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019 煙幕

 既に日が暮れ、夜も更けている。

 既に、ドミニクの店にいた女学生が楽しみにしていたドラマが中止され、特別番組も報道されている。

 美術館にほど近いビルの屋上の物陰に、雨音は居た。真っ白なコートを羽織ってから、長く銀色のカツラを付ける。さらに、胸につけたホルスターに大型の拳銃をしまい込む。ホルスターには銃弾を入れたカートリッジをいつもの倍の数がセットされている。

 さらに他の細かい道具も身体へとしまい込んでいて、雨音は最後の確認をしていく。


「いきますか」


 誰にも聞かれることのない言葉を呟き、雨音は最後の仕上げとして、真っ白な仮面を付ける。雨音の穏やかな顔が仮面に覆われる。

 見つめる先は、件の美術館。

 ジルバートの系列故に、都市警備隊が美術館の周りに配備についていた。十台近い装甲車両が美術館を守るように停車し、ライフルを持った警備員が警戒態勢をとっている。別のビルの上には狙撃兵まで配備され、さらに十機近いリンクアーマーが美術館の周りを巡回している。

 さらに、美術館から三百メートルは離れたところにメディアとギャラリーが集まっていた。


「軍相手だと、厄介ですね」


 ふうと息を吐いて美術館を見直す。

 すぐに海に面した場に立地し、美術館の周りは公園となっているが、それだけに警備員も配備がしやすかったような様子が見える。


 しかし、たった二日前に予告状を出したということで、警備隊も数も装備も準備不足であるが、賊一人に対しては十分すぎる警戒態勢だった。とは言っても、雨音にとっては数自体は無意味に等しいとも言えるが。


 美術館は、同じサイズの立面体をいくつも適当に重ねたような形状をしていた。

 真っ白な外壁と、真っ黒なガラス。白と黒の山。見ようによってはピラミッドに見えなくもないが、そう見える側の真逆から見れば、箱で出来た波が襲いかかってくるようにも見えるという、単純な要素で複雑な形状が作られていた。


雨音は最後の最後のチェックをかねて左手につけた手袋を確認する。この手袋は、リンクアーマーを遠隔操作できる魔術が組み込まれた特殊なものだ。本来なら、リンクアーマーは乗りこまなければ動かない。リンクアーマーと感覚拡張と共有ができないからだ。それをこの魔術手袋は補助してくれ、遠隔操作が可能となる。といっても、操作自体は難しく、なおかつリンクアーマー本来の性能を引き出せているとは言い難いのであるが。


 そこから左腕の怪我を。完治などしてはいない。未だにずっとジクジクと痛むほどだ。左腕をギュッギュッと握り、力の入り加減を見れば、本調子とは言えない。指先を動かすだけでも、痛みが変化して痛みそのものに慣れることもない。


「仕方なし」


 とだけ呟く。


「では、演じさせていただきましょうか」


 怪盗スモークは傍らに置いておいたドラムバックを開くと、巨大な金属の固まりが出てくる。先端には六つの銃身。曲線美を描きつつも、武器としての禍々しさが見える。スコープを出し、銃身をのばす。

 雨音はそれを右の肩に担ぐ。人差し指はトリガーを握りしめた。


「バーン」


 とつぶやきと共に、トリガーを引き抜く。

 六つの銃身から連続で十二発の発煙弾がとぐろを巻くように軌跡を描き、煙を吐きながら美術館の周囲に打ち込まれていく。


 行き着いた先で、弾は破裂し、さらに大量の煙をまき散らしていく。

 ただのスモークグレネードではなく、チャフの効果もある人と機械のどちらも騙し、たった一発でも瞬時に広範囲に効果を及ぼす代物だ。それを十二発同時に撃ち放った。


 ランチャーを傍らに捨て、ビルから飛び降りる。ほんのすぐ先は、既に煙のカーテンが待ち受けるが、足は止めない。

 煙の壁を有していながら、雨音は視線と気配を読み取って影踏みを行う。煙の中では、突如としての煙に混乱が起きているのか、怒濤が聞こえてくる。無線機越しの声がノイズ混じりに聞こえてくる。


(警備隊は、やはり良い装備ですね)


 普通の無線機なら確実に遮断できるというのに、そして、煙で覆ってからほんの数秒だというのに、すでに通信は復活し、各員への連絡が取られている様子だった。


 だが、それでも怪盗スモークの動きは止まらないし、誰もとらえることは出来ない。

 そのまま美術館にまでたどり着き、さらにその上へと登っていく。天窓にまでたどり着いたとき、煙が晴れてきたが、迷わずに窓を打ち破って、館内へと侵入を果たす。侵入と同時に、影踏を一度止める。


 長い髪とコートをたなびかせながら、エントランスへと重力を感じさせずに、ふわりと着地する。

 エントランスにも警備員が十人はいた。


「怪盗スモーク、参上させていただきました」


 銃を向ける警備員に優雅に一礼する。


「こちらエントランスC班。目標がエントランスに侵入しました! 」


 一番怪盗スモークから離れていた警備員が通信で連絡をしているのが見える。


「では、ごきげんよう」


厳しい顔つきをした警備員に早々に別れの挨拶をする。

 怪盗スモークのコートの両袖からは煙が噴出し、再び怪盗スモークは煙の中に消えていく。

 怪盗スモークは姿を隠した瞬間に、再び影踏を行い、煙から飛び出していった。

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