66.テレビショッピング(異世界編)
「はい!!ソコを歩くお姉さん!!ちょっと見て!きっと得するお話だよ!!」
「取りい出したる、この包丁!!そんじょソコラの包丁とはワケが違う。何が違うのか!!」
バンバン 伸ばし棒で木箱の台を叩く
「先ずは切れ味、この梨。”旦那さんが剥いてくれと”頼んでも、ほら、このと~うり。皮が途切れず1本に剥けるこの切れ味!!」
「「おおー。」」
「お子さんが”梨が食べたい”と言っても。ほら、このと↑うり、あっと言う間にウサギさんの形。小さいお子さんも大喜び。」
「はいはいどうぞ。梨食べて。」
「この包丁。この切れ味、ナニが違うのかとたずねたら!!」
「先ず元の地金が違う!!」
「こんな。地金の剣は、軍隊の隊長さんも持ってない!!」
「この鳥もこんなに簡単に捌けます。」
「硬い骨を切るのは力が必要で大変と言うお姉さん!!」
「この伸ばし棒で包丁の背を叩けばアットいう間に骨も断ち切れる。もう、腕が痛いとか言わせません!!」
「料理が楽しくなるこの包丁!!」
「お値段!!なんと金貨5枚!!金貨5枚だよ!!」
「え?なに?ちょっと高い?」
「仕方がない!良いモノは高い!でもちょっと待ってください。」
「包丁だけでは有りません。この一回り小さい包丁。ナンに使うのかと言うと。」
「あれ、小さいから簡単にハーブの微塵切り。小さな魚もこのと~~うり!!」
「包丁で魚を切ると臭くなる?いえいえお嬢さん。柄まで鉄で出来たこの包丁。このままお湯に漬ければ匂いも油も全部落ちる。」
「柄が熱い?大丈夫、この柄の穴は飾りじゃない。壁に吊るしても、紐を通しても使えます。収納上手な賢い奥様に大人気。」
バンバン
「さあさあ、この包丁、それだけじゃあない!刃物には手入れが必要だ。」
「切れ味が悪くなると旦那さんに頼む?しかし、旦那さん忙しいのかナカナカやってくれないこんな良くある話にこの砥石。」
「この砥石に付いた三角形の石を当てて水を漬け軽くこするだけで。こんな簡単にこの切れ味!!」
「これなら月一回の刃物砥ぎ屋さんを待つ必要が無い。奥様でも簡単に刃物が砥げるこの砥石。」
「そして”簡単刃物の研ぎ方”の絵が入った説明書。コレを全て納める収納袋付き。」
「丈夫で嵩張らない収納袋で旅のお供にもばっちりだ。全部揃って金貨5枚だよ!!」
「さあ、買った買った。お買い得4点セット。この包丁!他の店では売っていない。」
「え?お姉さん!切れすぎて怖い?大丈夫、新品は未だ刃が入ってないからこのとおぅり切れないヨ!!」
「先ずは家に帰ってこの紙をよく読んで砥いで見よう。解からなかったらお店に来ればこのお姉さんが優しく教えてくれる。この親切。」
バンバン
「雑貨と生地の店ビゴーニュはお客様の信頼で生きてます。」
鼻にかかった甲高い掛け声で木箱の上にまな板を置いて実演販売をする。
店の前の実演販売は好調だ。
かなり町往く人は足を止めて見入っている。
まあ、娯楽が少ないから、こんな物でも楽しいらしい。
一番前でずっとかぶりつきで見ている幼児までいる。
イモをスライスしたりハーブを微塵切りにしているだけだ。
テンポが良いので自分でも出来そうと思わせるのがコツだ。
「あの…在庫が無くなりました。」
「よし、じゃあ今日は辞めよう。」
台を片付け始める。
「あの!一個下さい。」
若奥さんが走ってやってきた。
「ああ、すいません売り切れです。入荷は来週になります。」
「ええ~。」
肩を落とす奥さん。
「あの、収納袋が無いだけですから他のを売ったら?」
娘は小声で話す。
「ダメダ。商人は自分の売ったものに責任を持たねば成らない。中途半端なモノを売るぐらいなら待ってもらった方が良い。」
