52.高級武器屋
「あ~フェルッポ。何でも魔法は訓練が必要だ。どんな時でも使える様に訓練して状況に合わせた魔法を選択し無ければならない。」
「解かったよオットー。なんとかして~。」
「やれやれ。本当に解かっているのか?弟よ。」
マルコが呆れっぱなしだ。
「フェルッポ、あの尖塔の屋根に何匹鳥がいる?」
指差して示す。大体600Mぐらい先だ。
「あ、見える。いちにい…。ああ、逃げた。」
「大体はソレぐらいからの距離を見る魔法だ。尖塔までココからドレだけ離れてる?」
「え?わかんない?」
「ソレがわかるように訓練が必要だな。」
乳タイプ兄弟がぼそぼそ話をしている。
「あの距離で見えるのか、」「確かに一人は欲しいな。」
まあ、斥候は意外と死に易いからね。
自分には欲しがらないか。
さて、フェレッポの魔法が切れるまで次行く店を話し合ったが一番近い貴族向けの武器屋へ行くコトに成った。
というわけで店の前まで来たが。
なるほど、軍御用達か、なんとなくムサイオッサンが多い。
まあ、こんな所に買い物に来るのは、騎士か軍隊上がりの貴族しか居ない。(兵の武器は王国からの支給品)
店構えも豪華と言うより資質剛健な感じがする。
裏の方から鉄を打つ音まで聞こえる。
修理工房も備わっているらしい。
「よし!行くぞ!!」
ジョンが先頭に立ち店に突撃する。
ジョンとカールは随分と気合が入っている。
マルコも心なしかウキウキしている。
ロビンはそわそわしている。まあ、前のスクロール屋でもそうだったからな。
上級とはいえ平民だから貴族の多い所は落ち着かないんだろう。
店に入ると中は明るくて広い。
天井が高いからだろう。
鎧や、盾も売っている様子だがあまり売る気は無いようだ。
どちらかと言うとディスプレイの為らしい。
まあ、商品(剣)の引き立て役だな。
店員と客の視線が集まっている。
まあ、オッサンの中に子供の集団が入ればこんな物だ。
ジョンとカールとマルコが目をキラッキラッさせながら中央の大剣に目を奪われている。
サーチしてみるが。
古い剣で、地金は良いが浸炭ムラが多い。技で浸炭の深さを変える場合も有るが。コレは製造過程のムラだ。
形は両手剣のエストックに近い。刀身には飾りの装飾が金で施されている。
まあ、悪趣味な飾りだな。
フェルッポは騎士長クラスが持つ実用剣(装飾付き)の前で口を開けたまま呆けている。
アレックスは重いものは持ちたくないのか。
反対側の壁の赤い柄の細身のレイピアに目を奪われている。
まあ、赤い光沢のある塗装に金色の金具ならカッコイイかもしれないが。
そんなに細いとスグ折れるし、刀身の痛みも速い。
使い捨てに近いぞ。
なんだ?まるで遠足の子供みたいだな。
取りあえず俺はサーチしまくる。
この世界の技術レベルがどれ位のモノか解からない。
魔法がある分だけあの世界より良いモノが有るかもしれない。
流石に軍人向けの物は値段が上がれば良いモノが多い。
安くてもザックリ使用用途と寿命を限定して使える物もある。様は使い捨て。
ダーツ(投げ矢)や投げナイフまで売っている。(練習用含む。)
剣の手入れキットが安い…。
砥石も揃っている。
後で買おう。
「何かお探しでしょうか?」
年配の店員が声を掛けてきた。
日に焼けて、顔に細かい火傷跡があり、手がゴツイ。
たぶん、鍛冶屋だ。しかも腕に自信が在るらしい。
「ああ、タダの冷やかしだ。未来の小隊長様の社会見学だ。」
親指でミソッカス共を示す。
「ああ、どうぞごゆっくり。何か質問が有れば何時でもおよび下さい。」
どうする?直接技術的な話を聞くか?
