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011 治療

「賞金稼ぎねぇ。いい加減にソードギルドも動き出したのかな」


 ドミニクが言う。

 場所はドミニクの店の二階にある自室だった。さほど広くもないリビングキッチンには書籍と雑誌が大量に書棚に詰め込まれていたが、それ以外にはソファがあるだけで家具らしい家具がろくになく、キッチンも片付いていたがそもそも片付ける物自体が無いように思われた。


「ええ。うぅ」


 怪盗スモーク、つまり雨音が左腕をドミニクに看られ、痛むのか顔をずっとしかめていた。雨音はソファに座り、ドミニクがその横に座る。明かりがつけられていたが、さらにスタンドライトで傷口を照らしていた。


「せめて麻酔打ってもらえません? 」

「今、切らしてる。医療用の器具が残っていただけでもありがたいと思ってね」

「うぅ」


 ドミニクに一刀両断され、雨音はさらに顔をしかめた。ドミニクの手には医療用の針とピンセットが握られていた。右足の傷は止血だけして包帯が巻かれただけの応急処置。

 左腕の傷は止血されて、現在進行形で傷を縫われていた。


「言っておくけど、私の腕じゃ傷は残るからね」


そういって、ずいぶんと手慣れた調子で針を動かしていく。


「ふさがれば文句はありませんよ」

「ふーん」


 慣れていなければ目を背けたくなるようなえげつない傷口を目の当たりにしても、ドミニクは動じていなかった。


「指先動かしてみて」

「ええ」


 雨音がつらそうに、ピアノを弾くように指を動かして、さらに握ったり開いたりする動作を行う。


「ふむ。神経は大丈夫かな。筋肉自体へのダメージも少なめっぽいからいけるかな」

「大丈夫ですか? 」

「傷をふさぐだけならね。ってかさ、どんな得物でやられたの? 」

「刀です。形状は普通でしたが、刀身は真っ黒でかなり見づらかったですね」

「二振り使ってきた?それとも二人いた? 」

「? 」


 雨音が不思議そうに、ドミニクの顔を見る。


「いやさ、右足の傷と左腕の傷跡が全然違うからさ。脚の方は、とんでもなく綺麗に切られている。縫う必要もないぐらいにね。だけど、左腕の方はノコギリで何度もえぐったみたいな傷だからさ」


 看たときに、左腕の処置を先に行ったのは左腕の傷が特に酷かったからだ。


「いえ、一人でしたし。得物も同じ刀、一振りだけでした」

「ふむ。途中で刃先が違うとかは? 」

「暗い上に、刀身が黒かったですから……確信はありませんが、そういうことは無いかと」

「そう。ふむ、二種類の太刀筋ねぇ」


 ドミニクはふむふむと呟く。


「そんなに違うんですか? 」

「うん。斬るじゃなくて、抉るだね。痛みも酷いし、出血もするし、傷も治りにくいし、接合もかなり難しくなるね。骨までやられたら、多分一生左腕は使い物にならなかっただろうね」

「そう、ですか」


 雨音は神妙そうにうなずく。が、そんなことを言っても腕を停めずに治療するドミニクの姿を見て不安は感じなかった。昔からの馴染みであり、その腕には信頼の二文字しかない。


「一応言っておくけど、念のために正規の医者に診て貰うことを進めておくからね。サイラスさんに言えば、裏で治療して貰えるだろうし」

「それはね……。医者なら自分で探しますよ。裏であろうとね。警備隊のサイラスさんに迷惑はかけられませんよ」


 傷の状態が賞金稼ぎを通じて警備隊に伝わり、都市の医者に連絡が行っていれば、医者に看てもらった時点ですぐさまに通報されてしまうだろう。雨音はそれだけは避けたかった。


「まぁ、立場上サイラスさんとは敵対関係にはあるか。サイラスさんは捕まえる気はないっぽいけどね」


先ほどのラーメン屋での軍員であるサイラスの様子から考えるに、サジを投げているか、別の思惑があるのか。


「あの人がただ単に、やる気がないということはないでしょうね。そのうちに本気で捕まえられそうですよ」

「っぽいよね。単純に逃がすことで何かしらのメリットがあるってことだろうし」

「あなたもそう思いますか」

「まあね」


 そういって、ドミニクは糸を留め、包帯を巻き付けていく。


「っていうかさ、なんでわざわざ怪盗なんてやっているのかわからないんだよね。今まで訊く機会が無かったけどさ」

「あなたは何故、お店をやっているんですか? 」


 雨音が逆に聞き返す。

 何故店をやっているのかという質問への答えは持ってはいたが、目の前の馴染みがこう切り返してくることは、こちらの質問に答える気がないのだろうとわかった。


「道楽だよ」


 仕方なしに言う。


「似たようなものですよ」


 雨音は微笑みながら言う。

 やはり、言う気がないのかというか、それじゃあただの迷惑な愉快犯でしかないではないかと思いつつ、包帯を留めた。


「ま、いいけどね」

「ふふ」


 自分が呆れられていると判りながらも雨音は微笑んだ。

 夜は遅くふけていく。

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