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355.トーナメント三戦

僕の名前はムート。

軍学校騎兵科2年で校内83位だ。

剣での腕は中々の者だ、自信はある、僕より上位は上級生だらけだ。

僕はランギーニ領の田舎の馬牧場の息子で三男だ。

子供の頃から馬の扱いには熟れてる。

気難しい馬でも宥めて歩かせるコトが出来る。

その腕を見込まれて、領主様の推薦でこの軍学校に入るコトが出来た。

僕は小柄だった為、軍の訓練は辛かった。

王国軍は強兵だ、嘗ての邦国を蹂躙した兵達だ。

故郷を離れて、一人だが何とか耐えて来た。

僕は数少ないランギーニ兵として…。王国兵の看板を背負わなければ成らないのだ。

僕達(ランギーニ)は数代前の時代にこの国に併合された。

僕達(ランギーニ)は弱くない。

どれだけ叫んでも。

その時の戦い振りが今だ僕達に降りかかっている。

今回のトーナメントは運が良かった。

初戦は魔法学園の生徒だった。

二回戦目は一年の気鋭だったが何とか勝つことが出来た、危なかった。

そして、今日の最後の相手は…。

「では、第三試合、第四会場第四回目の試合を始める!81番、軍学校騎兵科2年、83位ムート、88番、魔法学園、オットー・フォン。ハイデッカー。前に!!」

前に進み出る魔法使い、見たこと無い鎧を着ている。

第一印象はデカイ。

ダービット教導武官よりデカイ大男だ。

しかも首切りハイデッカー。

商業都市国家だったランギーニが王国に編入された統一戦争での戦いっぷり。

残虐さは今だ語り継がれている。

ハイデッカー兵は生きた捕虜を取らない。

全ての生ける者を狩る。

三倍の兵で当たっても互角の兵達。

正直、王国軍より強い連中だ。

王国で帝国軍と正面切って渡り合える唯一の領民軍だと言われている。

頭がおかしい、恐怖を感じない、死ぬのを怖がらない。

それがハイデッカー。

目の前の(デブ)だ。

ソレよりこのデブはココまで上がってきた時点で剣士科4年生の40位以上を倒したコトに成る。

剣士科は馬に乗らない重装甲歩兵を目指す者だ。

体格に恵まれた者が多い。

木偶の坊では無いと言う証だ。

最悪の相手だ。

「ムート!楽勝だ!!」

「相手はハイデッカーでも魔法使いだぞ!!」

無理だよ!!勝てないよ!!

相手は柔軟体操をしているが着ている鉄の鎧(間違い)の重さを全く感じさせない動きだ。

唯のデブでは無い。

笑う表情(デブ)、但し、目は笑ってない。

たぶん僕を三枚に卸した後のコトを考えている。

相手は捕食者だ。

「81番、軍学校騎兵科2年、83位ムート宜しいか?」

「は、はい!」

剣を抜き構える。

「88番、魔法学園、オットー・フォン・ハイデッカー宜しいか?」

「はい。」

教官殿が装備を検めている。

大人しく受ける。

「88番、魔法学園、オットー・フォン・ハイデッカー、武器は何処だ?」

「は、素手で殺ります」

「良いのか?」

「はい。」

にっこりと微笑むハイデッカー(ほほえみデブ)

ダメだ。完全に獲物を見る目だ。

「では始めよ。」

教官殿の掛け声で剣を構える。

レイピアの先がデブに向けられるが。

笑顔を崩さないデブのハイデッカーは手ぶらの両手で拳を作り顔の前に斜めに構える。

打撃術ではない。

僕は完全に舐められてる。

コチラの剣の間合いの方が長いのに。

でも怖くて飛び込め無い。

前後左右に揺れるデブ。

意味がわからない。

フェイントで首元を浅く突く動作に入る。

剣先を掴もうとする動作をする魔法使いのデブ。

頭がおかしい。

剣を掴む心算だ。

剣を掴んでも何も出来ないハズなのに…。

デブの笑顔に背筋が凍る。

舐められているコトより、捕まえた後、僕に降りかかる事態に恐怖を覚える。

肩の胴鎧の間を狙い突きを放つ。

デブの鎧は隙間が多い。

こんな()レイピアの的だ。

焦りの顔色が無いデブ。

ヤバイ!見抜かれてる!

