023 決着
先に動いたのは、怪盗スモークだった。
こういった窮地を戦い抜くことも出来なければ、怪盗など続けられない。逃げてばかりではどうにもならないと考えての、戦いへの覚悟が胸に秘められ、それは声として出ていた。
「はぁぁぁ!!! 」
仮面越しに、声が響き渡る。腕と胸からは血が流れ、身体の半分は真っ赤に染めている。
姿勢を低くし、フランベルジュの引き金を引く。炎は上へと向かう。それだけ、リーチが伸びる。
賞金稼ぎは、怪盗スモークの右手に回り込みながら、刀を振るう。が、その刀を振動カッターのスイッチをONにして振り払い、受け止めようとする。一見すれば、振動していることさえも判らないカッターだが、固定しているだけで、刀を切れる。
賞金稼ぎは、一度刀を戻して構え直して怪盗スモークの後方へと下がって、刃を水平に払う。
姿勢を立て直そうとした怪盗スモークの白髪を首の辺りから切断する。うなじには、ほんの数センチの傷ができ、血が吹き出す。
気にはせずに、フランベルジュを顔の横から真後ろに向け放つと宙に浮いた白髪を貫いて炭化させて、右手のカッターを向けようとしたとき、炎を避けながら、賞金稼ぎの片手が螺旋を描くように突き出される。
刃は蛇のように右腕に絡みつく。
怪盗スモークは、身体と腕を前に突き出し、カッターで賞金稼ぎを貫こうとする。が、賞金稼ぎはさらに後ろへと飛んだ。
右腕に螺旋を描くように真っ赤な線が瞬時にして走り、血が噴き出し、カッターは振動を止めた。電源を供給するケーブルごと斬られた。だが、逃れようと後ろに退けば、さらに傷が深くなっていた。前に退いて、刃をたわませて少しでも密着しないようにしたおかげだった。
右手が使えなくなった。痛みの割には嘘のように血が噴出する。
残る左手は、傷も治っていない。だが、刃によって遮ることが出来ない炎を撃ち出せる銃を握っている。
再び、引き金を引いた。これが、もしかすると最後の弾丸かもしれない。
脚がもつれ、カッターを杖代わりに地面に突き刺しながら。炎を賞金稼ぎに向ける。
炎は一直線に伸びていったが、虚空を突き刺しただけだった。
賞金稼ぎの身体は伸びた左手の内側にあり、宙でクルリと一回転していた。
怪盗スモークの左肩から太ももにまで、何かが触れた感覚はなかった。刃も見えなかった。
ただ、いつの間にか、少なくとも自分の目で見るときまでには、血が噴き出していた。超高速の一太刀だった。
怪盗スモークは左手の拳銃を落とし、後ろへとよろけ、一度尻餅をつき、カッターを杖に、何とか力を振り絞り、微かに立ち上がって、また後ろへとよろける。酔っぱらいのようにも見える無様な動きだったが、怪盗スモークの身体はすでに真っ赤に染まっていた。
(ま、まだだ)
左腕の内側の袖から、小さな拳銃を取り出すと同時に、引き金を引くが、弾丸が撃たれる前に、銃身と頭の先を風が通り抜けた。
賞金稼ぎは、容赦なく自身の持つ最高速度で刀を振るっていた。
最後まで隠していた小型の拳銃も破壊され、雨音は仰向けに倒れ込む。倒れ込んださいの衝撃で、白髪のカツラが外れる。
「おや、やっぱりカツラですか」
怪盗スモークが霞む視界のまま賞金稼ぎを見上げる。何か驚いた表情をしている。
「うーん、でもはげじゃない」
「髪が、は、薄い、みたいに、言わないでください! 」
最後の気力を振り絞って言った言葉はそんなことだった。声を上げると同時にあちこちから噴水のように血が吹き出る。
「がはぁ! 」
橋の真ん中で、怪盗は横たわり、賞金稼ぎは刀を軽い調子で持っていた。
「はは……私、なんて、全然……だったん、ですね」
「私としては、ここまで本気を出すとは思っていませんでした。久しぶりに、良い腕ならしになりました」
死力を尽くしたところで、賞金稼ぎにとっては、練習程度のものであったらしい。
出血量から死に瀕し、既に動くことさえもできないことを悟り、怪盗は仮面に手をかけた。




