56.地金屋
寂れた町を進む。
道には寝そべる男や。壊れた馬車の残骸が放置してある。
建物の窓は閉まったままか、壊れて放置されたままだ。
空き家なのか人が住んでいるのか分からない。
「なんだかずいぶん荒んだ町だね。」
「旧市街で無人だった場所なんですが、流民が住み着いてこんな感じです。」
「なるほど。店は無いのか?」
「朝方は出店が出ますが昼までには引き払います。」
狭い路地と崩れた建物を進むと。
もうもうと黒煙を上げる区画に来た。
「元々火事を防ぐ為に住居から離れた場所に鍛冶屋町が有ったのですが。数代前の国王が新市街を作った時に取り残されたのです。」
「なるほど。で、アレが地金屋か。」
町の入り口近くに大きな店構えの建物がある。
角地で裏に商品が並んでいる。
表より裏が活気がある様だ。
「はい、軍や、王国にも必要な金属を下ろしています。裏は商品の引渡しや小口の細工師や鍛冶屋が買っていく様です。」
裏に進み若い店員に声を掛ける。
「刀剣用の地金が見みたい。」
「はい、ナニがよろしいでしょう?」
ジロジロ見られる。
まあ、到底場違いな服装だからな。
「先ずは砂鉄で作った地金と。帝国工廠の地金を見せてくれ。」
「はい。お待ち下さい。見本をお持ちします。」
A3ぐらいの木の板を持って来た二枚あり蝶番で繋がっている、広げるとA2の広さだ。
中には緑のフェルトの上に金属片が張ってあり。下に名盤があった。
一つずつサーチする。
うっほ。”ミスリル”って書いてある。
タダのステンレス鋼だな。
「ほう、ミスリルも有るのか?」
「申し訳ありません。入荷は未定です。」
まあ、そうだな。
しかし、ステンレス鋼か…。
クロム鉱床が何処かに有るのか。
「参考までに聞かせてくれ。このミスリルはドコで作られたものか?」
「北方山脈を越えたドワーフの王国製と聞いています。」
ドワーフはゲームにNPCとして出てきた。
なるほどリアルドワーフか見てみたいな。
女もヒゲ生やしているのだろうか?
「噂では。アマダンタイトの製法が残っているという噂の国です。」
アダマンタイトか…チタン合金とか、アルミ合金だったとしても驚かないな。
「なるほど、ソレは面白そうだな、しかし、俺に加工できるのはこの地金ぐらいだ。コレはいくらだ?」
一番純度が高い鉄を指す。どっかの川で取れた砂鉄だ。
「申し訳ございません、在庫は全て予約が入っております。次回の入荷は未定です。」
「そうか…。」
良いモノは売りたく無いのかもしれない。
まあ、俺は魔法で精錬できるから良い。
そう考えると地金ではなく混ぜ物の多い銑鉄を大量に購入して目的に合わせて精錬したほうが良さそうだ。
「ふむ、困ったな。では銑鉄を買おう。」
「銑鉄ですか?」
「そうだ、あるのだろ?鋳物に使う鉄だ。」
「有るには有りますが…。」
「コレで買えるだけ買おう。」
金貨五枚を渡した。
驚く店員。
「今すぐ用意します!!」
奥に戻る店員の背中を見送る。
「よっし、こっちの商談は終わったぞ!!」
「そうかよかったな。」
「ナニが売っているのかさっぱりだな。」
気の無い返事のカールとジョン。
他のミソッカス共も暇そうだ。
「では少しは退屈しない物を見せてやろう。コイツがミスリルだ。」
サンプル表の一番の白銀プレートを指差す。
「「「おおお」」」
驚くミソッカス共。
アレックスとマルコまで羨望の目をしている。
「これ。売ってるのか?」(カール)
「売り切れだそうだ。」
「触っていいのか?」(ジョン)
「踊り子に手を触れてはいけません。」
「なあ。オットー、コレで剣が作れないのか?」(アレックス)
「材料が手に入れば。」
「いいなあ、何時かは持ちたい物だな。」(マルコ)
「いや、タダの”ステンレス鋼”だぞ?」
SUS410にも及ばない。いや、あの世界がチートなんだ。
「”SUTE…”?」(マルコ)
「ああ、悪い。材料があれば作れるんじゃないのか?まあ、ドワーフが鉱山から取ってる様だが。」
「ソレこそムリだよ。北の山脈の向うでドワーフは偏屈者しか居ないって言うし。」
「フェルッポ。詳しいな。」
「まあ、本の受け売りだけど…。」
何故か照れるフェルッポ。
「コイツ、物語ばかり読んでたからな。」
「なるほど意外と”ミーハー”だな。いや、男にはそういう夢が無いと大成しないぞ。」
「”MI”?ナンだって?」
「商品が揃いました。コチラにどうぞ。」
店員が戻ってきた。
店員の後ろに付いて倉庫の一角に行く。
ぞろぞろ付いてくるミソッカス共。
「コチラの商品です。」
「うわ~。」
凄く多いです。
ナニが多いかと言うと鉄のインゴットが積みあがっている。
幅1m高さ1m奥行き2m適当に計算しても15tぐらいか?