奥さんに向き直り話す。
「申し訳ございません。在庫が無くなってしまいました。ご予約すれば来週の入荷分に必ず御取り置きします。」
「ああ、そうですか。解かりました。予約します。来週きます。」
肩を落として帰る奥さん。
よし!!半日で200セット全部売れるとは思わなかった。
娘と母が夜なべして作ってくれた甲斐があった。
「娘!次からの入荷は一個金貨2の仕入れ値で納品するからそのつもりで。」
「えっ?」
びっくりする娘。
「おいおい、お前は商人でコ○゛キじゃ無い。タダで仕入れて高値で売るのは貴族ダケだ。商人のプライドを持て。」
「え?では400個を買います。」
思わず額にデコピンする。
「いたい」
「当たり前だ!!このスカタン!!こんなに一度に売れたらマネする商人が居るに決まってるだろ!!こう言う物は”ココでしか買えない”とか”信頼の製品”とか言って在庫を調整して値段を維持するのが正解だ!!」
「そんな、あくどい。」
「安くすれば売れるなんて物は、要らない物を売っている時だけだ。買う側も安いから買うだけで必要だから買っているワケではない!!商人ならソコに気づけ!!」
こいつホントに大丈夫か?商人の娘か?
「よし!売り上げをまとめて帳面につけろ!!余分な金はギルドに入れる。」
「え?あの家に置かないんですか?」
「俺が盗賊なら母娘を攫って売り上げ持って逃げるなぞ。蝋燭が消えるより早くできる。」
娘が帳面につけている間に母親とイチャイチャする。
うん、やっぱ女は肉が付いてないと。
準備が出来たのでギルドへ行く。
もちろん護衛だ、金貨550枚を娘が持って居るのだ。
俺は娘から来週納品用に金貨400を受け取った。いかんな早く在庫の補充せねば…。主にポーションの。
娘と町を歩く。
「あの、オットー様は何で助けてくれたんですか?」
「ロビンの知り合いだからだ。」
「それだけ?」
「そうだ、女が泣けば助けるのが男の仕事だ。」
うん、母親はうれし泣きしているのを何度も見た。
「それだけなんですか?」
「もちろん打算は有った。ロビンは勇気を出してお前の名前を叫んだ。娘。考えずに走る男には気をつけろ!!ソレは地獄への馬車だ。」
「私の名前はトリーニアです。」
「知っている。だが意味は無い。お前はエンリケの娘だというダケだ。エンリケは親切な男だった。」
言って気が付いた。しまった!!俺は合っていない。エンリケに会ったのはモニターの向うの2Dだった。
「父を知ってるんですか?」
やっべーぼろが出た!!誤魔化そう
「しらん!!ただ、行商人の辛さは知っている。長い道のりを一人で家族を残して進むのだ。客の期待と信頼のために前に進むソレだけだ、ソレが出来る男は一人前の商人だ。」
「一人前の商人ですか?」
「そうだ、時には冷酷。時には親切。実際は”売り手、買い手、世間ヨシ”で無ければならない。」
「え?何ですか?」
「ああ、売った者、買った者、町の者、全てに良い商売でなければ良い商人には成れない。ソレは当たり前のコトなんだ、人の善行は誇る物ではない当たり前のコトで無ければ成らない。」
「そうですか…。」
考え込む娘。
いやん、俺、悪者?言い訳しよう。
「お前の店には申し訳なかったとは思っている。強引な手管を使ってしまったが、結果はまあまあだと思う。もちろん俺の知らない方法ならばもっと良い結果になったハズだ。」
「いえ、オットー様のおかげで父の仕事の意味が解かりました。あのままの私ならきっとダメになっていたでしょう。」
そうか、納得したなら良かった。
ヤバイな、もう知ったかぶりは辞めよう。
ボロが出る。




