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90.女の戦い

不安のままエンリケの店に向かう。

店は包丁を買い求める御夫人で長蛇の列だった。

なんだ?これ?

列を掻き分け進む。

「おい、娘、コレはなんだ?」

「ああ、オットー様。もうすでに在庫が無くなりました。」

「いや。なんで、こんなコトに?」

「口コミで広がったらしいです。特に料理教室に通う方に大人気です。」

「料理教室?」

「はい、若い娘は親から料理を学ぶコトが最近難しいので料理の得意な方を呼んで学ぶんです。ソコで講師の方の目に留まったんだそうです。」

えー、なんでそうなるのよ。

「で?この騒ぎか?」

「はい、整理券分でこの騒ぎです。あと200は売れます。」

まじか~。

どうするのよ量産できるけど。

「あの、次の入荷は…。」

いかんな、ココまでの騒ぎになると他の商人が黙ってないだろう。

かと言って整理券を配ってしまっているので店の信用の問題もある。

クソ、面倒なコトを…。

とりあえず娘の額にデコピンを喰らわせる。

「痛い!!なんで?」

デコを押さえて涙目になる娘、非難の眼差しを俺にむける。

「娘!!入荷の目処が無いのに注文を受けていただろ!!しかも。”何とかなる”等と軽い気持ちで!」

「え?そ、そ、そそんなことないデスヨ…。」

目が泳いでいる。コイツ商人に向かんな。

こんなコトで顔に出すなよ。

「まあ、仕方ない。注文を受けてしまったんだ。注文分は用意しよう。」

「やった!!」

デコにロックオン!

「いや!止めてその痛いの!」

整理券を配り終え店の列は解散した。

母娘にベスタを紹介する。

「俺の配下の奴隷でベスタだランクDの冒険者で馬の扱いに慣れている。」

「よろしくおねがいします。」

何かベスタとイレーネの間で雷が走った様な気がしたが。

まあ、気のせいだろう。

「まあ、オットー様の?私はオットー様の店の切盛りをしている女将のイレーネです。よろしくお願いしますね。」

「はい、オットー様の身の回りのお世話をしております。メイドで奴隷のベスタです。」

「フフフフ…。」

「ハハハハ…。」

「え?えっと。ベスタさん。娘のトリーニアです。行商の護衛、よろしくおねがいしますね?」

笑顔で笑いあうベスタとイレーネ。

良かった相性が良さそうだ。

何となく二人とも能面の様な笑い方だが問題ないだろう。


「では、娘。馬車と馬を見に行こう。ああ、イレーネ、すまないが。白い布が欲しい。質は悪くても構わない。シーツやカーテンにかろうじて使える様なモノだ。探して置いてくれ。」

「はい、在庫が在ると思います。幾つか出しておきますので後でご確認を。」

「うむ、解かった。行くぞ娘。ベスタ。」

イレーネの見送りで店を出る。

馬車屋は王都には無く、正門を出た所に集まっている。

王都の正門前には軍事用の空き地が広がっているが。

平時は市場になっている。

昔、王都に入るのに税金が掛っていた時代が有ったので門の外で農家が野菜を馬車に積んだまま露天売りを始めたのが始まりだ。

今では広い市場の空き地とソレを取り囲む木造低層住宅の町が広がっている。

治安は悪く無い。

元締めがしっかりした者らしい。

王都の中の方が治安が悪い場所が多いのが皮肉だ。

まあ、城塞の外なので戦争になったらヒドイコトになってしまうのだが…。

馬車屋の前に着いた。


店の半分は屋根だけのガレージの様な作りで、簡単な門型クレーンまで付いている。

「いらっさしゃい。だんな、何をお探しで?」

馬車屋の店主は頬のこけた背の高い細身の中年の男で前掛けにペンと定規を指している。馬車大工だろう。

馬車は専門の大工が一つずつ作って居るモノだ。

どうしても高価になる。

中古で良いモノを探そう。

「荷馬車を探している。中古でも良い、あと、娘、何かあるか?」

「あの、ビゴーニュの店のエンリケの娘です。父がこの店で良く修理を頼んでいたハズですが。馬車を調達したいのです。」

「ああ、エンリケさんの娘さん。エンリケは…その、良いヤツだったんだが。残念なコトに成ってしまった…。」

「はい、大丈夫です。お店を立て直すことは出来ました、行商を続ける為に馬車が要るんです。お願いします。」

「そうかい!ソレは良い事だ。良い物を用意させるよ。」

「あの、あまり、その、予算が…。」

「ああ、ソコラ辺はサービスしとくよ、お祝いだ。中古でも良いのが今は有るんだ。軍が徴発すると思ってみんな馬車を作ったんだが肩すかしで、今は中古が溢れているんだ。」

「なに?軍が?」

「う~ん、ひどいもんさ。軍が”遠征するかもしれないから馬車を集めて整備と部品を作っておけ”と言って置きながら思ったほど買っていかなかったんだ。たぶん軍は持っている馬車の車軸と予備の車輪分しか買わなかった。」

