた。それは大昔からの共通の認識であり、地域によっては異邦人は災いをもたらすとまで認識され、迫害されてもいる。

 世界の均等を保つために、かつて存在した騎士団や教会、修道会、図書館などが異邦人の保護、管理を目的とした組織を作り上げた。

 それこそが、秘密結社キーパーズである。

 現在も異邦人を保護、地球からもたらされたものを回収し、希望すれば生活基盤の補助を行う。

 それだけであれば、きっと秘密結社になどなっていなかったであろう。


 キーパーズは、地球からもたらされた技術、知識を独占し、それを元手に多額の資金を稼ぎ出している。それどころか、異能や魔術に関しても大陸屈指の技術力まで持っていた。

 結果的に、キーパーズは大陸でも屈指の戦力と情報、技術、資金を持った組織へと成長していた。


 これについては、都市連合体軍やジルバードも黙っているわけにも行かないのだが、そこからもたらされる地球の技術は捨てがたく、結局、表面上は取引をしつつも水面下ではにらみ合っていた。


 さて、そのキーパーズには、異邦人の捜索、保護を目的とした調査会が存在し、何人もの調査官が所属している。

 その調査官が一人が、クリストファー・フライ、その人であった。

 彼は今、ジルバードの一角を歩いていた。

 スーツに黒のコートを羽織って、黒髪は首元に届かない程度に長く、癖毛なのか緩いウェーブがかかっていた。肌は白く、彫りの深い顔立ちであった。都市は三十代後半といったところだろうか。

 地球で言うところの白人系の外見をしているが、事実として、彼はロシア出身の異邦人であった。


 ジルバードのとある一角のビルディングの間の狭い道を抜けていくと、水路が流れていて、小さな橋がかかっていた。当たりには全く人の気配は無かった。

 そこに、眼鏡をかけて、金髪碧眼のアーミーコートを羽織った男が欄干に手をついて、水路を見ていた。年齢は三十代といったところであろうか。コートの下は動きやすそうなラフな格好をしている。

 だが、クリストファーの目には、コートの下に拳銃を隠していることを見抜いていた。


「やぁ、良い天気じゃないか?」

「五月蠅い黙れ。呼び出しておいて、後から来るな」


 朗らかに声をかけたクリストファーとは裏腹に、非常に不機嫌で攻撃的にサイラスが言った。

 現在、ジルバードの一部区域には警戒網が敷かれ、住民の無闇な外出を自粛させていた。

 それは、ジェミニと呼ばれる賞金首が港で大量殺人の事件を引き起こしたからである。犯人は現在も逃亡中である。

 本来であれば、サイラスは都市警備隊の副隊長として捜索に当たっているはずなのだが、とある理由からここにいて、本業は非番扱いになっていた。


「悪いね」


 とクリストファーがさほど悪いとも思っていない様子で応えた。

 その態度に、サイラスが眉がピクンと動くが、どこ吹く風である。


「お前が動いたから、俺が特別調査委員会の人間として動く羽目になったんじゃないか?」

「かもしれないな」


 ジルバード商会の内部には特別調査委員会と呼ばれる組織があり、表向きは各種専門家による調査を行い組織であるが、その実態は、その各種専門家という工作員によって組織された秘密裏に動く治安維持組織である。サイラスは、表向きは警備隊にいならがも、裏の顔としてこの組織にも属していた。


「まぁいい、事情は?」


 割り切った様子で、サイラスが問いかける。クリストファーは、橋の欄干に後ろ向きで肘をかけた。


「表向きには情報が出ていないが、ジェミニは一人の異邦人を人質にしている。その異邦人は、異能持ちだ。つまり、キーパーズとしては保護対象となる」

「そいつは、初耳だな」

「都市に入る前からマークしていてね。あまり荒事にしたく無かったが、その結果が今の事件だ。うちの部隊を向かわせた方が良かったかもしれんが後の祭りさ」

「ふむ」

「とりあえず賊二匹にキーパーズが動くのもいい顔はしないだろうから、こちらは情報面では全面的に協力するつもりだ」


 キーパーズが実力行使で動けないのは、この都市がジルバードが全面的に管理しているからに他ならず、


「その代わりに、異邦人を無事なまま引き渡せか?」


 サイラスは、考え込む。

 確かに、キーパーズの情報網は大陸屈指であるし、協力を得られるのは助かる。

 人質も、異邦人だというのなら、どのみちキーパーズに預けることになるだろう。

 デメリットらしいデメリットはないように思える。


「WINWINだが、どうだ?」

「わかった、取引成立だ。委員会に直接情報を送ってくれ」

「わかった。さて、お前さんはこの後は、大忙しの捕り物劇かな?」

「そうだが?」


 そこで話を切って、サイラスはクリストファーに背を向けて足早に歩き出す。

 しばらく、その背を見送ってから、クリストファーは反対方向に歩き出していった。

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