72.コートの怪人
新品のコートに袖を通して。
学校に行く。
未だ昼前だ一時間ぐらいは授業に出れるだろう。
マジックインクの話を聞くために錬金術クラスに向かった。
教室には誰も居ない。
黒板には”○○日まで自習!”と書いてある。
今日まで自習で明日は有るみたいだ。
そういえばフラン先生、出張に行くと言っていたな。
代わりの講師居ないのか?
練金術クラスを出て廊下を歩くと向うからフラン先生が歩いて来た。
大きな荷物を抱えている。
「こんにちはフラン先生。」
「あらオットー君、こんにちは。今日の授業は無いわよ?」
「その様ですね。先生は今お戻りですか?」
「そうなの、今出張から帰って来たところ。ああ、丁度良かった、この荷物運んで。」
御夫人の命令には逆らえないので。
荷物を担ぐ。軽いが嵩張る包みだ。
小部屋に着いた。
無人だが部屋の中央に机が数個島になっている。
壁は本棚で占領されている。
恐らく、錬金術科の職員室だな。
「ココに置いて~。」
示された場所に荷物を置く。
「ありがと~、ちょっと待ってて。今お茶出すから~。」
隣りの部屋に移動するフラン先生。
「ああ、先生お構いなく。」
「大丈夫大丈夫、ちょっと見て欲しいモノが有るの~。」(ゴソゴソ)
「はい、解かりました。」
大人しく、椅子に座って待つ。
しばらく待つとフラン先生がお盆にお茶セットを持って来た。
明るい色の青いノースリーブに着替えている。
「はい、お茶を召し上がれ。」
「頂きます。お茶請けにどうぞ。」
収納していたクッキーを並べる。
「お菓子あるの?ありがとう。」
「へへへ~、じゃーん。」ビシッ
フラン先生が立ったままで、何か分けの解からないポーズをしている。
服を自慢したいらしい。
「先生、いい色の服ですね?」
くるっとその場で回って笑うフラン先生。
相変わらず変なポーズだ。
「良いでしょ!!この服、お気に入りだったんだけど。ワイン零して染みになって着れなかったの。」ビシッ
「染み抜きに出したんですか?」
「ううん、染み抜き屋もお手上げだって言ってたけど、オットー君のエンチャントを複製して金タライに付けたの。付け置き洗いで全部シミが落ちたの。」ビシッ
「そうでしたか…。」
イチイチ喋る度に変なポーズを取るフラン先生。
まあ、超音波洗浄だから落るかも。
いや待て、何で超音波洗濯機が作られなかったんだっけ?
「あの、先生、その服ドレ位で落ちました?」
「うん?一晩漬けたら全部落ちたよ?」ビシッ
「いえ、フラン先生。あの装置は繊維にダメージを与えるので被服には使えません。」
「へ?」ビシッ!バリッ!!
青いワンピースが布に戻って床に落ちた。
フラン先生がパンイチで大胆に立っている。
両手を腰に手を当てた状態で胸を張っていたので全部見える状態だった。
「~!!!」
声にならない叫びを上げるフラン先生。
しゃがみ込んで居るので。コートを肩に掛ける。
「ワンピースが~。」
「まあ、仕方ないですよ。」
「殿方に肌を見られた~。」
「大丈夫です、忘れます。」
先生。意外とムネが無かったな。
「うわ~ん!ウソだ~!!」
涙声のフラン先生。
「大丈夫です。誰も見てません。他の者は知りません。秘密ならばれません。」
「いや~。」
「さあ先生、クッキー食べて元気出して。」
そうだ!!甘い物を食べて活力にするんだ。挫けるな!!
「口の中がパサッパサになるからイヤー!!ケーキがイイ!!」
おい、贅沢だな。流石にケーキは持ってない、鹿の干し肉ならある。
仕方が無いので梨を取り出し包丁でウサギさんに剥く。
ティーカップの皿に並べる。
「はい、先生、梨です。」
「ああっ、可愛い、こんなムサイ男がこんなカワイイ剥き方するなんてイヤ~。」
おい、ひどいな。練習したんだぞ。
泣きながら俺のコートに袖を通しクッキーと梨を頬ばるフラン先生。
両方喰んかい!!
俺の新品のコートが涙と鼻汁、クッキーの粉に塗れる。
俺にこの学園でコート着るなと言う神の啓示なのだろうか?
寒くないので問題ないが。
結局全て食べきって泣き止んだフラン先生。
隣りの部屋で着替えて落ち着いたらしい。
フラン汁に塗れたコートを返却された。
クリーンの魔法を掛けて収納する。
先生の心を落ち着かせる為に。
生徒ッポくマジックインクの作り方とポーションの作り方を聞いた。
道具と材料があればそれほど難しく無いらしい。
道具の作り方は錬金術科の前期で集中してやるらしい。
しまった、授業内容がもう終わってしまった。
まあイイ。来年受講しよう。
ソレまでマイト先輩から買えば良いだろう。




