032 凶刃
迫るミスリル製の槍を、ヘカトンケイルは腰から生える二本腕が握る剣で受け止める。
「……そういうことなのかな?」
ドミニクが、挑戦者を見ながら呟く。
こんな時にわざわざ攻撃を仕掛けてくるなど不可解きわまりないが、テロリストの仲間だとすれば理にかなう。
ヘカトンケイルの八本腕が、変化自在に動き回り、挑戦者を捕らえる。
再び、嵐のような猛攻を仕掛け、行き着き暇も無いほどに攻撃を浴びせ続ける。
挑戦者は、小刻みに動きながら、槍で受け止めていく。
「容赦は無いなぁ」
相変わらず、操縦桿もペダルも使っていないが、ドミニクは自身の異能を最大限にまで発揮し、複雑怪奇で膨大な情報を脳で受け止めていく。
観客席は、突如として始まったエクストラバトルに混乱しつつも見入っていた。Aランクからすればさほどでも無い見てくれだけだと思っていた、ヘカトンケイルが凄まじい動きをしているのだ。とても、信じられないような光景にショックを受ける観客も少なくない。
挑戦者が、距離を取って槍を構える。
走りながら、ヘカトンケイルの背後にでも回り込もうとしているようだったが、本気を出したヘカトンケイルは、そのスピードにさえも追随する。
挑戦者が、接近するかのようなフェイントを入れたかと思うと、引き、そして傍らに転がるテロリスト達のリンクアーマーを蹴り上げた。
蹴られたリンクアーマーが、ヘカトンケイルの目前に迫ってくる。
「邪魔」
リンクアーマーは宙で、八本の腕で切り刻まれる。
だが、その機体の影に潜んで挑戦者は飛んできていた。槍が、頭部を捕らえ、突き刺さりかけるが、ヘカトンケイルは僅かに膝を曲げて、最小限の動きでかわした。槍が、頭部すれすれを貫く。
同時に、肩の裏から生えている二本腕が、挑戦者の両腕を捕らえた。槍を落とした瞬間に、他の剣が、次々と挑戦者を切り刻んでいく。
脚が落ち、両腕が落ち、頭部が切り落とされ、最後の最後に胴体がアスファルトの床にたたきつけられるように落ちた。
雌雄は決した。
挑戦者は、テロリスト達共々にただの残骸になったのだ。
「終わりかな?」
『終わった?』
ガレージに通じるはずの扉から、真っ赤なリンクアーマーがゆったりと歩いてくる。
両腕に巨大な斧を持ち、全体的に丸っこく重厚感溢れる機体だ。
これこそ、レッドガールの搭乗機であった。
両手の斧には血らしき液体が付着して、床へと垂れていく。
ソードギルドは、彼女にもテロリスト殲滅を依頼していたのだった。
「終わったよ。疲れた」
『報酬に期待できるわよ』
「そりゃそうだね」
最早ドミニクには、腕の良かった挑戦者のことなど記憶から薄れかけていた。最早、興味など無い。テロリスト達のことも興味は無い。
あとは警備隊なり軍なりに付きだして終わりだろうと思っていた。
しかし、アリーナは突如として大規模な爆発に巻き込まれた。