一つ手に取る。重いな、12kgぐらいか?サーチする。
サーチ結果
----------------------
道具:鉄
効果:量産品の鉄(鉄:84.8%炭素:5.5%硫黄:3.4%ケイ素:2.2%クロム:1.2%その他:2.8%)
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うん、混ぜ物が多い。
こんな鉄で鋳物作ったら割れるな。
ナイフの柄でたたく。
音も悪い。
「ヒドイ銑鉄だなズクに近い。もう少し良い鉄は無いのか?」
店員の顔色が悪くなる。
「申し訳ありません。今お出し出来る鉄はコレだけです。」
「オットー、ナニが悪いんだ?」
ジョンが聞いてくる。違いが解からない様子だ。
「混ぜ物が多い。銅が入ってないからまあ、良いだろうが。」
いや、まて。クロムがあるから10kgぐらいのステンレス鋼が精錬できるか?
魔力が足りればな。
汗をかき始める店員。
コレはうそを言っている顔だ。
「コレでは鋳物を作っても割れるだけだ。」
「あの、値引きいたしましょうか?」
「値引きするぐらいなら、このクラスの鉄をもっと出せ。」
「は、はい、では。コチラの鉄も一緒にどうでしょうか?」
隣りのインゴットの山を示す。
かなり少ない。80cm四方の山だ。4t弱かな?
ナイフの柄で叩く。
うん、良い音だ。
サーチ結果
----------------------
道具:鉄
効果:量産品の鉄(鉄:89.8%炭素:4.6%クロム:2.4%硫黄:1.4%ケイ素:1.2%その他:1.6%)
----------------------
「うん、まずまずの音だ。始めからコレを出してくれ。」
「いえ、コレですと金貨3枚の量しか在庫が御座いません。」
なんだろ?鉄が意外に安いな。
「では両方貰おう。」
「は?」
「両方だ。全部で幾らだ?」
「え、はい全部で金貨7でどうでしょう?」
「よし。では追い金で金貨2だ。」
ポケットから取り出すように収納から取り出す。
受け取る店員。
「確かに受け取りました。荷受はどうしますか?」
「持って帰る。」
「は?」
驚く店員を尻目に全て収納する。
流石にクラッと来たが。
顔には出さない。
おう、GUIに”鉄1 320個”と”鉄2 1250個”の表示が出る。
流石に20tクラスの収納はきついな。
消えてなくなった区画を見て呆然とする店員。
「また足りなくなったら買いに来る。」
地金屋を悠然と後にした。
(´・ω・`)
買った鉄はくず鉄のリサイクル鉄なので安いが混ぜ物が多いのです。
魔法炉で溶かして固めただけ。
精錬された鉄はもっと高い。
戦争がしばらく無かったので屑鉄が激安と言う、設定です。
地金屋は店の不良在庫を売りつけた。
なお、店員は輸送料でもふんだくろうとしたがイキナリ持ち帰ったのでアテが外れた。
鉄は加工賃が高いうえ重いので輸送賃が高い。




