356.トーナメント四戦
さて、三日目の朝になった。
学園の校庭には馬車を待つ俺とミソッカス共しか居ない。
昨日と同じ姿で鎧はよく磨いてピカピカだ。
マルコとジョンは学園の制服にローブだが。
「う~ん、何かドキドキする。」
深呼吸するフェルッポ。
「今日は馬車の送迎を増発するらしい。」
「学園長が快挙だと、午後から皆に見に行くように言っている。」
マルコとジョンの解説だ。
「ソレは良いが…。午前で全滅すると恥かしいぞ?」
カールが苦い顔だ。
負けた時のコトは考えるなよ…。
「午前中の試合はトーナメントの続きで8人に絞られて、その後の対戦相手はくじ引きだ。闘技場内で…。国王も来る。」
自分に言い聞かせる様に呟くアレックス。
意外に緊張しているのかも知れない。
「そうか…。1戦、勝てば午後から皆と当たるかもしれんな。」
「オットー随分と落ち着いてるね?」
「ああ、アレックス。俺の今日の相手は教師らしい。まあ、遊ぶ心算だ。」
「えー、オットー、負ける気なの?」
「いや、俺が負けた相手だ。強いぞ?打撃術も使う。剣術の教師で恐らく退役軍曹の名誉士官だ。たぶん兵科は重装甲兵だと思う。」
ジョンの解説だ。
なるほど、良い情報だ。
下士官を長く続けて退役すると准尉に上がる。
名前だけの士官だが、百戦練磨の兵隊というコトだ。
王国にも重装甲兵は居る、数は少ない。
帝国軍と正面から殴りあえる数少ない兵科だ。
「なるほど。ありがとうジョン、どうやって勝つか考えるよ。」
荷馬車がやって来たのでドナドナ軍学校に向かう。
三日目の人は多い様子だ。
開店前の忙しく働く出店の仕込みの量が物語っている。
とは言え、未だ朝早いので選手と大会関係者しか集まっていない。
試合数も少ないのでコチラはのんびりだ。
トーナメント表の前に選手全員が集まっている。
我々も向かう、軍学校の生徒を見渡す。
”オットー、アレが対戦相手だ。”
コッソリ話すジョンが示す先には鎧を着た大男が居る。
なるほど…。金髪の切り揃えられた短い髪に顔に古い刀傷。
ヘルムの日焼け後。
歴戦の猛者らしい。
近くに赤毛のまな板も居た。
”オットー頑張れよ、仇を討ってくれ。お前に賭けてるんだからな。”
おい、ジョン。昨日勝っても今日負ける気だったのか?
まあ、ジョンはカールに付いて行く人生なのでソコソコ頑張れば良いのかもしれないが…。
カールの相手は生徒だが2位らしい。
かなりの体格差だ。
まあ、ミノタウロス狩りで慣れている、何とかなるだろう。
試合会場は二つに分けられた。
アレックスとカールは向うの試合会場が違う。
俺の試合は四試合目だ。
観客にマルコが居る。
フェルッポが立つ。
「オットー、行ってくる。」
「ああ、頑張れよフェルッポ。トーナメントで会おう。」
苦笑しながらヘルムを被るフェルッポ。
相手が出てきたが…。
見覚えの在る細い身体に赤い鎧。
ヘルムから零れる赤毛の巻き髪。
赤毛のまな板だ。
そういえば居たな、NPC。
「おほほほ、魔法使いで良くココまで勝ち残って着ましたわね!」
ムカつく高笑いだ。
フェルッポの顔は男の顔だ。
そうだろう、女には負けたくない。
男の子だもの。
この世界には男尊女卑は存在しない。
唯、力が正義なのだ。
頑張れフェルッポ、この俺が付いている。
開始の主審の掛け声が掛る。
試合は手数が多い、赤毛のまな板の優勢だった。
軽い分だけ速度が出る。
フェルッポは上手く捌いているが防戦側に徹している。
勢いが在るのだ。
反撃の糸口を見つける事無く、倒れるフェルッポ。
いかん!頭巾の上から急所を突いている!!
