033 始末
「ぷっは」
流石のドミニクも焦って、冷や汗が頬を伝っていた。
相当の強度を誇るアリーナと観客席を仕切る窓に蜘蛛の巣状にヒビが入りこんでいる。
「自爆?」
周囲には、リンクアーマーの粉々になった残骸が転がっていた。挑戦者の機体を探すが、胴体らしき装甲が落ちているだけで、恐らく挑戦者も爆発したと推測する。
テロリスト達も挑戦者も爆発した。
分かるのはそれだけで、ヘカトンケイルの八本腕は胴体を守るようにガードさせた故に、六本が根元から吹き飛んでいた。
だが、それがあったからこそ、防ぎ切れたと言って良い。
「痛ッ」
ドミニクが顔をしかめる。
リンクアーマーとは感覚を共有しているので、機体が傷つけば、その痛みも共有することになる。
ドミニクの体には、六本分の腕を失った痛みと全身に受けた爆発の痛みが同時に迫ってきている。
この痛みの感覚は厄介で、リンクアーマーとの接続を切ってもしばらくは幻肢痛のように残る。恐らく、しばらくは痛みで眠れないだろうと、久しぶりの幻肢痛に顔をゆがめる。
『大丈夫?』
「なんとか」
レッドガールは、離れていたのでさほど大きなダメージは無いようだ。
ただの爆発だけなら、ミスリルの装甲は耐え切れただろう。問題は、爆発によって、ミスリルの装甲が高速で飛んでくることだ。
「修理費とかさっ引かれないよね」
軽口をしてみるが、やはり巨大な体躯の大きな痛みで、頭痛まで引き起こし始めた。
結局、テロリスト達は殲滅されたが、自爆によって証拠隠滅をはかられてしまった。
仕方なく、ドミニクは痛みを引きずりながら、ガレージへと向かう。
テロリストと挑戦者の命をかけた覚悟とあっけない幕引きに、思うことはなかった。そういうものだと、思っているのだ。
ガレージには、整備員達は一人も見当たらない。やはり、一時的に退避したのだろうかと思いながら装甲を開く。
「お、ちゃんと開いた」
が、誰も居ないと思っていたのに、開いた箇所から人影が見える。
そして、剣が差し込まれてきて、ドミニクは右手の義手の甲で受け止める。
「このっ」
刃の峰を甲で叩き、剣はコックピットの中に突き刺さる。そこで、件の人影はあっさりと剣を手放して姿を隠す。
追いかけて、コックピットから這い出ると、既に人物はリンクアーマーから飛び降りていた。
「逃がさないよ?」
異能でリンクアーマーを操り、の残った手で剣を投げつけると、床に深々と突き刺さり、人物は足を止める。
そこで、ドミニクは既に降り立っていた。人物が、振り返り様にナイフを引き抜く。ナイフを義手で受け止めながら、格闘戦が始まる。
人物は、どこにでも居そうな中年の男だ。しかし、その目には生気が無い。殺意さえもなく、全ての感情を押し殺したような気配のなさであった。
暗殺者、その単語が思い浮かぶ。
ハイキックを繰り出して、ナイフを持った手にヒットすると、ナイフを手放した。
そこにすかさず、胴に義手の一撃を繰り出していき、動きを止めた瞬間に頭を掴む。
「何者かな?」
義手を操作し、圧倒的な握力でガチガチに締め上げていく。骨がきしみ、肉が食い込んでいく。
「がっああああ」
激痛に苦しみ出すが、その目は変わらない。敵意すら消した、完璧な暗殺者であることを悟る。コックピットでの不意打ちも、あまりの気配のなさに反応が遅れたのだから、相当の特殊訓練を受けてきたとした思えないはずだ。
「あが」
男が自身の胸元に左手を差し入れる。
「やべ」
何かに気がつき、すぐさまに男を投げて後ろへと飛んだ瞬間、爆発音とともに男ははじけ飛んだ。辺りに肉片と血がまき散らされ、胴体が血まみれになった男は倒れ伏していた。血だまりが広がっていき、血の臭いが鼻につく。自爆で、ほぼ即死だったと思える。
「またか……」
ドミニクは、疲れて幻肢痛に苦しみながら、結局警備の人間が来るまで待っていた。
こうして、ソードギルドを狙った前代未聞のテロは終結したが、解決されることは無かった。




