026 結末
港近くの倉庫街で、一人の男がコンテナに囲まれた場所で、うつぶせになり、両手を頭の上にのせていた。
件の美術館の館長である初老の男だった。
その男に大型のリボルバー拳銃を突きつけているのは、サイラスだった。
「大人しくしてろよ。下らん計画練りやがって」
「うう」
館長は震えながら、声を漏らす。動きようにも動けない状況だった。両足にプラスチック弾を撃ち込まれていた。貫通性能よりも衝撃力を重視しただけであり、両足の骨は砕け、筋肉は麻痺していた。
「副隊長、ありました! 今、確保しました」
コンテナの間を通ってきた三人の隊員の一人が報告をする。
「了解。警戒態勢は現状を維持。館員と鑑定士の配備を急がせろ」
「了解しました」
「容疑者も確保し、基地に運んでぶち込め」
「はっ」
一人が、通信機で連絡をし、残りの二人が倒れている館長に、ミスリルで出来た手錠をはめて、さらに首にも拘束具をつける。
やや乱暴に、引きずるように連れて行く。館長はうめき声を漏らしていたが、隊員は気にする様子もなく運んでいく。
サイラスはようやく拳銃を胸元のホルスターに納め、次に胸ポケットから細長い箱から普通の倍ほどはある長いタバコをくわえる。ライターを取り出そうとしたとき、隊員が行った方向とは別の方向から一人の背広の男が現れる。
「此度は、申し訳なかった」
そう良いながら、男はライターを取り出してサイラスのタバコに火をつける。
サイラスは、口からふぅと紫煙を吹き出す。
「ロック氏。加減を知らんのならしょっぴくぞ」
サイラスは不機嫌そうに言う。
「本当に、申し訳なかった。警備隊にも、怪盗にも」
ゴンザレス・ロックは、冷や汗を拭き取りながら言う。
「まさか。このような事態になろうとは」
「とかく、あんたの情報には助かったが、本当にいい加減にしておけよ? しばらくは大人しくしているんだな」
「ええ。そうします。しかし、何故館長だとわかったのですか? 」
「あぁ? 特別展示室の展示品が全て、魔術の立体映像だと知っていたのは、美術館関係者ではあの館長と技術屋の二人だけの機密事項だ。俺たちも特別室にいるA班以外には知らせてなかった」
特別展は、そもそもが、イミテーションすら必要としない特殊なフロアで一月も行われていたのだった。
魔術で、本物にしか見えない立体映像を作り出す、世界でも最先端技術が詰まったフロアだった。
本物は全て美術館の地下にある保管庫に納められているはずであった。そこも特に警備を厳しくしていたが、影踏を使う雨音に気がつかず、あっさりと盗み出されていた。
が、雨音が盗みに入ったときには、そこに納められているもの自体が全てイミテーションであったわけであるが。
「あの真っ白な怪盗は、わざわざ立体映像を作り出すような手間やら技術はもっているとは思えなくてな。演出はあいつらしかったが、出来そうにはないんでな。それで、所在確認をとれば、館長だけが失踪していやがった。まぁ、映像も全て全部消してしまったがな」
「はは。つまらない失敗をしたわけですか」
「そういうこった。ったく、こんな場所に全部持ち出してきやがって。あそこの美術館の管理体制は全部見直しだろうな。閉鎖、下手すると廃館の可能性もある」
サイラスは言って、腰のホルスターから携帯灰皿を出して、タバコの灰を落とす。
「事後処理が大変だね」
「誰の所為だ? 誰の? 」
サイラスは、さらに不機嫌そうに言って、深く煙を吸ってからタバコをもみ消した。
「さて、欲深い馬鹿は、どう処分されるやらな」
サイラスはそう言って、歩いていく。ゴンザレスは彼にはついて行かず、別の道へと歩いて姿を消していった。
コンテナの壁を抜けた先には、埠頭が広がり、いくつもの警備隊の装甲車が停まっていた。水平線の彼方を見ると船と朝日が見えてくる。その光にサイラスは目を細める。
「結局、徹夜か」
始末書に大量の事後処理。彼はまだまだ寝られそうにもなかった。
ジルバートに、夜明けの光がおしよせてきていた。