「そうなんですか?馬車は前と同じようなモノが欲しいのですが。」

「あー、前のと同じか…。うーん。改造しないと無いねえ。殆ど軍用に改造してしまったから。」

「ああ、問題ない。一ヶ月以内に出発する予定だ。」

「それなら間に合うね。まあ、乗車装置と簡易ベッド付けるだけだからね。後は商品棚か…。屋根が間に合わないかな?幌で良いなら出切るよ。まあ、防水布はそちらの仕事かもしれないけどね。」

「あの。昔使っていた馬車の防水布は未だ店に在るとおもいます。」

「それなら速いね。一度持ってきてくれればソレにあわせて梁を作るよ。まあ、簡単なモノだけどね?ああ、そうだ、こっちに来てくれ。」

店主の後に続いて店の工場の奥にすすむ。作りかけと言うか整備中に放棄された馬車が一台あった。

「これなんてどうだい?中古の整備中だったんだが未だ上モノは付いていない。車軸と車輪は軍用の良いのを付けよう。」

「あの、お値段は?」

「そうだねえ、幌を持ってきてくれれば。金貨200枚でどうだい?」

相場がわからんな。だが買える金額だろう。

「安いですね。何か有るんですか?」

ベスタが店主に質問した。俺にこっそり耳打ちする。

「天蓋も何も無い軍用馬車は大体金貨250枚です…。」

「うーん、軍用馬車はなんだかんだ言って売れるからねえ。まあ、来年分の仕事しただけさ。コイツはバラして場所を喰っているので速く片付けたいのも有るし。もう既にバラしてある。手間が無い、シャーシは折り紙つきで補強も入れた。今は防水ロジンを乾かしている所だ。」

タメ息をつく店主。

「部品ももう作ってある。買い手が居ないのさ。しかも、年内は新しい発注も無い。修理で喰わなくてはいけないのに車輪が付くまで動かせない。ココが空けば作業が楽になる。」

「予備の車輪は?」

ベスタが尋ねる。

「ああ、予備は…。そうだね。一個金貨10枚でどうだい?軸合わせもしておくよ。もちろん軍用の銅輪付だ。」

「二個買っておくべきです…。」

ベスタが娘に、耳打ちする。

「あ、あの、買います。予備の車輪を二つ付けて下さい。」

「お買い上げありがとうございます。前の馬車にできるだけ合わせて作るけど…。屋根は以前の様な幌だからね。今回のは底面も防水処理してあるから。空荷なら水に浮くぐらいだ。上から水が入ったら王石弁キングストンベンから排水してくれ。」

「え?では、出来てからお金を”前金で100払うんだ”え?」

「相場が低いんだ、後で文句言われないように先に金を渡すんだ!一部だけだ!領収書に総額を書いてもらえ。」

「え?あの。すいません。そんなに持ってきて…。」

両手の中指が娘のデコにロックオン。発射する。

「痛い!!」

「ああ、すまないな店主。前金で金貨100を払う、手付けだ。」

「うん、助かるよ。幌は速めに持ってきてくれ。たぶんそんなに引渡しは時間が掛らない。」

そうだろうな。ガレージの職人は暇そうだ。

「急がないが、三週間以内に引き渡してほしい。ギリギリでも構わないが手は抜かないでくれ。」

「ココだけの話だが、今はドコも材料をツケで買ってしまって在庫の山なんだよ。手っ取り早く現金にしたいのさ。値段は下げられないけど。良い物は出せるよ。」

「店主。丈夫なヤツにして欲しい。かといって重量物を運ぶわけでは無いので重いと困る。」

「うん、解かった。いい部品が今は余ってるから良い馬車になるよ?飾りは無いけどね。使い勝手は追々見て改造してくれ。相談に乗るよ。」

なるほど。店主は原価で出してアフターサービスで儲けを出すつもりらしい。

金貨100枚を立替えて店主に払う。

店を出ると。

後ろのガレージでは職人達が”オラー!!お前ら!!仕事ダー!!””ヒャッハー!!車輪芯出しは俺に任せろ!!””ウラー!!軸のブレは修整だ!!”と変態的な動きをしている。

…。良い買い物だったんだろうな…。

よし、馬を見に行こう。


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[気になる点] 「それなら速いね。 喰っているので速く片付けたい 幌は速めに持ってきてくれ 早
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