小盾で弾かれたと思ったが剣が抜けない。

鎧の隙間に引っかかった!

デブが振り回す腕に吊られて僕も流される。

何が起こったか地面に転がってから判った。

僕の剣が曲がったまま地面に落ちている。

見上げると笑顔で見下げるデブの魔法使い。

武器壊し(ソードブレイカー)だ!初めから狙って居たんだ!!

だが、追撃しないデブ。

教官殿が”待て”を掛けた。

曲がった剣を拾って確かめている教官殿。

「81番、予備の武器は在るか?武器を交換するか?」

「はい、無いので武器の交換を申告します。」

「よし!予備の剣を!!」

サークル外の副審が予備の学校備品の剣を持って来た。

受け取った教官殿が剣の点検を行なっている。

僕の曲がった剣は副審が持って出て行った。

「僕の…。剣が…。」

教官からも先輩からも剣は何本もダメにしても良いと言われて使ってきたけど…。

正直、初めから壊す気で掛ってくるヤツなんて初めてだ。

しかも魔法使い、魔法を使ってない。

唯のデブじゃない、ハイデッカーなんだ。

目の前のデブは涼しい顔だ。

ハイデッカーの男で兵隊の腕の骨を折るのが趣味の者が居ると聞いたが…。まさか。

「88番、81番良いか?」

「は、「はい」」

「では、初め!」

浅い突きを出すが半歩引いたり小盾で切っ先を弾くデブ。

僕が警戒しているのがばれている。

コチラのリーチが長いのに踏み込めない。

あの変な鎧、稼動範囲が広い。

動きが早い。全て小盾で防いでいる。

ジリジリと前進するデブ。

思わず下がる。

「ムート!逃げるな!!」

「相手は素手だぞ!!」

外から雑音が入る。

無理言うなよ!!

踏み込み膝を狙う。

その瞬間にデブの小盾に大きく弾かれる。

あ。折られる。

デブが腕を掴む動作に出た!僕を捕まえる気だ!!

転がって逃げる。

デブが追いついている!!

立ち上がろうとすると肩口に強い衝撃を受ける。

身を起こす前に蹴られた!

「逃げるな!ムート!」

「戦え!相手はハイデッカーでも魔法使いだぞ!!」

衝撃を殺して転がるが既にデブの足が迫っている。

無理だよ!!勝てないよ!!

「ムート!立ち上がれ!」

「ムート、不名誉行為は退学だぞ!逃げるな!!」

転がって逃げている様に見えるのかもしれないけど。

デブの足は僕の腕を狙っている!!

足を避け転がる。

デブが追撃してこない!

