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030 挑戦

 ソードギルドのリンクアーマーアリーナのガレージにいたのはドミニクだった。

 目の前にあるのはヘカトンケイルである。

 相変わらず、整備員達は忙しそうにしている。その理由は、この機体のパーツというパーツが全て特注品であり、腕の数も多いという構造も特殊であることに由来する。

 本来なら、実戦投入が不可能なほど整備性が悪いのだ。

 どこで誰によって作られたのかさえも不明な機体であり、ソードギルドもどこで手に入れたのか不明である。

 ドミニクが察するに、どこかの工房か軍が試作したものが偶然ブラックマーケットにでも流れ、ソードギルドが買い取ったと踏んでいるが、一品物のリンクアーマーなら良くある話でもある。

 ちなみに、この機体の所有権はソードギルドにあり、ドミニクには一切の権利は無い。

 もっとも、これほどの機体を個人で所有して運用するなど不可能に近い話である。


「今日はどんな相手?」


 カツカツと杖を付きながら歩いてきたのは、アリーナチャンピオンであるレッドガールであった。当人は、視力に障害をもっているが、リンクアーマーに乗れば、機体の視力を得ることができる。そうなると、あとは圧倒的な操縦センスによって大半の相手は蹂躙される。


「知らない」


 ドミニクは、手短にチャンピオンに答える。事前に対戦相手を調べたことなど一度も無い。


「そう。私も調べたことは無い」


 レッドガールもまた、そうであった。

 アリーナ始まって以来の、最強のチャンピオンもまた、事前調査などしない人間であった。

 時々、話すが、何故アリーナのチャンピオンとなったのか、そもそもどうしてリンクアーマーに乗っているのか、そういった経緯についても何も知らない。

 結局、両者ともに、厄介ごとに関わりたくないために、人に対して距離をとっていた。そういう点では、両者は似ているとも言える。


「そうか。ところで今日はファストフードは?」

「ラーメン屋でケバブ食べてきたから無いよ」

「そうか、残念。……ん?」


 なにか妙なことを言ったなと思ったが、ドミニクは整備の終わったヘカトンケイルへと乗り込んだ。

 機体は武器を持ち上げて、アリーナへと向かう。

 アリーナには既に挑戦者の機体が待ち構えていた。

 観客も今日は九割ほどの席が埋まっているだろうか。

 今日に関しては、オッズを見る限り圧倒的にヘカトンケイルが優位になっている。


「珍しいな」


 こういうときは、相手の活動歴が短いか実力が無いときであるが、それ以上に妙であった。

 今日はソードギルド側から、全力で戦い見極めろという珍しい指示をされている。

 少なくとも、掛けた人間は、ヘカトンケイル優位と認識し、ソードギルドはその上で、全力での見極めを支持している。


「きな臭いことはやだな」


 そうこう思っている内に、試合が始まる。

 挑戦者の機体は、腰の左右に小剣を差した上で、両手で槍を持っている。

 機体は、全体的に流線型だ。両肩に盾を付けているのは、最近の流行であるが、いずれにしろ見たことの無い形状をしている。恐らく一品物だろうと推測する。

 内部の骨格や人工筋肉は他の機体とほぼ同じで、外側の装甲だけが違う一品物なら幾らでもある。

 いつも通りに、それほど大したことはないだろう。

 そう思っていた。

 試合が始まった。

 挑戦者は、試合開始と同時に真正面から走ってきた。それは、疾風どころか正に弾丸と言って良い素晴らしいスタートダッシュである。


「速い!」


 ドミニクが驚く。

 そう、動作が恐ろしく柔軟で精密で速い。恐ろしく高い適正値をもったパイロットが乗っていることを瞬時にして悟る。

 だが、無謀にも真正面から接近してくる相手に、四本腕の剣の嵐のような攻撃を繰り出す。

 が、瞬時にして四本の剣をかいくぐって、槍を頭部に突き刺しにかかる。

 ヘカトンケイルは後ろへと飛びながら、頭部を剣で防御する。


「あぶな」


 ドミニクは、思わず、冷や汗が垂れて、腕の甲でぬぐう。

 判断が、一瞬でも遅れれば、開始数秒で頭部を破壊されていた。

 真正面から迫る度胸と技術に判断力は、これまで戦ってきた挑戦者とはひと味違うことを身にしみて理解する。

 一体、何者なのかという疑問がわいて出てくるが、考え込む間も無く挑戦者が迫ってくる。


「これ、本当に本気で行かないと」


 四本腕を複雑怪奇に操り、突撃を裁いていく。普段なら、あまり動かないが、ヘカトンケイルの全速力を出して、柔軟で素早い攻撃を仕掛けていく。

 挑戦者は、何の苦も無いように、自在に駆け抜けて、的確に関節へ攻撃を仕掛けていく。

 どうして、四本腕での攻撃を槍一本で裁ききれるのか、それすらも分からないほど恐ろしく速い。並のパイロットが一動く間に、二、三は速く動いている。

 

「ちょっとまって、聞いてないこれ」


思わず、慌てて呟く。

 どちらの機体も全力で動けば速い。

 しかし、図体の大きい分、ヘカトンケイルが小回りが効かずに、挑戦者に翻弄されていた。実力なら十分にAランク、否、Aランクでもトップクラスの実力にも等しい。何故、これほどまでの実力者が今になってアリーナに来たのかも分からないが、今は弾丸のように速い相手をかわしきるので精一杯だ。

 既に試合開始から数分が経過していたが、両者の戦闘は激しさを増すばかりである。

 だが、突如として、その戦闘は中断された。

 両者が距離を取って構え直した時に、ガレージに通じる扉が破壊された。


「え?」


 思わず視界に入ってきた異常に目を見張る。

 破壊された扉からは、全体的に角張った黒いリンクアーマーが何体も出てきた。槍や槍斧など、長物を持っている機体が多い。

 見る見るうちに、二十数体のリンクアーマーが、ヘカトンケイルと挑戦者を取り囲む。


「運営、どうしたの?」

『……正体不明戦力、恐らくテロリストに攻め込まれています』


 ソードギルドの係員から無情な事実が突きつけられる。


「……マジかよ」


 その日、ソードギルドアリーナはテロリストに占拠された。

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