018 常連
服とアクセサリーを扱うドミニクの店。その店が開店も閉店も営業時間もさらに定休日さえ決めずに経営しており、営業そのものを気まぐれでしか行っていない。
何故にそこまで気まぐれとなっているかといえば、店を出そうと言うことからして気まぐれだったわけで、服を扱おうと考えたのもそろそろ服が欲しいと思っていたタイミングだったわけであり、その程度の理由でしかない。
もし腹が減っていたらタコス屋かなにかだっただろうし、音楽でも聴いていたら楽器かなにかでも売っていただろうし、メイドが欲しくなっていたらメイド喫茶でも経営していたかも知れない。
つまり、そのぐらいに大雑把な経営方針をもった店であったわけであるが、その日は店を開けていたし、数少ない常連客の女学生クリスティーナが来店していた。
「デザインはこんなもんでいい? 」
「オッケー、わーすんごい素敵。ごめん、今私嘘ついた。つーかぶっとばすー! 」
ドミニクがカウンター越しに常連客にスケッチブックを広げている。
そこには悪魔を模した巨大なネックレスだったり、なにやら生理的に受け付けにくそうな触手を模したチョーカー、指を喰おうとしているようなネズミの頭を模した指輪エトセトラエトセトラ。
と悪魔崇拝者やパンクロックの音楽家なら好みそうなデザインだったが、いかんせん絵でもリアルすぎる描写であり、禍々しさしか伝わってこない。
「蛙も翼もないし! 」
女学生はカウンターを両手でバンッとたたき、抗議する。
「えー、自信作なのに」
店主は悪びれる様子もなく言う。
「まぁ、おまけをいいとして」
「おまけにしては凝り過ぎでしょうが。リアルすぎるよ」
ドミニクは女学生の言葉を無視して、スケッチブックをめくる。
そこには、リアルな蛙に羽の生えたという奇妙な絵が描かれていた。リアルというよりも劇画である。
「いや、だから、リアルすぎるから。可愛くないし! 指輪でもないし! 」
「えー、自信作なのに」
「こんなのに自信を持つなら、こんな店やめちまえ! 」
女学生にこれでもかと言うぐらいに暴言を吐かれるが……ここまで暴言を吐かれるような絵を描いてしまったドミニクにも責任があるようにも思われる。
「っていうか、店長のことだから、どーせちゃんと描いているんでしょう」
と女学生が勝手にスケッチブックをめくると。
「あっ」
「なっ」
「……題名、楽園」
「だから、リアルすぎるからーっ!」
顔を真っ赤にしながら、女学生がスケッチブックを天に放る。
「あ、こら」
ドミニクはそんなことを言いながら、最高点に到達し落ちてきたスケッチブックをバシッとキャッチする。
「店長のエロティック! 」
「ほめ言葉だ! 」
「ほめ言葉かよ! 」
「もっと、うまくかけたのがここらあたりに」
「見せなくていいから! 十五歳にえげつないもん見せつけるな! 」
女学生が再び叫ぶ。小さな店に二人しかいないわりに騒がしかった。
「さてと、ちゃんと今度こそ見せてくださいね。変なものを見せないでくださいね。私は一応花も恥じらう年頃の女の子ですからね」
「自分で、一応ってつけちゃったね」
「うるさい」
「っていうか、一番えげつないものは、自分でめくって見たんだし」
「うるさい」
ドミニクは、怒られたことも気にせずに、スケッチブックをめくり、一番最後のページをめくった。
「こんなもんでどうよ」
「ほー」
女学生はふむふむと言いながら、スケッチブックを手に持って眺める。スケッチブックには小さな羽が生えた小さなかわいらしい蛙がちょっと乗っかった指輪の絵が描かれていた。
「おー、いいね。エロティズム店長が描いたとは思えない。あ、色ってどんな感じに出来るの? 」
「エロティズム店長としては、暗い金というか、銅の方が、シルバーよりも立体感が出て渋みもでるから、良いかなと思うけど? ってか、シルバーだと高くつくしね」
「あ、じゃあ、お任せする」
「了解。じゃ、一週間ぐらいかかるから」
「え? 二年ぐらいかかるかと思った」
「私に一体どれだけ魂込めさせる気さ」
ドミニクはスケッチブックをぱたりと閉じて。
「ま、素晴らしく狂おしいほどに愛しいリングにするよ」
「ふーん。あれ? 」
と女学生がカウンターの傍らに置いてあるテレビを見る。
『先日の犯行からちょうど一週間と、これまでの犯行では最も短いことになります。繰り返します、怪盗スモークからの予告状が届いたのはジルバート財団設立第四美術館です。予告状は昨日の朝に届き、先ほど警備隊から発表がありました。狙われている品は明日終わる特別展にて展示されている美術品とされていますが、さらなる詳細については発表されていません』
とキャスターが告げていた。お昼のドラマが止められて、速報がてらに特別番組が放送されていた。
「あーあ、今日じゃん。どーせ、特番やるから二連続でドラマが見られないし。スモークのアホー! ハゲー! KY! ○漏! 」
女生徒がありったけの怒りと罵声を見ず知らずの怪盗へと向ける。
「女の子が、そういう罵声を大声で言うのはどうかと思うけどね」
ドミニクはスケッチブックを傍らに置き。
「ま、本当に、素晴らしく狂おしいほどに愛しい、馬鹿だね」
ドミニクはふうと息を吐き、立ち上がって入り口から青い空を眺める。
「×××××! ×××××! ×××××!」
「だから、叫ぶなって」
さらなる差別用語と俗語を大声で連発する女学生をドミニクは、一応たしなめた。