動かないフェルッポ。
勝ち誇った顔のまな板に主審が勝利を宣言する。
「おほほほほほ、その程度では軍学校の生徒には勝てませんわ。」
駆け寄りフェルッポのヘルムを脱がせサーチする。
「フェルッポ!しっかりしろ。俺だオットーだ!判るか?」
俺の全ての丹田を廻して大魔力で治癒だ。
「オットー、負けちゃった…。」
衝撃により目の焦点が定まらないフェルッポ。
「フェルッポ!!大丈夫だ、俺が仇を討ってやる!!」
「お願い。オットー…。」
フェルッポの手を握る。
「止めて!!それ!やめ…。」
青い顔の赤毛が叫ぶが、勝利の歓声にかき消される。
「勝者!騎兵科4年!5位アニス・アルヴィナ!」
ゼッケンの取られたフェルッポは担架に運ばれていく。
治癒は行なったので問題は無いハズだ。
マルコが付いている。
大丈夫だろう。
それより、赤毛のまな板を三枚に卸す方法を考える必要が在る。
レイピアでは中々の腕だ。
何処かに付入る隙を見つけなければ…。
まな板を見つめるが青い顔で立ち去る。
「アルヴィナ殿、俺は本気を出そう。」
背中に語り掛けるが、一瞬、止まったのが俺への返答なのだろう。
振り返りもしなかった。
俺なぞ歯牙にも掛けない素振りだ。
良いだろう、俺がお前の場所まで行ってやる。
相手が何だろうと関係は無い。
俺は君が謝るまで殴るのを止めない。
「では、第四試合、第二会場第四回目の試合を始める!軍学校教導教官ダービット、88番、魔法学園、オットー・フォン・ハイデッカー。前に!!」
気分の収まらないまま、俺の名が呼ばれる。
丸太の椅子を立ちサークル内に入る。
目の前は剣を下げた重装甲兵だ。
「宜しいか?ダービット教官。」
「いや、待ってくれ。君は手ぶらなのか?」
目の前の鎧が俺に訪ねている様子だ。
主審も俺を見ている。
イカンな、気持を切り替えなければ。
「特に武器は無いので徒手格闘戦で戦います。」
嫌な顔をする教官たち。
「そういえば…。騎兵科生徒ムートを素手で破っていたな。後…。初戦も?」
流石教官だ、良く見ている。
言われてアレだがまともに剣で戦って無いな。
「まあ、剣が苦手なので。」
言葉を濁す。
「そうか…。その割には32位生徒バーゲを剣で倒したハズだ…。よし判った。貴殿に合わせよう。」
考えた教官が鎧をぬぎ始める。
副審が脱いだ鎧を片付ける。
上半身裸に成った教官が宣言する。
「貴殿とは打撃術での試合を申し込む。ハイデッカー殿。」
上半身は刀傷だらけだ。
鍛えられた骨。
それを覆う筋肉。
厚い皮膚に爛れた古傷。
流石歴戦の兵だ。
「判った。俺の徒手格闘戦術をお見せしよう。」
ヘルムを外し収納する。
その他、鎧を順次外し収納。
上半身裸になる。
準備が整うと申告する。
既に主審の検査を受けた教官に向き直る。
腹を叩いて音を出す。
揺れる脂肪。(S波)
「用意は出来た。」
主審が俺の傷の無い体に触れて確認する。
問題は無いらしい。
「では始めよ。」
主審の掛け声で教官が両手を広げて覆いかぶさる。
ジョンのフォームに似ている。
顎を手の平、掌底で殴る。
首が太いのであまり効果が無かった。
すべる右手を顎に沿わせて背中を向き右手と左手を相手の後頭部で組む、顎を乗せて腰を屈め膝を大地に付ける。
倒れる自重を利用して投げ飛ばす。
首背負いだ。
投げ飛ばされた教官は回転する力を利用し打てそのまま立ち上がった。
なんだよ、この世界でも受身が在るのか…。
相手の腕が俺を捉える前に投げの姿勢に入れたので相手が飛んだダケだ。
遅かったら俺が組伏せられていた。
「ほう、なかなかの者だな。本当に魔法使いなのか?」
「ああ、良く聞かれるが…。魔法使いだ。」
両手を上げたままジリジリと距離を測る教官。
俺は柔道の構えだ。
同時に踏み込み、組み手争いになる。
俺の手首を掴んだ教官の手をぬき手で押し振り払う。
翔ちゃんの知識では腕を捕まれたら握りこぶしで引くより、手を広げて押し下げたほうが振りほどき易い。
払われて驚く教官の顔に掌底を打ち込む。
ちっ、額を狙ったがズレた。
たまらず距離を取る教官。
「こまったな、こんなに強い生徒は初めてだ。」
殴られた鼻筋を気にする教官。
手鼻で鼻血を出している。
俺も、ココまでやる男は会った事が無い。
コレは困った。
楽しすぎる…。
お互い組み手争いが手詰まりに成ると見るや。
殴り合いになった。
岩を殴っていた頃を思い出す。
「フハハハハハハハハハハハハ!」
アドレナリンの所為で痛みが楽しくなる。
二三発喰らっても問題ない。
熱いダケだ。
「オラオラオラオラオラオラ!!」
叫ぶ教官。
相手もそうらしい。
楽しい時間だ、二つの野獣の殴り合いだ。
永遠に続いて欲しい。
しかし、お互い平等に疲労が精神を蝕んでゆく。
くそっ、意識していないがガードが下がる。
相手がピヨッた隙を見てアームロックを掛ける。
アドレナリンの出たケダモノ達は止まるコトを知らず。
力を入れたら折れた。
腕の下がったケダモノは立ち上がり片手で立ち向かうが、下がったガードの隙に俺の回し蹴りが延髄に決まり。
ケダモノはにんまり笑ったままゆっくり白目になり地面に倒れた。
俺は痛みも忘れて勝利の雄叫びを上げた。
「ウヲオオオオオオオオ!!!」
天に拳を振り上げる。
観客の勝者への歓声は無い。
俺を見る者は無言だ。
気が付かなかったが軍学校の生徒がドン引きしていた。
「ムート、アレは逃げて正解だな」
「ああ、悪く言ってすまなかった、ムート、俺もハイデッカーが来たら逃げるわ」
勝ったからええやん。
(#◎皿◎´)「フェルッポ!しっかりしろ」(ムッワァアア…)
(´・ω・`)…。(このデブ……すけべ過ぎる!!)