立ち上がるが。

周囲の皆は落胆した顔だ。


「場外!勝者!オットー・フォン・ハイデッカー!」

気が付くと僕はサークルの外に出ていた。

教官殿がデブにゼッケンを渡している。

僕の方に来た教官殿が僕のゼッケンを乱暴に剥ぎ取る。

「生徒ムート、お前は三ヶ月間の特別基礎訓練メニューだ。」

「そんな!教官!」

「ムート!相手は素手だぞ!」「剣で負けるな騎士の恥だぞ!!」

多くの級友の罵声を受ける。


騎兵科2年ではトップなのに…。

なお、二日目が終わった時点でトーナメントを生き残った軍学校の二年生は誰も居なかった。



----------(´・ω・`)転換-------------



さて、イマイチ盛り上がらなかった三戦目だが。

まあ、相手にも判り易く動いているのだ。

警戒もするだろう。

逃げに入っていたが追い詰めて場外だ。

相手が意外に目が良かったので結構逃げられた。

中々やるヤツだ。

トーナメント表の前に集まる。

魔法学園の既に今日の試合を全て消化した者と負けた者が集まっている。

帰りの馬車が来る時間まで間が在るからな。

「オットー、すまんな。負けたぞ、相手は教師だった。」

ゼッケン無しのジョンが居た。

生きのこった者はゼッケンを着けて居るので解り易い。

「そりゃ、ご愁傷さま。」

「俺が負けた相手とは明日の午前中にオットーと対戦するからな。敵を取ってくれ。」

「判った、やれやれ。朝一で教師か…。」

やっと転生系のお約束、やれやれ主人公になった。

やれやれ、相手は百戦錬磨の練兵だ。

心が躍る。

本気で殴っても死ななさそうだからな!

周囲を見渡すとゼッケン無しのマルコが遣って来た。

おい、マルコが負けかよ…。

「オットー勝利おめでとう。」

「ありがとうマルコ。負けたのか?」

「ああ、相手は軍学校1位だ。勝てないぞ。まあ、いい試合だったと思う。結構ねばったんだ。」

「そうだな、見たが中々の好試合だった。」

カールが来た。ゼッケン付だ。

「カール見てたのか?」

「ああ、マルコ、残念だったが。良い試合だった。」

「ありがとう、カール。後一歩で負けた。正直悔しい。」

マルコの肩を叩くカール。

イケメン同士なので非情に絵になる。

「兄さん!僕やったよ!!勝ったんだ!」

空気を読まないゼッケン付きのフェルッポの声だ。

息を弾ませ走ってきたらしい。

「「おめでとう、フェルッポ。」」

「ありがとう皆。あれ?アレックスは?」

「アレックスの試合は未だだ、ロビンは負けた様子だな。」

答えるジョン。

ロビン?誰だそれ?

「皆様お揃いで。勝利おめでとう御座います。」

「「ありがとうロビン」」

「ちっ!」

「あの、オットー様、何か不手際が?」

「ロービーンー貴ー様ー逃げたな?」

腹の底から声を出す。

「何のお話でしょうか?」

目が泳ぐロビン。

血の小便が出るまで折檻する必要が在る。

「ロビンの相手は軍学校3位だった。まあ、負けて当たり前だったと思うが…。もう少し善戦して欲しかったな。」

カールが解説する。

ちっ、何だよロビン、相手を巻き込んで自爆しなかったのかよ?栽培マン的なキャラなのに。

「申し訳御座いません。力が及びませんでした。」

清々しい目のロビン、何時か絞める。

「やあ、みんな揃っているね。」

前髪がゼッケン付きで優雅に来た。

ヘルムを小脇に抱え、頭巾を脱いでいる。

勝利を自慢したいのか小鼻が広がっている。


「「「おめでとう、アレックス」」しね」

「オットー、嫉妬は優雅では無いよ?」

「ああ、済まなかった。本音が出た。試合で殺す。」

「楽しみにしてるよオットー。」

コイツ…。絶対いてこます。

「えー酷い。」「アレックスとオットーか。」「良い試合だと思うぞ?」「魔法が出なければ、な。酷いコトに成る。」「あの…。冗談ですよね?」

外野が煩い。

「まあ、何にせよ魔法学園の生徒が久し振りの最終日に進出だ、(カール)と、アレックス、フェルッポにオットーだ。自慢しても良いだろう。」

「アレックスはコレで二回目だけどな。」

マルコが言う。

「う、あの時のコトは言わないでくれ。」

「あの時は、アレックスは当時の3位に負けたんだ。」

「マルコ。大丈夫だよ。僕はもうあの時とは違うんだ。」

ほう、とにかくすごい自信だ、改造の成果だな。


トーナメント表には全てのゼッケンが掛り明日の16名の木札が並んでいる。

「今年はもっと上に行けると思ったんだが…残念だ。」

「ああ、相手が悪かった。」

見上げるマルコとジョン。

俺の明日の相手は…。

ダービットと言う軍学校の教師らしい。

コレは困った。

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