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362.帰還2

軽い腰つきでマイト先輩の工房に向かう。


商売の話だ。

ナークス工房の暖簾を潜ると親方が仕事をしていた。

「こんにちは。オットーです。」

「おう、マイトのヤツは学校だ。作業場なら自由に使え。」

「はい。親方、手が空いたら少々お話が。商売の話を持ってきましたので。」

「おう、解った。一段落するまで待ってくれ。」

「はい。」

工房の一角、俺の机に道具を並べる。

量産用の印刷機だ。

以前の物の改良型だ。

アレは取り合えず作った(DIY)感が激しいからな。

今回は頑丈な物を作った。

1日1000枚刷っても大丈夫だ。

問題は版の管理だ、盗まれると大変だ。

自作の攻撃お札と治癒の札は二色刷りで版には三箇所の空白が在る。

最後の仕上げに無色インクで判子を打つ

ソレで回路が接続される”ショートランド”が用意されている。

短絡位置は口頭で伝える心算だ。

動作確認を行ないながら親方を待つ。

「ただいま戻りました~。」

マイト先輩の声だ。

うん?早いな、何か有ったのか?

「おう、マイト、オットー様がお見えだ。」

「え?親方?はい解りました。」

カバンを自分の作業場に下ろすマイト先輩に話しかける。

「ああ、すみません。マイト先輩、実は注文…。と言う程では無いのですが。仕事を貰いました。」

「え?そうなのですか?どんな仕事ですか?」

「色々ややこしいので親方の手が空いた時にでも…。」

「おう、形が付いたぜ。何の話だ?」

うん、タイミングが良い、流石ゲーム。

「はい、ソレでは、実は軍からスクロールの発注を受けたのですが。量産体制が揃いません。」

「あ?軍?王国軍か?」

「え?あの、なぜ?」

驚いた顔の師弟。

「はい、王国軍に以前、知り合いの雑貨屋を通して魔法のスクロールを納品したのですが。追加注文を頂きました。」

「いや、いや、王国軍に納品は出来ないだろ?」

「あの…。オットー様。軍との商売は大店で無いと…。」

「はい、幸い、軍の上層部に親族が居ます、口利きで便利魔法を捻じ込んだところ採用されました。」

「そうか…。口利きか…。」

「軍の上層部…。」

疲れた顔の師弟。

何か問題が在るのか?

「それで、軍は追加注文を出したのですが今の所在庫で何とかなります。値切って来たので価格を下げずにオマケの魔道具を付けて次世代商品で販路を広げようと思います。」

「む?指定納品なのか?」

驚く親方。

指定納品とはその名の通り指定した物を買うコトである。

が、この場合は、君の会社のこの商品を買うから幾らで納品できるか?の問い合わせだ。

「はい、その商品の在庫は在るのですが、価格を下げることが出来ません、追加生産と次なる商品サンプルを用意して量産体制を在る程度確保する必要があります。」

「えーっと、オットー様?軍は買うことが決っているのですか?」

「はい、先輩。予算の枠が許す限りの数を買うみたいです。しかし、納品金額を下げるコトは出来ないので、新商品を幾つか無料で納品してトライアルを行ないます。次の販路の為です。」

「なるほど…。ソレは解った。何を作るのだ?」

「そうですね…魔法お札、無限水差し、魔法コンロ、ファーストエイドキット。後は…。携帯食製造装置?」

「…。」

「え?あの、何ですか?」

「ああ、簡単なモノから並べたのですが…。先ず、魔法お札から行きましょう。」

現物を親方に渡す。

タダのメモ帳に見えるが布束だ。

木の板の表紙と裏表紙が付いている。

「なんだ?コレは?納品書か?」

「一枚引きちぎって目標を穴から覗き魔力を通すと書かれた攻撃魔法が発動します。」

「ほう?スクロールではないのか?」

「一回限りの使い捨てです。後ろの色違い5枚は簡易治癒魔法のお札です。」

「なるほど…。何が書いて在るか解らんが。コレは複雑な紋章だ。かなり手間が掛かる。」

「はい、コチラに量産装置を用意しました。」

机に並べた印刷装置群を見せる。

「量産装置…。」

「はいマイト先輩、印刷機です。」

瓦版印刷機だ。効率が悪い。

正直、絹の布が欲しい。

シルクスクリーン印刷で一発だ。

「紋章を…。判子にしたのか?」

「はい、親方。」

「なるほど…。ソレなら沢山、いや。魔法インクなんてソンナに量を使うわけが無い。何に使っているのかと思ったら…。」

呆れているのか?

