57.呪いの道具店
さて、社会見学は大詰めだ。
そう、色町だ!!何てウキウキするんだ!
しかし、夜から営業のハズなので昼間は随分と人は少ない。
商品の酒瓶や夜間営業の飲食店に食材を運ぶ馬車しか動いていない。
呼び込みのオッチャンも店の前を掃除しているだけだ。
「なんだか寂れているな。」
ジョンが感想を言う。
「はい、日が落ちてからの営業ですから。向うのブロックは民家です。ココラ辺は元締めがしっかりしているので、昼間は治安も良いです。夜に住民は出歩きません。」
ロビン君の説明だ。
まあ、昼間の色町は別の顔だな。
「なんだ。がっかりだ。」
フェルッポが残念そうだ。
「酒場も開いてないな。」
アレックスが扉の閉まった酒場の入り口を見ている。
随分小汚い酒場だ。看板も壊れている。
「あの手の店は日が落ちてから日の出までの営業が多いです。お勧めしません。客も乱暴者が多いです。」
ロビンは詳しいな。
「うむ。今のうちに地形と店の場所。案内所を覚えておくんだ。」
「夜行くのか?」
アレックスが尋ねた。少し悩む、病気が怖い。
ゲームでは出てこなかった。いや、呪いの道具が売っている道具屋がこの近くにあるハズだ。
「この近くに魔法関係の店があると聞いた。」
ビクつくロビン、ソワソワしている。
「いえ、確かに聞いたことありますが。あまり…。お勧めしません。」
通りを進むと建物の地下に続く階段がある。
ボロボロの看板には”魔法の道具店”とかろうじて読める。
ここか…。
営業している様子だが、人の気配が無い。
「入ってみるか?」
「お止めになった方がよろしいかと…。」
玉虫色発言で止めるロビン、本人はあまり入りたくないようすだ。
皆も不安な顔だ。
「よし!行こう!!」
アレックスだけがワクワクした表情だ。
コイツ気をつけないとホンと死ぬな。
フォーメーションをガッチリ組んで細い階段を降りる。
小汚いドアを開けると店の中は天井まで商品がぶら下がり。
異様な商品が山積みになっていた。
「おやおや、コレは変わったお客さんだねえ。」
エルフのババアが居た、まるでヨーDAの様な姿だ。
夜の路地裏で壷をねるねるしていたらダッシュで逃げ出す様な姿の妖怪ババアだ。
「冷やかしだ。」
「やれやれ、冷やかしなら帰って欲しいけど。ヒマだから話相手には成ってもらおうかね。」
”おい、帰ろうぜ。”
アレックスがビビッて小声で声を掛ける。
ロビンも顔色が悪い。
フェルッポは顔の形の壷に目を奪われている。
マルコは弟から目を離さない。
カールとジョンは剣に手をかけて警戒している。
「ドレイン系の魔法から身を守る指輪かアンクレットは置いてあるか?」
ゲームには出てきたから売っているはずだ。
「ほう、めずらしいねドレインの魔法を知っているのかい?」
「在るというコトは知っている。死霊が使うヤツだ。」
「有るには有るが売れないねえ。」
「そうか…。では死霊やアンデットに効くお札や薬は有るか?」
「あるけど高いよ。金30からだね。」
「なるほど高いな。」
「若いのに随分と物知りだね。」
「まあな。有るのならイイ。その内買いに来るかもしれない。」
そうだなゲーム関連のアイテムの情報も収集するか。
「魔物に関する本や悪魔に関する辞典は置いてあるか?」
魔物辞典や悪魔辞典は禁書扱いらしい、ゲームには出てきた。
取得すると戦闘時に敵のステータスが出る便利アイテムだ。
「ふ~ん、売れない物ばかり聞いて来るねえ。そんなもの手に入れてどうするんだね?」
「魔法使いが何に使うかなんて誰にも解かる者なぞ居ない…。だったかな?」
購入した時にNPCが言う台詞だ。