職人はそういう話を嫌がると聞くがこの世界でもそうなのだろうか?
「ああ、鍛冶師殿、ちょっと質問が有る。この世で一番良い剣の地金はドコの産地だ?」
「ええ。そうですね。西方のアリコン川で取れる砂鉄で作った地金が一番剣に良いと言われています。後は帝国北領で生産される帝国北部工廠で生産される鋼が一番と言われています。」
「鉄や鋼以外の剣は無いのですか?」
「ああ、瑪瑙の剣とか、漆黒の剣とか在りますが一長一短なのであまり使われていませんね。」
瑪瑙の剣と漆黒の剣はゲームに出てきた。
「どんな物ですか?」
「ココにはありません、魔法剣の扱いなので、魔術師の店に売っていると思います。自然石から切り出した石の剣で魔力を使わないと簡単に粉々になるそうです。」
なるほど、魔力による強化の剣か…。
ゲームではそんな細かいコト言わなかったな。
「帝国北部工廠の鋼とはどんなモノですか?」
「コチラのナイフがそうです、刀身が少し黄色がかっています。帝国製のナイフです。」
鍛冶師がカウンターから箱に入ったナイフを取り出す。
もちろんサーチ。
うん、鋼だが硫黄が含まれている。恐らく脱硫が不完全のコークスか、硫黄の少ない石炭で精錬しているのだろう。
「なるほど…。アリコン川の砂鉄で作った物は在りますか?」
「すいません在庫がございません。」
「そうですか…。」
まあ、砂鉄なら完全な鉄が出来る、後は炭加減で何とでもなる。
「二種類の鉄を合わせた剣と言うのは有りませんか?」
「ああ、以前は有りましたが、亀裂や折れる物が多かったので今では残っていません。」
なるほど、日本刀の様な折り返し製法には発展しなかったのか。
確かに相手が鋼の鎧では日本刀では分が悪い。
三人切ったら終わりだからな。
「なあ!オットーこの剣どうだ?」
ジョンが肩を叩く。
かなり興奮している様子だ。
「どれだ?」
「コレだよコレ!!」
はいはい、サーチっと。
「いい剣だがお前の腰の剣の方が良い物だぞ。予備なら良いんじゃないか?」
「おいおい、こんなのと一緒にするなよ。」
興奮するジョンにタメ息を付き警告する。
「ジョン、お前の腰の剣は外見は悪いがそれなりのモノだ。ソレに見合った腕になってから買い換えろ。」
「おいおい、オットー。」
「ああ、ジョンお前の剣ならソコの壁に掛ってる剣が買えるほどの働きが出来る。」
壁に掛った金貨300枚の表札の剣を指差す。
「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
「「なんですか?」」
鍛冶師が声を掛けてきた。
「そちらの剣をご拝見させていただきませんか?」
「俺のこれ?」
「ジョン、見せてやれ。」
「ああ、コレがアリコン川の鉄で作った剣ですね。昔は良く取れたのですが今は質の良いモノが少ないのです。」
「だ、そうだ、ジョン、一生モノの剣だ。大事に使え。」
なるほど、砂鉄からの精錬だと純度の高い鉄が出来るのか。
「いやいや、コレは親父からの貰い物だ。」
「そういう事だ。ジョン、その剣を使える様になれ。ソレまでは他の剣に目をくれるな。」
しょんぼり引き下がるジョン。
背中を見送り鍛冶師と話す。
「ああ、悪いな、イロイロ勉強になった。ソコの砥石と手入れキットくれ。このキットの油は植物油か?」
「はい、ありがとうございます。お客様も随分とお目が高いようで。油はオリーブです。」
「ああ、少し齧っただけだ。マダマダ知らないことだらけだ。オリーブか、なら狩猟ナイフにも使えるな。」
「はい。もちろん。」
金を払い。
ミソッカス共をまとめ店をでる。




