361.帰還1
さて、トーナメントで魔法使い同士の決勝大会は随分と話題に成ったが。
そんな話題も忘れさられ始めた頃の話だ。
最近は1日学校をサボるコトが多くなった。
クランの連中の技能が上がったので大体は3っつに分かれての講習会だ。
A、B、+C(の一部)と-C&Dの牛の穴、そしてF班だ。
Dにはエルフの冠を参考にした強制学習装置によりムキムキと上達している。
スゲエな自衛隊体操…。
面白半分に罰則を腕立て伏せや徒手格闘戦にしたら少年から兵隊の顔に成った。
お陰で良いデータが取れた。
総合強化冠が出来るだろう。
刺青紋章では無く新しいアプローチが出来る…。
但し、未だ実験体が少なすぎる…。
新しいアイデアを考えながら、青隠者姿で冒険者ギルドへ向かった。
時々は冒険者ギルドで数日前のベスタの居場所を確認していた。
早ければ、今日明日にも帰ってくるだろう。
計画より数日、遅い。
エンリケの店に行く前にギルドでの詳解が習慣になっている。
手早く用事を済ませると。(主に書類にサインとミノ太革で膨らむ預金金額を眺める仕事。)
次の仕事に掛る。
節穴親父の武器屋に向かう。
サンプルを渡したが今だ軍からは返答が来ない。
困った、年内ギリギリに節穴親父に納品すると言う嫌がらせが出来ない。
なんと言っても流石にポンポン、青色狸ロボットの様にポケットから剣が出てくるのはおかしいと思うハズだ。
嫌がらせ程度に週一で顔を出している。
刀身ダケの剣を持ってだ。
実は適当に30本生産した剣を毎回、小出しにして売りに来ている。
布の巻かれた刀身3本を持って武器屋の前に立つ。
店のドアーを開けると満面の親父が出迎えた。
「よう、来たな。待ってたぜ?良い知らせが在る。」
「軍からの返答はなんだ?」
「ああ、お待ちかねの返事が一昨日に届いた。」
満面の親父だ。
「そうか、そりゃ良かった。俺が破産する所だった。」
俺はカウンターに布に包まれた刀身を載せる。
「先方は早く納品して欲しいそうだ。」
替わりに親父は俺の作って完成品になった剣をカウンターに出した。
”採用決定”という布の紐が付いている。
「おいおい、コレだけ待たせて返事はソレか?」
帰って来た剣を調べる。
二番目に長いヤツに決定したか。
色々切って試したらしい、大きな刃毀れは無いが…。
「お役人なんてそんなモンさ。で、何時納品できる?」
あ、鉄切りやがったな?
鎬に擦れた後が付いてやがる。
サンプル剣から目を離さず親父に言う。
「材料は揃っている。年内ギリギリだな。借りている工房の期日まで一杯掛る。年内に間に合わなかったら追い金だ。」
そう言うコトにしている。
魔法の様に材料は出てこない。
ゲームの様に時間が立てばPOPもしない。
なので、節穴親父には”材料を手配した。工房を借りたので金が掛る、ソコで作った試作品を買い取れ。”と捻じ込んだ。
そう言う設定だ。
週に、1、2本の刀身、又は打ち直しの剣が5本を親父の店に卸している。
前回は1本しか持って来なかったら親父がブー垂れたので今回は3本だ。
残りは数本しかない。
「そうかい、じゃあ来年の早々と言っておくよ。追い金分は稼がせてやるぜ?」
親父の顔が綻んでいる。
「材料が有ればな。炭が足りなくなる。」
包みを開けて検品する親父。
「ほう、今回もサーベルなのか?」
「ああ。同じ剣を…。と言う注文だからな。色々と準備や道具を調整しているところだ。まあ、同じものを作る練習だな。」
わざわざ形を微妙に変えて手作り感を出した逸品です。(製造時間3分×30本)
「うん。大したもんだ。」
節穴が商品を見ているので店内を見渡す。
壁に掛った剣は俺が作った物が多い。
特に変な形の剣はそのままだが、毎回来るたびに微妙に配置が変っている。
まあ、ボチボチ売れているんだろう。
樽リサイクル剣の拵えを変えた物まで壁に飾って在る。(高額で)
「ちっ。」
「よっし、前回と同じでどうだ?金貨30枚だ。」
満面の笑みの親父は人差し指を立てたまま笑顔で答える。
1本金貨30枚と言う意味だ。
「おい、大丈夫か?誰が買うんだ?そんな高い剣。」
「おいおいおい、おめえさんの作った剣は名工が作った剣なんだ、数日前のサーベルも拵えは出来てないが、もう買い手が付いている。別のヤツは自分の手に合った拵えで作って欲しいと言う予約だ。」
「鍛冶ギルドの連中が文句言ってくるだろう?」
「うん、そうだな。おまえさんの剣は外国の剣だと言っている。俺は刀身を材料で仕入れているダケだってな。」
くっそ、コイツ、トラブルの元だ。
「何時までも誤魔化せないぞ?真っ当に剣を仕入れろ。」
「ああ、最近やっと材料が入るように成り始めたからな。注文した物がやっと入る。だが年内は無理だ。」
「なら良いが…。」
「おいおい、コレでも俺は感謝されてるんだぜ。何てったって、仕事の無い拵え屋にも仕事を廻している。仕入れ先は言ってないが、おまえさんの作った剣を鍛冶屋に見せたら信用したぜ?”外国の剣だっ”て。」
「そうか?」
おい、見せたのか?