「そうですね、インクの無駄が多いので改良の余地は有ります。」

「オットー様、コレでスクロールを作れば…。専門の書記職人が要らないのでは?」

「コレは小さい物しか印刷できません。スクロールサイズだと…。もう少し大掛かりなモノになります。」

「作ったのか?」

「試作品は在ります。精度が悪く大量生産には向きません。精々1日数十枚です。」

「オットー様。スクロールはベテランの書記職人でも1日二三枚が限界です。」

呆れる師弟。

まあ、手書きならその程度だろう。

「はい、なので印刷機を作りました。版は粘土を固めた物なので割れます取扱に注意してください。あと、盗難にも。備えは在りますが…。」

版の在庫が無くなったらマスターからコピーを作らなくては成らない。

「解った。穴は位置合わせのモノだと解るが…。何故同じものが二台在るのだ?」

「鹵獲されて解析されると困るのでコピー防止の無色インクで二色刷りです。両方揃わないと動作しません。後は…。面倒ですが手で記入箇所が有ります。版が盗難に有っても製造できません。」

「ソコまで考えているのか…。」

「無色インクはこの為なのですか?」

「はい。」

「マイト、コレはお前に任せた。」

「はい?親方?」

「俺は知らん。公爵家の秘匿だ、知りたくもない。」

立ち去ろうとする親方。

だが待って欲しい、未だ量産品は在るのである。

「では、次の商品を…。」

「未だ在るのか?」

振り向く親方。

よっし!食いついた。

無限水差しを出す。

「コレは市販の水差しを改造します。銅製の水差しに魔石とエンチャントを付けた物です。」

「うーん、かなり…。手間の掛かる紋章だ。」

「ああ、授業の時の…。では無いですね。」

眉を潜める親方と驚くマイト先輩。

確かに曲面に彫るのは手間が掛かる。

なのでコレは量産試作品だ。

「はい。紋章は”電気メッキ”処理で一発で仕上げます。」

「”DEN”?何ですか?」

「薬液の中に二つの金属を入れて雷撃を流すと溶けた金属が片方に付きます。」

「はあ?」

「うん?そうなのか?」

首を傾げる親方。

「はい、なので付けたく無い場所に脂を引きます。」

「つまり…手書きして…。いや、コレは手書きでは無いな?」

「はい、印刷です。マイト先輩、”こんにゃく”版と言うのを知ってますか?」

「”KON…。”すみません解りません。」

「現物はコレです。ゼラチン質の板にインクを載せて転写します。柔らかいので曲面に印刷できます。」

プルプルのこんにゃく…。ゼラチン版を見せる。

「…。どうなるんですか?」

「判子でインクが乗った所だけメッキ定着せず地金を残します。洗い流した後にもう一度別の合金のメッキを行なえば強固な皮膜で紋章を守ります。」

師弟が目で会話する。

このこんにゃく版は曲面に印刷できるのが利点だ、但し、版の寿命が短い。

数十枚も無いので版の大量生産に掛っている。

残念だがソコまで上手く行かなかったので、ゼラチンを型に流し込んでゼラチン判子を作った。

精々、20個程度しか印字できない。

ゴムかシリコン樹脂の製造の秘密が必要だ。

ゼラチン判子はインクで汚れた部分を削り、湯煎して材料を足し型に流せばよい。

型に入れる途中にガーゼを敷き大きく割れにくい判子になる。

膠自体は接着材として売っているので、水の配合で判子としての硬さを出すのにちょっとコツが要る。

安い、別を言えば100個の製品を作りたければ5個判子を用意すれば良いダケだ。

「簡単に言うが…。雷撃魔法なんてどうやるんだ?」

「ああ、親方。大丈夫です。コチラに魔力的直流電源装置を作って置きました。」

収納から机の上に出して、+-のクリップをショートさせる。

大きな円盤型の板で中央のダイヤルを廻すと紋章の書かれた遊星ギアが回転して紋章が切り替わる。

台座に電源ターミナルが付いて電圧は指標値、電流値は振り子の速さで判る。

バチバチ小さなアークが飛ぶ。

よし、電流保護回路が働いている。

翔ちゃんは何故か発振回路とスイッチング電源に詳しいので作ることが出来た。

なお。魔法では何故か高電圧しか出せないので降圧チョッパー式である。

発振パルスを制御することで在る程度の電圧変化も出来るダイヤル付だ。

幸い、メッキに必要なモノは安定した小電流を長時間流すコトだ。

この回路では大電流は取り出せない…。

難点は魔法回路でもAFまでの発振しか出来ない。

超音波洗浄層は二つの共振周波数で59kHz付近まで発振できたのだ。

MHz帯の発振は夢の又夢だ。

魔法無線回路は今の所頓挫している。

この電源装置もkHz帯の発振周波数なので効率が悪い。

魔法発電所は夢の彼方だ…。

核融合炉が必要なのだ。


「マイト、俺は頭が痛い。後は頼んだ。」

「え?親方。待ってください。」

「はい、メッキ過程は有害なガスが発生します、換気を充分に。薬液も危険な物が多いので取扱に注意してください。」

「ガス?危険な薬液?」

「おいおい、どうするんだ?」

「換気を十分に行い、空気を吸わないで下さい。薬液は中和して揮発させ、残った液体は漆喰を混ぜ壷に入れフタをして固めます、乾燥した所に保管します…。」

「保管?数が増えたら置き場が無くなるぞ?」

「一度に大量生産すれば薬液の使い回しが出来るので。暫くは廃液の出る量は少ないハズです。」

「まあ、良いだろう。」

あの世界ではクロムメッキ廃液は三価クロムに変えてタイルの釉薬に使うらしい。

かなり難しい錬金だ。

翔ちゃんの知識でも曖昧だ。

液体はブロック(漆喰)で固めて保管した方が楽だろう。

ソンナに大量に使うワケでは無い。

今の所…。

良いアイデアが無い。


その内考えよう。

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