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034 来店

 結局、テロリスト達の正体は軍に警戒されていた組織であることは判明し、わかりやすい反ジルバードとしてテンプレートのような要求を突きつけていた。

 一見、解決したかに見えたが、ドミニクには疑問が残る。

 何故、わざわざソードギルドを狙ったのか。あの挑戦者と暗殺者の正体は何なのか。

 幻肢痛が癒えず、一晩中眠れない彼は、そのことに考えを巡らせて、朝が来た。


「んっんっ」


 相変わらずロフトから師匠の声が聞こえてくる。ドミニクは、そっと毛布から抜け出して、店の外に出た。相変わらず、空気は冷たく、潮の香りが鼻を突き抜けていく。


「やっぱり、色々とおかしいよねぇ」


 ストレッチをしながら、呟く。

 ある意味、彼本人を狙ったかのような部分が目立つことも気になっている。テロリストが狙ったと言うよりも、第三者がテロリストを利用して騒動を起こし、狙ってきたようにしか見えない。

 心当たりは、一つだけある。

 それは、かつて所属していた特殊部隊のことだ。いわば、彼は脱走兵だ。つまりは、それが理由で命を狙われたのでは無いか。

 だが、わざわざ末端の脱走兵の命を狙うだろうかという疑問も残る。証拠隠滅のために自爆までする徹底ぶりに、そこまで人材を使い捨てるだろうか。


「分からないなぁ」


 頭をボリボリとかき、一人呟く。

 そうして、店先の椅子に座って、海を眺めていると、客が来ることも無く昼になった。

 いつものように、店を閉めて、いつもの店へと向かう。

 暖簾を潜り、カウンター席に座る。一面にアリーナのテロの記事が載せられた新聞を読んでいる店主の泉は、あいかわらず何も言わない。

 仕方なく、メニューを見て、あーでもないこーでもないと考えてから、注文をしようとした矢先に誰かが店へと入ってきた。

 師匠かと思って振り返ると、赤いずきんを着けて白い杖を付いた少女、レッドガールの姿が目に入る。


「へー」


 ドミニクは、面白そうに彼女を見る。

 不慣れな店内をゆっくりと歩いて、レッドガールはドミニクの横に座る。


「同じものを」

「まだ、注文してない」

「あら、そう。では、いつもの」

「初来店で無茶言うね」


 意外としれっとした態度で注文するあたり、この店向きと言うべきか。それとも、こんな客しか来ないと言うべきか。


「失礼、目が悪いのでメニューが分からないの」

「オススメはタコス」

「おいっ!」


 ここに来て始めて店主が声を上げた。


「ラーメン屋だ、ラーメン屋! ラーメンを注文しろ!」

「だって」

「ラーメンは食べたこと無いですねぇ。どうしましょうか」


 と赤ずきんの少女が悩み始めた時、さらに店内に侵入してくる人物がいた。

 扉が豪快に開けられる。


「店主! 酒だ。ドンペリをじゃんじゃん持ってこい。シャンパンタワーだ!」


 ドミニクに師匠、マリアであった。マリアは遠慮無く、ドミニクの横へと座る。いつ起きたのか知らないが、格好が変わっていないことを見ると、起きたばかりかも知れない。


「メニューにねぇよ」


 泉が、最早怒る気力すら湧いてこないのか、肩を落としながら呟くように言った。


「なんだ、ドンペリはないのか!?」

「ドンペリもグラスもあるが、メニューには載せてねぇだろ!」

「あるのか? 何故、ある? あるなら出せ! さっさと出せ! 観念して出せ! 出さなかったらどうなるかわかっているのか! 私もなにも考えていないぞ!」

「考えてねぇのか!」

「では、考えるか、店主、何をされるのが一番困る?」

「メニューにない物を注文されることだ!」

「そんな奴いるのか?」

「おめぇらだよ!」


 泉の非難は、カウンター席に並んで座る三人にそそがれる。

 問題は、三人とも気にしてすらいないことであろうか。


「お、見知らぬ顔だな。うむ、悪くない」


 マリアが今更気がついたようにレッドガールを見る。


「初対面ながら、もしかすると失礼になるかもしれないし、気を悪くするかも知れないが、割れ目酒の器になってくれないか?」

「本当に失礼どころか変態だろ!?」


 泉のツッコミが店内に響く。


「なんですかそれ?」


 レッドガールが首をかしげる。


「うむ、われめ酒とは」

「説明せんでいい! おい、こいつらどうにかしろ!」

「え? 私?」


 ドミニクが意外そうな顔をする。


「お前が事態の中心人物だろ!」

「えー心外」

「はあ!?」


 かくして、何の目的でレッドガールが来たのかも不明なまま、年中閑古鳥の鳴くラーメン屋は賑やかであった。

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