表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/42

028 曖昧

 目覚めは曖昧だった。

 ドミニクは、ボンヤリと半目を開けたまま、暗い部屋の天井を見つめていた。

 朝は静かで、驚くほど静かで、驚いている自分に驚く。

 未だに、喧噪の無い朝になれていない。

 未だに、喧噪の無い起床になれていない。


「ん、んん」


 ふと、ロフトから女性の声と布のこすれる音が聞こえて、身構える。

 が、彼の師匠、マリア・イッポンバシが数日前から滞在していたことを思い起こして、力を抜いた。


「起きよう」


 ボソリとつぶやき、毛布をはねのけて、ゆっくりと起き上がり、一階へと降りていく。

 店内には、服と雑貨が適当にディスプレイされて、経営者の意欲を疑われるような状態であるが、実際問題さほど意欲は無い。恐らく、こちらに本気で取り組んでも生活は出来ないだろうと思っている。

 店の外に出ると、まだ空気が冷たかった。

 この街の朝にもなれてきたような、そうでないように思いながらもストレッチを始める。

 潮風は穏やかだったが、空気は驚くほど冷たく、見渡す限り通りに人通りは無い。

 ストレッチを終えて、両手の手袋を外す。


 両手首から先は、銀色の義手になっている。ミスリルの手甲の中に人工筋肉を入れて、人間の手の構造を模したものである。その点についてはリンクアーマーと同様の構造である。

内部に動力源として魔石も組み込まれている。

 しかし、本来はそこまで精密に動かすことは出来ないはずであった。


 人間の手のように動かすことが出来るのは、彼の人形遣いと呼ばれる異能があるからだ。

 触れた人形を自由に動かすことが出来るという異能であり、念動力系の異能の一種だ。

 彼は、この異能を用いて規格外のリンクアーマーであるヘカトンケイルを精密に動かすことが出来る。もっとも、大量の情報を処理できるのは、元からの適正値が高いというのもあるが。


 異能は、特定個人に備わった能力だ。

 その異能を解析して、不特定多数にも扱えるようにしたのが魔術である。

 ただし、全ての異能が解析されているわけでも無く、彼の人形遣いもまた、解析はされていない。元より、非常に希少な異能なのだ。

 リンクアーマーへの高い適正値と人形遣いの異能は、リンクアーマーパイロットとして、最高とも言える適性を持つに至ったと言えよう。

 しかし、彼にはそのことが良いことだとは思えていなかった。一度も思ったことは無かった。


 彼はもとよりこの街で生活してきたわけでは無い。

 大陸中央から北部の国で育った。

 孤児で肉親のことなど何も知らず、スラムで生きていた。物心ついたときには、両手は無かった。

 北部の冬は厳しく、毎年多くの孤児が飢餓と寒さで死んでいた。

 両手の無い彼が生きるには、非常に厳しかった。

 そんなあるとき、孤児院へと強制収容された。そして、異能を持っていることが発覚し軍へと売り渡された。

 軍としては、異能を魔術解析することに意欲を持っていたからだ。

 しかし、彼の異能は未知数過ぎて結局、解析は失敗に終わる。

 捨てられるかと思いきや、今度は軍の特殊部隊に回される。

 それからは、ひたすらに薄汚い仕事をし続けて、部隊が壊滅したのを機に逃げ出して、この街に辿り着いた。


「三年ね。長いんだが、短いのだか」


 まるで人間の手のように自在に動く義手を見ながら、呟く。

 結局、戦うことしかできないのなら、戦い続けるだけであるのだが、果たして他に出来ることは無いのだろうかとは思える。


「朝ご飯、つくろっか」


 ひとまず他に出来そうなこととして、何気ないことをしてみるようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