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016 依頼

 三日後の夜。

 雨音はゴンザレスの部屋で椅子に座っていた。しかし、部屋の主は不在ある。影踏できたものの、鍵は自分で開けて、わざわざ閉めていた。


 怪盗と名乗っておきながら、実際のところは、鍵の解除といったスキルは不得手である。素人の域を出ず、街の鍵屋さんのほうがまだまだ全然腕は上といったところである。


 こういうことも怪盗としては中途半端だろうかと思いつつ、一向に部屋の主が来る様子もないので何か本でも読もうかと立ち上がる。

 本棚を眺めると、特に著者やジャンルで分けられているわけでもなく、強いて言えば大きさが似ているもので固められているようでもある。が、文庫程度の物にいきなり図鑑が混じっていたりとやはり、一貫性がない。部屋の主の髭ともみあげの境目ぐらいに、分別は曖昧だった。

本棚の中にある、 一冊、どうも宗教かなにかについての本を取り出そうとしたら。


「ぬ、抜けない……」


 スチールの本棚に完全に埋まっていた。直方体のものを三列に並べて、引き抜いては積み上げていく某ゲームを三時間ほどしたときぐらいに、引き抜きにくい。

 下手に抜こうとすればスチールの本棚ごと倒れてくるだろう。某ゲームのように崩れ落ちるのではなく、押しつぶされる。真後ろにも本の山。救出活動は難航を極めるに違いない。


「はあ、多いな」


 ドミニクのところへは、つい昼間に行き、菓子折を置いていった。ただし、本人は居なかったため、勝手に鍵を開けて部屋に入り、文字通りに置いていったのだが。

 もう会わないことを決めたにしても、味気ないが仕方ない。出直すと、会いたくて仕方ないような姿になるように見えて、それがまた滑稽にも見えてしまったのだから。

 そのときドアを開ける音がして、部屋の主がやってきた。


「おや、来ていたか」


 と段ボール箱を二つのせた台車を狭い部屋に強引に押し込んで、さらに身体を折り曲げるようにして、強引にスペースを作りドアを閉める。


「ふぅ。太ったかな? 」


 ゴンザレスは胸ポケットからハンカチを取り出して、額の汗を拭きながら言う。


「いや、部屋に本が多すぎるだけですから」


 そう言いながら段ボールの箱を見つめる。


「それですか」

「ああ。高周波カッターだ」

「ふむ。少し見て……開けない方がいいですね」


 見ておきたかったが、部屋の状況を考えると、部品を無くしたり壊したりとしそうだ。


「ああ、そうしてくれるかね」


 ゴンザレスは自分の椅子にどっしり座る。椅子がキリキリと悲鳴を上げる。


「前々から、思っていたんですけど、片付かないんですか? 」

「無理難題を……。片付けをするだけのスペースすらないものでね」


 比較的特殊な工具の用意はできるのに、お片付けはできないというのはいかがな物か……。


「さて、いい話と悪い話があるが、どちらから聞きたい? 」

「それでは、悪い話から」

「君は好きな物はあとにとっておくタイプかな? まあいい、絵を調べてみたが、別段暗号といったものはないみたいだ。もう少し調べてみるが、外れの可能性が高い」

「それについては構いません」

「次に、いい話だが。新しい依頼が入った。というよりも、管理している側が盗んで欲しいという依頼が何人か巡って、私にまでたどり着いた」

「盗んで欲しいとは奇妙ですね……」


 罠か何かではないかと思うが、調べなければ判断もできない。


「実際の品については詳細は判らないが、蒼い薔薇に関連していることは確かだろうね。そして、明日の九時に、ジルバート財団設立第四美術館に行ってある人物に会ってもらい、さらに詳細を聞いてきて貰えればいいが、受けるかね? 」

「ええ。受けさせていただきますよ。そこで、ある人物とは? 」

「その美術館の館長だ」


 さらに奇妙だという疑問しか生まれるだけだった。


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