番外地:帝国編8
(´・ω・`)ゞ 番外地始めます。
「熱い熱い」
薄暗い、狭い窓の箱型馬車。
その中で焼け爛れた皮を晒し啜り泣く少女。
「大丈夫よ?今包帯を変えるからね、油を塗るから。」
その狭い窓には鉄の格子がはめられて、手元を薄暗く照らすだけだ。
「チッ!五月蝿いぞ!静かにさせろ!!」
スライドの小窓が空き、出っ歯の小男が苛立たしい声で叫ぶ。
兵達から女を買った男だ。
「ちょっと、もっと包帯を頂戴。あと、薬、次の停車場で包帯を洗うからね!熱を下げないと。」
首輪をした少女は気丈にも主人に噛み付く。
「勝手にしろ!!」
イラついた小男はスライド窓をピシャリと閉める。
”くっそ、こんな傷物に何で金貨四枚も!!”
小男のボヤキが聞こえる。
「はい、大丈夫よ、ちょっと痛いけど我慢して。火傷には油が一番良いからね?滲みるかもしれないけど我慢して。」
「あ、はい。あの。マ、メイドのミカです。」
「はい、包帯換えるからね、あたい、タニア。」
タニアと名乗った少女には首輪が有った。
「あの。タニアさん。」
「うーん、ミカ、タニアで良いよ?」
「ココは何処ですか?おか…。おくさまは?」
「馬車の中よ。命は助かったの。神様に感謝して。」
「はい。」
暗く答える少女。
タニアはミカの包帯を外し始める。
「うーん、あたいは、生まれた時から足が悪くてね。兄弟が多かったから子守が仕事だったんだ。で、商家の子守の仕事の口が在るって、言われたんだけど…。」
滲む乾いた包帯を剥がすと痛みに泣く少女。
タニアは傷口に油を塗ると洗いざらした布で巻いた。
「さあ。おやすみ。ミカ。がんばって。はい、次の、ちょっと!この女足が化膿してるんだけど!!」
「あ?何だって?」
「足の先、化膿してる。熱が引かないの!」
「ちっ、この先の水場で切れ!!」
「ちょっと、薬、無いの?」
「在るが…。勿体なくて使えるか!!お前はしっかり世話しろ!」
「もう、どうすんのよ。」
水場で夜を明かす一団。
のこぎりを持った男が女の身体を押さえ、歯を立てた。
焼き鏝の止血の焼き鏝、女の泣き叫ぶく声で、その夜は皆が眠るコトが出来なかった。
馬車は東に進み。
村に立ち寄る毎に馬車の中の人は増えた。
峠を越した少女は引き攣る爛れた皮膚により身体を起こすコトも出来ず。
狭い馬車の中で唯座り動くコトも出来なかった。
馬車の狭い窓からの光りが昼と夜を告げていた。
新しい人が馬車の中に加わる。
「よし!やっと揃った。これで蛮地へ向える。今日は景気を付けるか!」
珍しく野宿でなく宿屋に入る小男。
宿の者が小窓に固いパンを投げ込む。
ソレを争いながら奪い合う奴隷たち。
「ちょっと!あんた達!!分け合いなさい。後で鞭で打たれるよ!!」
途端に大人しくなる奴隷。
「分け合いなさい。唯一無比なる神様が見てるんだから。」
渋々手に入れたものを手放す奴隷達。
「はい、ミカ、あんたの分。ほら、前歯無し。水貰ってくるから、ふやかして食べなさい。」
「…。」
無言でパンを齧る女、髪は散切りで足の先は無い。
歩くことも出来ず薄汚れた馬車の中で這いずる者だ。
馬車の屋根に多くの荷物が積まれる。
その前で声を荒げる小男。
「おい、高いだろ!」
「昨今の相場です。昨日の市場の出来高を確認して下さい。」
「ちっ!足元ばかり見やがる!!」
金を払い、荷を受け取り仲買人が立ち去ると、その見えない背中に悪態を付く小男。
「まあ、良い。全部売り切ってやる!!」
馬車は東を目指す。
帝国をはなれた馬車は徐々に人の痕跡の無い場所へと移動する。
荒野に、草原。
森に、河。
湖に谷。
村に着けば、元気な者から馬車を降りる。
男が多い。
降りるたびに小男の機嫌が良くなったり悪くなったりする。
機嫌の悪い時はタニアの顔で判る。
酷く、腫れた顔をしている。
「くそっ!!無駄飯喰らいが!」
それから酷く機嫌が悪い日が続いた。
ある日、森の中を進む馬車は遂に死神に追いつかれた。
狼だ。
森の木々の間から遠吠えが鳴り止まない。
群に囲まれたのだ。
日が落ちても馬車を急がせる小男。
「くっそ!!何でこんな所で。走れ走れ!!」
馬を急かせるが限界は近い。
「ダメだ、逃げ切れない。狼のヤツめ。大損だ」
”丁度、言うことを聞かない小さいのが居る。良い貴会だ。”
小男は呟く。
馬車を止める。
「おい!!タニア!!」
「なんですか?」
「おい、娘、喜べ。自由にしてやる。」
「あの?、こんな所で?」
「ああ?その娘でも良いんだぞ?歩けない奴隷の使い道の一つだwww。よく見ておけw」
火傷の少女を指差す。
首輪の少女は言葉を呑む。
手が伸びる、避けようとするが首輪の少女の髪を掴む小男。
森の中で馬車から首輪の少女を引きずり下ろす。
タニアから首輪を外し蹴る。
「痛い!」
「お前は自由だ。精々、長く生き延びろ。全知全能の神のご加護を。ハハハハハ。」
笑いながら馬車に乗るゴンザガ。
「ちょっと待って!!助けて!!」
タニアを森において走り出す馬車。
火傷を負った少女は檻の隙間から地面に倒れて馬車を見送るタニアと目が合った気がした。
走り出した馬車からはスグに森の暗闇に隠れて見えなくなった。
ただ、少女には最後の悲鳴と狼の遠吠えだけが何時までも耳に残った。




