358.トーナメント準決勝
さて、次の試合が始まっている。
赤毛のまな板と教師が戦っている。
この戦いの勝者が俺の相手だ。
良い試合だと思うがイマイチ赤毛の突きに鋭さが無い。
結局教師が勝った。
試合が終わり勝利宣言する主審にホッとした顔のまな板。
「おい!生徒アルヴィナ、手を抜いていただろう後で特別訓練だ。」
教師の鋭い声で青くなるまな板。
何やってんだ?
フェルッポのカタキが討てないだろう。
まあ、どちらにしても次の相手は教師だ。
騎兵科の教諭でゲオルグ・エーデルベルグと言う退役騎士だ。
小柄だが歴戦の士官だろう。
終わった所で、国王が入場した。
群集の歓声に迎えられ、貴賓席に座る国王。
国王だけだ、王妃も王子も来てい無い。
コレは好都合だ。
次はアレックスと軍学校3位との戦いだ。
緊張した面持ちのアレックスは上手く剣を捌いている。
悪く無い。
応援の声にも熱が入る…。
「なんだ?あの奇抜な集団は?」
貴族席の一角に何か…。
ちんどん屋が占領している。
「ああ、アレがアレックスの家の者だ」
「遠目でもワイヤード家の者と解るだろ?」
「ああ、伝説の通りだな。」
答えるのはマルコで続く乳タイプ兄弟。
マジかよアレックス、伝説級かよ。
かなり年上の御夫人が黄色い声を出している。
アレックスの母上か?
美人だが服が派手だ。
残念美人だ。
良く似た女性も居る。
アレックスに色々いい加減なコトを吹き込んだ姉上だろう。
危な毛なく。前髪が勝った。
ちんどん屋が大盛り上がりだ。
良い試合だったので国王も喜んでいる。
無様な試合をすると一生言われそうだな…。
次からは本気を出そう。
剣士科の実技教諭と軍学校1位の試合だ。
重装甲兵の教師が盾で切っ先を捌くが1位の生徒はスピードと手数で勝っている。
速さが足りない教師は不利だ。
しかし経験値の差で良く戦っている。
最後は生徒が急所を突いて勝利した。
アレックスの次の相手は軍学校の1位だ。
残念だな。アレックス。
お前の相手は同じスピード系だ、素早さが足りないほうが負ける。
準決勝が近づくに連れて緊張感が走る。
ロビンはオロオロしている。
ロリロリは無言だ。
「次の俺の相手は教師だな。」
ストレッチを行う。
マルコが解説する。
「そうだな、ゲオルグ・エーデルベルグ准将だ、騎兵を率いて帝国との戦いで難しいコトを成し遂げてきた指揮官だ。」
マジかよ、百戦錬磨の将軍じゃん。
「ああ、敵中突破や、長距離偵察で有名だ。」
何だよジョン、そう言う事は早く言えよ…。小手先技が通じない相手らしい。
素手では無理だ。
困った、本気出すしかない。
鐘が鳴った。
「準決勝、第一試合を行ないます。準備して下さい。」
「やれやれ、征ってくる。」
ヘルムを被りマスクをする。(コーホーコーホー)
ガントレットの感触を確かめ、収納から切っ先かます型の剣を2本だし
両手に持つ。
二刃流だ。
群集の歓声の中ゆっくりと闘技場に向かう。
皆から注目されている。
右手から対戦相手の初老の男が歩いている
鎧姿で一見細身に見えるが姿勢が良い。
老いを感じさせない足取りだ。
ヘルムの面を跳ね上げているので表情は解る。
白い物が混じったカイゼル髭と顔に刻まれた皺と古傷。
歴戦の将軍らしい風貌だ。
主審を前に選手が並び国王の席に一礼する。
群集から拍手が沸き起こる、なるほど…。ゲームの面影が在るな。
「では、コレより準決勝、第一試合。魔法学園、オットー・フォン・ハイデッカーと軍学校騎兵科教諭ゲオルグ・エーデルベルグ准将との試合を始める!!両選手前に。」
主審が俺の剣を点検している。
刃がない剣だ。
「よし。オットー・フォン・ハイデッカー。予備の剣を収納せよ。」
「申し訳ありません、”二刀流”で行きます。」(コーホーコーホー)
「”NI”何だと?」
「コレは両手剣です。」(コーホーコーホー)
「そうか、解った。」
俺の点検が終わり、遠慮がちに教諭の点検を始める主審。
まあ、上官だろう。
軍学校でも准将より偉い人は中々居ないだろうからな…。
向き直る将軍と無職。
「では宜しいか? 初め!!」
歓声が沸き立つが左手が中段、右手が上段で構える。
将軍は困惑している様子だ。
色々調べたが王国で二刀流を行なった者の記録は無い。
将軍は初めて見る型ななのかも知れない。
突きが来たので左剣で弾く。
将軍は左手の拳を背中の腰に当てた姿勢で弾かれたレイピアを素早く手首で回転させ次の突きを繰り出す。
そのまま半歩下がり右剣で受け、左右変えて左剣で攻撃する。
かわして二歩下がる将軍。
追撃は行なわない、お互い様子見だ。
俺の構えは左右が入れ替わった状態で構える。
驚いた顔の将軍。
突きの手数には自信が有ったのだろう。
「ほう、オットー・フォン・ハイデッカー殿、兄とは違うようだな?」
「はい、そうですね。俺は剣術が苦手なので。」(コーホーコーホー・プッシュー!)