「っふぉっふぉっふぉ、誰から聞いたんだね…。お前さんはココに来るのは初めてだろう?見覚えが無いからねえ。」
不安になるような笑い声を上げる妖怪ババア。
ミソッカス共はビビッて居る様子だ。
ババアが袖の中から本を取り出した。
魔法収納していた様子だ、黒い表紙で髑髏が書いてある。
「コレが悪魔辞典だよ。お前さんに読めるのかね?悪魔の言葉で書いて在ると言う話だよ。」
レベルが低いとアンロック解除できないからな。
たしか中盤で解除できるハズだ。
「いくらだ?」
「売りモンじゃないんだよ。資格の有るモノしか持てない魔法が掛っておる。今まで開けた者は居ないんだよ。」
「そうか…。しかたないな?」
「おもしろい子じゃないか?手に取っ手見るかね?資格があれば開くはずだよ。」
ババアが面白そうに本を持った手を伸ばした。
本を受け取る。後ろでマルコが”おい、やめておけ!”と囁く。
表紙には思いっきり漢字で”悪魔辞典”と書いてある。
サーチするが
サーチ結果
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道具:悪魔辞典(ロック中)
効果:全ての悪魔の名前と特性が書いてある異界の辞典。
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おいおい、日本語は悪魔の言葉か…。
まあ、確かに悪魔の様な連中だったからな。特に”部長”が。
本が開かない。まあロック中だ。
「”アンロック”」
本が黒く光りアンロックされる。
ペラペラとめくると。うん。中は攻略本のモンスターデータ集だ。
GUIには”インストールしますか? →YES ON”の表示がでた。
YESを選択すると黒い光が全身を包んで消えた。
本の中身には異常が無い。
本を閉じて「”ロック”」と呟き妖怪ババアに返す。
「なるほど、良く解かった。」
「お、お主。この本が解かるのか!!」
「さあな、さっぱり解からん。」
「まさかお主は…。」
「近いうちにその本を欲しがるヤツが来るかも知れんが俺のコトは話すなよ。」
恐れおののくババアを尻目に踵を返し店を出る。
店の外に出ると外が眩しい。
薄暗い店の中で熟れた目にはキツイモノがある。
「おい、オットー大丈夫か?」
「ああ、全然大丈夫だ。思わぬ収穫だった。ナカナカ良い店だったな。」
「何か黒く光ったぞ!本当に異常は無いか?」
心配してくれる。カールとジョン。
マルコとロビンとフェルッポが一歩引いている。
「あの本は何だったんだ?」
「アレックス、あの本は辞典だよ。一部のモンスターのな。」
「悪魔の文字だって言ってたぞ!!」
マルコが震える声で叫ぶ。
「悪魔じゃないぞ?異界の文字だ、まあ、悪魔よりヒドイ連中だが。」
ああ、”部長”と”専務”がタッグを組むと阿鼻叫喚だった。
「何でそんな物が解かるんだ?」
「翻訳の魔法さ。」
もちろんウソです。
「翻訳?異界の文字の?”全てを読み解く”魔法なの?」
フェルッポが尋ねた。
「うーん、そんなに便利なモノじゃあないんだ。まあ、効く場合と効かない場合がある不確実な魔法なんだ。断片的にしか解からない。」
「おい、その魔法教えてくれよ。」
「カール、うーん、難しいな…。」
「そんなに難しいのか?」
「頭の中を直接いじくるんだ。失敗すると元に戻らない。軍に入ったら捕虜で実験するつもりなんだ。」
「そうか。止めておこう。」
大人しく引き下がるカール。
「ロビン実験に参加するか?」
ロビンが顔を青くして首を振る。
後ろで兄弟の声がする。
「異界の住人ってどんな人なんだろう?」
「やめとけ弟よ、きっとオットーみたいな奴らだ。」
おいおい、ひどいな、半分正解だぞ。
 