「そうだ、”形も地金も見たこと無い”てな、”壊して良いか?”とまで言われた。まあ流石に断ったが。」
「大丈夫か?その鍛冶屋。」
口は堅いか?と言う意味だ。
「ああ、一応は馴染みの鍛冶屋の親分だ、目は確かだ。まあ、お前さんがどうやって作っているのかは秘密にしたいのは解る。外国には厳しい世界だ。」
ああ、流石節穴だ。違う意味に取ったらしい。
そうだな、確かに余所者には厳しい。
仕方が無い。
「まあ、どちらにしても来年からは入らないと思ってくれ。材料が無い。」
「そうか…。残念だ、まあ、良い稼がせて貰った。感謝してるぜ。」
酷く残念そうな節穴親父。
刀身を仕舞い金貨90枚を出す店主。
まあ最後にデカイ儲けが在るんだ。
諦めも付くだろう。
金貨を受け取り。
もう一度店内を見渡す。
あのツヴァイヘンダー型の剣が無くなってる。
「おい、親父?あの剣売れたのか?切っ先しか刃の無い長い剣?」
「あ?ああ、売れたぜ?この前、軍学校の学生さんが見て騒いでた。」
「軍学校…。」
嫌な話だな。
「取り置きしてくれって言われて、その次の日には血相変えて学生が買いに来た。その後も金をかき集めて来た見たいな学生が2人だ。?あんな長い剣どうやって使うんだろうな?」
「さあな。お飾りには丁度良い剣なんだがな(棒)」
「そうだな、その後は軍学校の教師が来て、あの長いのは全部買って帰ったぜ?”在庫全部だせ”て言いやがった。」
「全部か?」
わーい、びっくり。
「ああ、刀身にお飾りの在るヤツまで買って行きやがったな。結局、えー。そうだな。2本軍学校に行ったな。後は3本は学生、完売だ。」
思わず無言になってしまう。
そうか、あれの使い方を知っているのは俺ぐらいだが、俺の剣捌きを見た人間は多い。
面倒なコトに成っていそうだ。
「まあ、あんな物もう売れないだろう。」
沈黙を破る節穴親父。
とりあえず肯定しておく。
「そうだな、見栄えは良いからな。」
大丈夫だろう、この世界の鋼ではアレほど長い剣は作れない、強度を出す厚さにすると人が振り回せる重さではないだろう。(ココ重要。)
そのまま、節穴武器屋を出て路地で、サンプル剣を収納した。
エンリケの店まで歩きながら考える。
偽鍛冶屋は年内で閉店だな。
新しい金蔓を用意しないと…。
食肉加工は順調だ。
数が多すぎるので歳を取った司祭には捌ききれない量のミノ太が収納の肥やしになっている。
邪教の信徒も肥えてきた。
近隣の信者や貧民に肉を配っているらしい。
順調に…順調すぎる。
”お肉の人”の名声が上がっている。
牛につられて信者が増えたらしい。
理論は良く解らんが信者が感謝すると俺の”冥府ポイント”が微増する。
邪教の教会に元皮なめし職人の老人が子供達になめし方を指導していた。
皮なめしは家内製手工業になったが…。
係る人が多すぎる。
何時までも肉が湧くダンジョンではない。
ダンジョン攻略が成功した暁には一気にミノ太経済基盤が崩壊するだろう。
何とか自活して…。俺に金だけ入る仕組みを作らないと…。
正直、冥府ポイントは要らないからな。
色々思案を巡らしながらエンリケの店に着くとブランが店番をしていた。
「いらっしゃいませご主人さま。」
無表情、普段着のブランだ。(パタパタ)
「おう、ブラン、来たぞ?イレーネは何処だ?」
「奥で休んでます。」(しゅーん)
「そうか。なにか手伝うことは無いか?」
イレーネはつわりが始まったらしい。