ジリジリと左に移動する将軍、死角を探しているのだろう。
俺は正面に成る様に移動する。
お互い円を描くように。
コレは精神的な揺さ振りだ。
将軍の目を見て相手の考えを読む。
将軍も俺の目から視線を外さない。
将軍が動く。
肩口を狙っている。
受けた剣を弾かず滑らせて迫る。
擦れた鋼同士が火花を散らす。
俺は踏み込み、打ち込む。
将軍は避けるがソレはフェイントだ。
ノールックで踏み込んだ足を払う。
驚いた顔で転がる将軍。
反動を利用して立ち上がり構える。
レイピアはコチラを向いている、追撃する隙を与えない。
「「「お、おお~!」」」
群集の嘆息が会場を揺さ振る。
困った、搦め手が通じない。
「ふむ、悪く無いが…。いささか行儀が悪いな。何をするか解らん。」
「どうも。」(コーホーコーホー)
思わず苦笑する、マイヤー先生と同じ評価だ。
「では、悪童にはお仕置きをしてやろう。」
将軍が正中にレイピアを構える。
ちっ、目が鋭い。
本気出しやがった。
飛び込み、連続した突きを全て左右の剣で受ける。
俺を圧倒する心算らしいが、零れた攻撃は稼動範囲の広い俺の鎧と小盾での防御で捌く。
何手目か?は不明で在るが。全てを捌ききった。
三歩下がる将軍。
構えは崩さない。深く呼吸をして剣先を俺に向ける。
「ふむ…。貴殿は何故、魔法使いなのだ?」
「俺は外道にして真理に近づく者なり。その道は険しく、唯、力を求める者だ。」(プッシュー!)
やった!!初めて中二っぽいコトが言えた!!
中二言語って難しいからセンスが必要だ。
将軍の表情からわるく無い選択だと解る。
「うむ…。そうか。では痛い思いをしてもらおう。」
将軍のレイピアの切っ先が俺の首元に伸びる。
そのまま左の小盾で受ける。
半歩引こうとする将軍の切っ先をそのままに手首を捻り剣の柄頭と小盾で挟む。
全力で前に進み、挟まったレールをすべるレイピアと小盾は火花を散らす。
左手の小盾を前方に押し出す。
力で流された将軍の肩が見え始める。
今だ。
右手の剣先をがら空きになった将軍の首元、延髄に向かって振り下ろす。
驚いた顔の将軍。
もう逃げられない。
鎧の隙間に触れた途端に腕を止める。
無音の一瞬が過ぎる。
「勝負あり。勝者!魔法学園、オットー・フォン・ハイデッカー!!」
主審の宣言で全てが終わる。
歓声に包まれる俺。
いや、怒号に近い。
「うむ、見事であった。オットー・フォン・ハイデッカー、貴殿の剣術は素晴らしい物だ。」
「ありがとうございます、将軍。」(コーホーコーホー)
硬い握手をする。
「流石ハイデッカー殿だ、戦時では騎士道を忘れてはならぬ。王道は正道である。力を求める者は力で滅びる。ソレを忘れるな。」
「ハッ、申し訳御座いません。将軍、しかし、俺は魔法使いなのです。騎士にはなれません。」(コーホー)
将軍の表情は酷く傷ついた顔だった。
「そうか…。貴殿が軍学校に入って居れば…。いや、止めよう。騎士は騎士であらんとするから神聖さを保つコトが出来るのだ。力を追い求めれば行き着く先は魔物になるだろう。」
なんだ、そんな話か?
俺は良く解かっている。
魔物、いや、動物に対抗するにはケダモノに成るしか無いのだ。
悪魔の思考の先を読むには悪魔に成るしかない。
悪魔に支配されずに悪魔になるのだ。
あの世界で人類を滅ぼす者は人類でしか成り得なかった。
悪魔は人の心を知っている。
ならば悪魔に対抗するには人の心を知り悪魔になるしかない。
幸い今だ悪魔支配度は0のままだ。
俺はこの先生きのこる為に…。




