41.実技考査
皆、意気揚々と午後の実習に向かう。
明日は半ドンで明後日は休みだ。
午後の授業開始の鐘が鳴り。
第一訓練場には生徒が集合している。
教官がやって来た。
前回の考査から始まる。
カールがイキナリ挙手して大きな声で発言する。
「教官殿!!申し訳ありませんが。ウインドカッターとウインドストームの手本を見せてください。」
「なに?」
「威力の参考にさせていただきます。」
スゴイ熱意だ。押されて教官が動く。
「解かった。一度しかやらない。生徒注目。手本を見せる!」
魔力を溜める教師。
うん。効率悪い。
「ウインドカッター!!」
目標の鉄杭に衝撃波が伝わる。
「ウインドストーム!!!」
これまた鉄杭の周りに竜巻が起きる。
流石、教官、解かり易いようにゆっくり発動している。
アレくらいなら魔力の流れがわかるだろう。。
アレックスも驚いている様子だ。
マルコ兄弟は呆然としている。
「ありがとうございました!!」
列に引っ込むカール。
ジョンに話しかけている。
「ジョン見えたか?」
「ああ、見えたカール。見えた!解かったぞ。」
拳を合わせるカール&ジョン。
なんだろ?この乳兄弟。乳タイプ化している。
まあ、仕方ないよな。
俺はウインドストーム考査のために並ぶ。
「生徒オットー!!この授業での魔法の使用を禁ずる。」
は?
「あの?実習に参加したいのですが?」
「貴様の考査は出席を持って合格とする。」
「では、向うで遊んでいてもイイのですか?」
「良いだろう。俺の目の届くところに居ろ。」
なんと言う問題児扱いだ。
授業崩壊著しい。
PTAが黙っていない。
仕方が無いので片隅で組み手の型練習をし始める。
カールとジョンが考査で合格を貰った様子だ。
ついにウォーター系だ、生活魔法のウォーターを武器にするのだからかなり興味深い。
ウォーターボールは水の球をぶつける魔法だ。
大気の水を集めて投げつける。水と人間の質量は1:1なので速度が破壊力になる。
速度×(水)質量で人間の質量を越えれば人間は吹き飛ばせるだろう。
目指せ音速!!
しかし、自転車の域を超えない学生たち。
そんなのだと避けられるぞ。
ウォーターハンマーはウォーターボールの(水)質量マシマシバージョンだ。芸が無い。
ウォーターカッターの方は高圧の水の帯をぶつけるお馴染みの高圧ほど良く切れる夢の切断魔(切り裂きジャック)だ。
夢がひろがりんぐ。
「はい、失格、次。」
「はい、惜しいが失格、次。」
「はい、全然ダメだ失格。おい、コレから手本を見せるから参考にしろ!」
失格続きで教官の機嫌が悪くなってきた。
もう一回座学から始めるのがイヤ、なんだろう。
気持は分かる。
「ウォーターボール!」
「ウォーターハンマー!!」
「そしてこれがウォーターカッターだ!!解かったか!!」
教官が三連発続けて魔法を使う。
教官、ストレス発散で魔法使うのはどうかと。
まあ、俺も結構頻繁にやります。
ちょっと発動タイミングが速かったから読みきれなかったのでは?
