番外地:帝国編10
(´・ω・`)本日、先負。
病床のミゲルはベットから立つことは出来なかった。
又の名を、皇帝カルロス12世、カルロス=ペニャーリア帝国の所有者にして絶対的な支配者。
その晩年を終えようとしていた。
「父上。ご機嫌麗しゅう御座います?お加減はいかがでしょうか?」
「ルイス。お前は…。」
「逆賊は全て討伐しました、叛旗を上げた者は全て黙らせました。どうですか?この僕の手腕は。将に帝国を継ぐ者に相応しいと思いませんか。」
「帝国は正統なる者にしか統治は出来ぬ。お前だけでは不可能だ。」
「そうですか。未だあの毒婦の…。あの娘のコトを?しかし、もう無駄です。」
「なんだと!ゲフォゲフォ。」
死神の下の者に特有の色が顔に現れる。
「父上、興奮しないで下さい、未だ困ります。」
「お前は…。この帝国をどうする心算だ?」
「僕の望むのは帝国の繁栄です。征服すべき領土を…。汎人の版図を限界まで広げる心算です。」
「くだらん。」
「おや?父上は教会の教えに逆らい、帝国の発展の停滞期を作った。無論ソレは悪いことではありません。帝国は又、大きくなる時期に来たのです。」
大きく芝居掛った仕草で胸に手を充て敬礼を行なう新皇帝。
「僕の手で。」
反逆者を見る目の皇帝。
「しかし、その手には何も無い様だが…。」
「僕が次の皇帝です、皆が認めました。認めぬ者は誰も居ません。」
「ルイス。正統の指輪を持つ者が帝国の所有者だ。お前は指輪を持たぬ限り帝国は真の支配者の物に成るであろう。」
「父上、もう既に帝国は僕の物です。さあ、任命をお願いします。さあ今ココで。帝国を僕に下さい。」
「よく聞け、ルイス。お前がドレだけ13世と名乗っても。カルロスの後継者は正統の指輪を持つ者のみだ。帝国の指導者は指輪に選ばれるのだ…。ソレを忘れるな。」
「父上、そんな事を今更。指輪は失われました。父上が気まぐれに与えた女の為にドレだけの兵が死んだのか判りますか?」
「神聖なる汎人帝国の正統性は血統とその受け継がれる精神だ、帝国はその器でしかない。」
「その様な世迷言を。時代は変わるのです。ソレに合わせて帝国も…。新しい時代の帝国は僕が作ります。父上は神の身元でソレを眺めていてください。」
「正統の指輪を探せ。帝国の所有者を…。」
主治医が脈を取る。
「今日はココまでで。」
「判った。」
寝室を出る、新皇帝。
廊下には親友であるアルカンターラ伯が控えていた。
「やあ、伯爵。指輪は見つかったかい?」
「申し訳ありません、皇帝陛下。あの女の屋敷と墓を暴きましたが見つけることは出来ませんでした。」
沈痛な面持ちの伯爵。
続けて答える。
「カーレーもクロデラートも主立った行動に出ていません。奴らが手に入れた形跡は無いです。」
安心するが苦い表情の新皇帝。
「そうか。誰かが手に入れた形跡も無い。無い物ならば問題は無いだろう。僕が持って居るコトにしよう。」
「はっ。墓を暴いてあの女と娘の遺体は確認済みです。埋葬時の状況も兵の証言通りです。回収した指輪は皇帝陛下が女の為に新しく作って贈った物でした。」
「そうか、指輪は失われたか。幸い、儀礼用のレプリカは在る、形だけだが問題は無い。他の者には判らないだろう。しかし、あの女。何処に隠したのか…。」
「はっ、引き続き捜索を指示しましたが、大事には出来ません。」
「解っている。引き続き、異端者の捜索を理由に続けよ。又教会の連中の我侭を聞かねば成らぬのか…。」
「南への治安維持には教会の兵を推薦しました。戦監の為です。不穏分子狩りは彼らがやってくれます。」
「南の貴族連中は大人しくなったが。正直、信用できん。」
「ソレは我々も同意見です。民意を統一する為に、もう既に外征の為に準備を行なわせています。」
「そうか、ソレは良かった。ソッチは君に任そう。僕は皇帝の仕事がある。」
視線を合わせ、息を吸い込む親友たち。
「「全ては神と汎人の帝国の為に。」」
「ありがとう、伯爵。」
「いいえ、皇帝陛下。蛮族の制圧を進めます。新皇帝の名に置いて。」
「では、僕は帝国を掌握しよう。父が神の御許へ行く前に。」
進む新皇帝。
伯爵は皇帝の背に向けて頭を垂れる。
新皇帝の背中が見えなくなると途端に機嫌の悪い表情になる。
「シャルヴィエール大尉は居るか?」
「はっココに。」
「お前の失態の為に私の顔は潰れたのだ…。いや、止めて置こう。お前達はあの女と娘を見事にカーレーの手に拠る物だと示して見せたのだ。」
「はっ、寛大なご処置に身を震わせる思いで御座います。」
「お前の持って来た指輪…。偽物を掴ませるとは飛んだ毒婦だったな。女の扱いを覚えてなかったのか?」
「返す言葉もありません。」
叱責に耐える、嘗ての襲撃者。
「よし、気が晴れた。で、指輪の捜索はどうなっている?」
「はっ、屋敷を全て…。分解しましたが発見は出来ませんでした。」
「そうか、娘と女の死体を捜索して川を攫ったが出てこなかった。指輪は無い物として扱うが…。捜索は行なえ。誰にも知られるな。」
「はっ!!」
「下がれ。」
一礼して立ち去る襲撃者。
公爵は新皇帝と別の道を進む。
「将軍は居るか?」
「はい、ココに。」
呼ばれて早歩きで追いかける将軍一礼後進みながら話す。
「近々蛮族の制圧を行なう。準備はどうか?」
「はい、威力偵察の結果が出ています。蛮族の兵は思ったより機敏で御座います。少々手強いかも…。」
「何だと将軍、冗談は止せ。」
立ち止まり将軍の顔を見る。
「はい、軽騎兵と軽装歩兵による連携機動を行ないました。コチラの予想を上回る速さで御座います。蛮族の都を落すのは少々難しいかと。」
「困ったな。」
「私としては、搦め手をお勧めします。」
「何だと?」
「コチラに計画案が御座います。」
冊子を渡す将軍。
目を通す伯爵の顔が厳しくなる。
「これは…、軍ダケの作戦では済まないだろう。」
「はい、しかし。作戦準備に時間と労力が掛りますが。兵も少なく安く済むかと…。兵の準備も早く済みます。」
「解った、吟味せよ、実行計画を立て提出しろ。皇帝陛下には俺から説明する。」
将軍は頭を垂れ進む伯爵を見送る。
「はい、畏まりました。」
一人呟く伯爵。
さて、帝国は手に入れた。
後はどうやって戦うかダケだ。
汎人の繁栄の為に。
(´・ω・`)なので、午後にもう一話投稿しますん。