しばらく動けないだろう。
「はい、子作りです。ご主人。」(パタパタパタパタ)
「そうか、しかし他にやる事は在るだろう。」
「はい、お父様の上で子作りです。」(パタパタパタパタ)
ブランに父親の毛皮を渡したが自分の部屋の絨毯にしているらしい。
暖かいので夜は全裸で寝てるそうだ。(俺もイレーネも試した。)
「まあ、待て。イレーネに挨拶だ。」
「オットー様。お見えですか?」
イレーネが出てきた。
顔色はソレほど悪く無い。
「イレーネ、気分はどうだ?」
「はい、大丈夫です。娘の時より随分と軽いです。」
「そうか、何か食べたいものが有ったら言ってくれ、手に入れてくる。」
「はい、でも、食欲は在るので大丈夫です。」
微笑む、イレーネ臍の下の紋章に手を当てている。
「おかあさま。」
「まあ、ブラン、いけませんよ?オットー様に我侭を言っては。」
笑顔で無表情にブランの頬を叩くイレーネ。
「痛い痛い、おかーさまこわいです。」(ペシペシ)
「ああ、待て、そうだ。ギルドで商隊の位置を確認してきた、二三日中には王都に到着するだろう。」
「まあ、そうですか…。お祝いの準備を。」
「おぼこは無事おぼこ?」
無表情に首を捻る狼娘。
「さあな。大きな問題は無かった様だ。」
便りの無いのは元気な証拠の異世界だ。
知らない間に女に成って居ても生きて帰ったら祝福するのが習わしだ。
子供が増えていてもな。
「まあ、そうですか。では準備を。」
「そうだな、何か変わったコトは有ったか?」
目を合わせる母娘。
「軍人さんが訪ねてきました。以前買い取った”収納魔法”のスクロールを注文したいと。」
「なに?そうか。」
マジかよ、追加発注か?
「ソレで。数を購入したいので見積りが欲しいと。定期的に購入したいとの話です。」
「そうか…。小量は在庫が在るが…。」
大量と成ると生産設備が必要だ。
GUIには
”収納魔法スクロール ×53”
だ、一回二回の注文なら何とか成るだろう。
「口では言いませんでしたが、安くしてほしいと言う雰囲気でした。」
「うーむ、ココは勿体つけて売る所だな。どうせ軍の予算は決っている。安くしても更に安くしろと言われるダケだ。」
「はい、そうですね。」
微笑むイレーネ。
いかん、グッと来る。
静まれ俺のボローニャ。
「とりあえず…。娘が帰って来るまで返事を保留しよう。娘が行った方が良さそうだ。」
「はい。20日以内に返事を…と言われています。」
「値段は下げることは出来ないが…。オマケを付けると言え。」
「オマケ?ですか?」
「作っている工房の…。試作品だと言えば良い。サンプルを持って来よう。」
「はい、わかりました。」
軍からの追加注文か、新しい商売のチャンスだな。
恐らく俺の手紙の”魔法使いによる補給網”に在る程度の成果が有ったんだろう。
軍を強化して軍事費を俺が搾り取る。
エンリケの店を使って。
量産はマイト先輩の工房でやらせよう。
俺は量産装置の設計と重要な部分を作れば良いだけだ。
先輩の親方はかなり手先が器用だ。
俺では作れない物も設計図で作ってくれる。
「ご主人。お食事はどうします。」(パタパタパタパタ)
涎を垂らして尻尾を振るケダモノ。
「まあ、ブラン。さっき食べたでしょう?」
妖しく微笑むイレーネ。
ふかふかの白い毛皮の上で食べた。
(#◎皿◎´)妊婦に…。俺はそんなに鬼畜ではない。
(´・ω・`)…。(イレーネは手伝っているダケだと思うの。)