「解かりました!教官殿!!」
「誰だ!!やってみろ!!」
「はい!52番カール。いきます!!」
カールがやるそうだ。
「ウォーターボール!」
構成が一部怪しいところが有ったが。
水の球が目標に当たる。
大きさも速度も問題ない。
「合格!!続けてウォーターハンマー」
「はい!!ウォーターハンマー!!」
うーん魔力構成の細かな部分が雑だな。
バレーボールより大きな水弾が目標に当たった。
「合格!!最後だウォーターカッターいけ!」
「はい!!ウォーターカッター!!」
鉄柱に袈裟懸けに水の帯が当たると、衝撃で振動する音が出た。
「よし!!52番カール全て合格!!向うで自習していろ。」
「ありがとうございます。」
肩で息するカール。
クラスの皆が拍手と感動の言葉を述べている。
カールがこちらに来て近くのベンチに座る。
俺は壁の正拳突きを止めベンチの隣りに座った。
「ありがとうオットー、魔法の何かが解かったよ。」
息の荒いカール。
「魔力の使いすぎだ。休め。」
「ああそうする。」
始めての魔法だったから魔力を全力で使ったらしい。
まあ、良く在る、そのうち魔力の抜き加減も覚えるだろう。
魔法の学習は成功するコトが重要なのだ。
ポケットの中の低級ポーションに魔力を充填して渡す。
「カール飲め低級ポーションだ。」
受け取るカールは貰った小瓶をまじまじと見ている。
おい、早く飲めよ。
「こんなモノでも変わってしまうんだな。なんでだろう?」
「魔法ってヤツは空間や物質に在る魔力を操作して発動するんだ。足りない場合は魔力を放出して発動する。人の持っている魔力量はそれぞれ違う、生まれた時からそうは変わらない。操作できる魔力の濃さも個人で違うだが訓練で何とかなる。」
「そんなの授業で習わなかったぞ。」
「俺が実験して出した答えだ。ココの魔法使いは詠唱で魔法の発動を固定化している。発動の流れが解かっていない魔法使いは威力が落ちたり無駄な魔力放出を行なう。」
カールは眺めていた小瓶をポケットに入れた。
「おい!!飲めよ!!」
「いや、コレは家宝にする。」
「腐るぞ!只の水増しポーションの低級品だ。」
「いやいや、これは家宝の価値があるだろ?」
「はあ、しかたねえなあ。」
コイツは意外と頑固だからな。
仕方ない。カールの肩に手を置いて魔力を充填する。
「今、何やった?」
「俺の魔力の一部をお前に渡したんだ。」
「そんな事出来るのか?」
「ヒール系の、癒し魔法の基礎だぞ。」
「そういえば、お前、ヒール使っていたな。ドコで習ったんだ?」
「ほー良く解かったな。独学と見よう見まねだ。」
「おい、見よう見まねで癒し魔法は使えないだろう?教会が黙っていないぞ?」
「そうか、なら黙っていてくれ。俺が教会に並ぶ様には見えないだろ?」
「お前、堂々と使っておいてソレはないだろ?俺のお袋が教会のシスターだった。少し習ったが出来なかったんだ。」
「う~ん、まあ、次教える内容だから安心しろ。」
「なに?ヒール教えてくれるのか?」
「いや、もっと基礎だ。魔力を相手に分けたり相手の魔力の動きを阻害したりする訓練だ。」
「相手の魔力を阻害?何時だったか俺の作った防壁を消したやつか?」
「お前が作ったのか?知らなかったよ。まあ、応用なんだがな。魔法が発動する前に妨害して後は接近戦が俺の戦闘スタイルだ。」
「だから、素手で訓練してるのか?剣は使わないのか?」
「王国の剣術は俺には合わなくてな。レイピアみたいな剣はすぐに壊れるからイヤなんだ、100人切っても大丈夫なナイフや大鉈、山刀の方が良い。」
「ソレだとフルプレートの騎士には勝てないぞ?」
「ブリキ野朗は大ハンマーで十分だ。」
「ははははブリキ野朗か…。傑作だな。」
「よお、楽しそうだね?何の話だ?」
アレックスが歩いて来た。
どうやら合格したらしい。手を振って迎える。
「ブリキとハンマーの話だ。それよりアレックスおめでとう合格したのか?」
「ああ、なんだか理解出来る様に為ったよ。昔はあんなに苦労してたのにな。」
「全くだ。」
ジョンが答えた、今来たばかりだ。
「合格おめでとうジョン。」
手を差し出して握手する。
「ありがとう。オットーのおかげだ。」
「俺は覚え方を教えただけだ。後は君達の努力だ。」
「よう、ずいぶん揃ってるな。」
マルコがやって来た。
「合格おめでとうマルコ。フェルッポはどうした?」
「ありがとうオットー。弟は次だな。」
「始まったみたいだぞ?」
アレックスが手を庇を作って遠くを見ている。
「うまく言ってる様子だな。」
まあまあ合格だな。
両手で拳を作り雄叫びを上げている。
「どうやら合格した様子だ。」
マルコが安堵のタメ息を付いた。
走ってくるフェルッポ。
「やったぜ!兄さん!!一発合格だ!!」
「よくやったなフェルッポ。」
「「「おめでとうフェルッポ。」」」
「ありがとみんな、オットーもありがとう。」
「どういたしまして、さて、コレで全員揃ったな。」
「あ?いや、まだロビンが来てない。」
ロビン?だれだ?そんなヤツいたか?何を話しているんだフェルッポ?
「合格しました。」
誰だコイツ。
「おめでとうロビン。」
「ありがとうございます。アレックス様。」
「チッ」
「オットー様何か?私に不手際が?」
「いや、何でも無いロビン君、正直君が合格するとは思わなかったよ。」
「何でそんなに残念そうなんですか?オットー様!!」
「さて、俺も考査を受けたいんだが。教官の機嫌良くならないかな?」
「オットーは止めとこうよ。どうせウォーターボールもハンマーもカッターも出来るんだろ?」
フェルッポが何故か拗ねる。
「ハンマーもカッターもやった事が在るがボールが難しくてな。」
「ボールが?なんで?」
「威力を上げる為に速度を上げると熱でウォーターが蒸気に変わってしまう。」
「無くなっちゃうのかい?」
「いや、高温蒸気のままぶつかって飛散する。狭い所で使うと全身火傷の蒸し焼きが沢山出来る。」
「ひどいな。」
「ああ、たぶん即死だ。もう別の魔法だ。建物に立て籠もる敵を全滅させるのにしか使えない。」
「なあ、ジョン。ウォーターボールってそんな魔法だったか?もっと簡単に使える魔法のはずだ。」
「マルコ。オットーに俺達の常識は通用しない。」
「速度を下げれば良いんじゃないの?」
「ウォーターボールは直線でしか飛ばない。発動が解かれば避けるのも容易い。今の戦争は一列になって魔法を打ち合うのがセオリーらしいバカのやる事だ。」
「おいおい」
「ソレは無いだろう?」
カールとジョンが顔を見合わせて抗議する。コイツ等は軍人の家だから兵法を知っているらしい。
「一列に並んで通せんぼして運に任せて戦うなんてアホのやる事だ。俺ならそんなマヌケには数箇所に火力を集中して機動力で突破。後方から突き崩して包囲殲滅だ。足の遅い帝国の重装歩兵に構わず敵将の首を取ったほうが速い。」
日本軍の戦争はそうだった。
大概の魔法使いの戦力は銃兵ぐらいの火力しかない。
カールとジョンが吃驚している。
「オットー、随分と詳しいな。」
マルコが感心している。
「当たり前だ。俺は軍で出世して領地貰って女侍らして旨いものと酒飲んで死ぬまで暮すんだ。その為の努力は惜しまない。」
「生徒オットー考査を始める。こっちに来い。」
教官に呼ばれてベンチを立つ。
「おう、頑張れよオットー。手加減しろよ。」
「オットー、みんなを巻き込むなよ。」
「どうしよう?ドコに隠れればいい?」
「しっかり見ておけ。」
「ああ、もちろんだ。」
友人の声のを背中で聞き手を振って答える。
「生徒オットー考査を開始する。目標前方、鉄柱。」
「オットー、ウォーターボール目標前方、鉄柱行きます。」
大気の水を集めながら目標までの空間に魔力チューブを形成してチューブ内の空気を全て腹の前に集める。
かなりの熱量だが真空内に魔力で加圧した水の球をセットする。
後は開放するだけで真空内部を水の球が加速して音速の12倍で目標に命中。
魔力チューブ内を飛んでいるので音も衝撃波も出ない。
鉄柱は曲がり大地から抜けて遠くに落ちる。
「次、ウォーターハンマー。」
「生徒オットー考査は終了!合格だ。」
「いやいや、教官。コレからが面白くなってきます。」
「問題ない。考査は終了。全部合格だ。」
踵を返し立ち去る教官。
「本日の考査はココまで。」
「「「「ありがとうございました」」」」
生徒達が挨拶をして解散する。
教官に向かって伸ばした手に虚しく風が撫でる。
「おーいオットー!図書室行こうぜ!!」
アレックスが手を振って呼んでいる。
三つの考査を終わらせたのはココに居る6人だけだった様子だ。
俺は一個で全合格扱いだがイマイチ釈然としない。




