354.トーナメント二戦
さて、返却されたゼッケンを付け、ミソッカス共を探す。
群集が多いので見つけることは出来ない。
結局、大トーナメント表の前に行く。
表の前では皆。勝ち券を握り。
布のゼッケンが張り出される度にタメ息や歓声を出している。
ゼッケンが無いほうの木札が外され上がる。
負けるとゼッケンか貼り出されるのか?
ロビンも、アレックスも今の所、勝ち進んでいる様子だ。
第二試合は昼食の後らしい。
皆と合流してメシを喰おう。
周囲を見渡すと、”勝者の宮殿”と言うヤケクソ気味の書体で横断幕が立っている場所有った。
集まっている者は皆、ゼッケンを着けて居る、とりあえず向かう。
入り口に衛兵が立っているが、止められず入るコトが出来た。
幾つかある円卓の一つ、白いテーブルクロスでお茶をしている、フェルッポとマルコ、カールが居た。
「やあ、オットー、大丈夫だったんだね?」
「チッ!」
前髪も居た。
「オットーどうだった?」
わくわくフェルッポ。
「ああ、大丈夫だ、相手は死んでない。」
「オットーが言うと冗談に聞こえんな。」
マルコが言う。
蘇生が間に合ったコトは言わないほうが良さそうだ。
椅子に座ると従兵がお茶を用意している。
若い、恐らく学生だろう。
「まあな、お祭りだ、楽しくやる。所で、皆の者、おめでとう。」
「「勝利おめでとう。オットー」」
定型文の挨拶を終える。
「さて、ロビンが居ないが勝った様子だ、ジョンの試合は未だのハズだが…。」
「オットー、ココは上級貴族の休憩所だ。」
「なるほど…。」
周りを見渡すと確かに品の良さそうな者しか居ない。
悪く言うとお坊ちゃま。(俺含む)
「ココで食事も出るんだ。」
前髪が揺れる。
「そうか…。俺は屋台で飯を喰おうと思ったんだが…。」
「止めておけ。オットー、警備の者が困る。コレは暗殺防止の為だ。」
声を潜める、マルコ。
「まあ、コレは安全の為だからね。」
アレックスの声で周囲を見渡す。
確かに、厳重な警備だ。
困ったな。
「配下の者と連絡が取りたいのだが?」
質問に答える坊ちゃん共。
「うーん、呼べば良いと思うが…。」
「衛兵に話を通せば?」
「外で合うのが一番良いと思うぞ?」
最後はカールだ。
そうか…、意外に面倒だな。
入り口を眺める。
あ、ジョンが居た。
ゼッケンを着けて居る勝ったらしい。
フェルッポが手を振り気が付いた様子だ。
ジョンが中に入ろうとするが衛兵が止める。
「あ、止められたな。オットーも手を振ってくれ。」
アレックスが手を振っている。
「あ?ああ。」
手を振ると気が付いた衛兵がジョンを通した。
「おい、ココは俺の身分では入れ無いんだ。勘弁してくれ。」
居心地の悪そうなジョン、アレックスが声を掛ける。
「ジョン、勝利おめでとう。」
「「「おめでとう。」」」
「ああ、ありがとう。」
「俺も入れないがアレックスが付いて来いと言ったからな。」
バツの悪そうなカール。
そんなに階級社会なのか?軍は。
魔法学園は特別クラス以外はソレほどでも無い。
常識の範囲での階級社会だ魔力と言う階級は在るが。
まあ、ゲームでは主人公の(平民のとしての)態度が悪いからオットーが因縁を付けたのだろう。
今になって判る。
「次の試合まで時間が在るし。ゆっくりしたいだろ?」
アレックスが優雅にお茶を飲む。
「他は立ち見だからね。」
フェルッポがお茶を飲み干した。
ジョンが席に付くと従兵がお茶を用意している。
お茶のお替りを要求するフェルッポ。
「お食事はどうされますか?」
従兵が訪ねる。
「ああ、頂こう。」
ジョンが答えたので俺の方を見る従兵。
「ああ、俺も貰おう。」
「畏まりました。準備が整い次第お持ちします。」
下がる従兵を見送る。
「飯は何がでるのだ?」
皆に訪ねる。
「ココの名物のミルクシチューが食べられるよ?」
優雅に前髪を触るアレックス。
「何だ?そりゃ?」
「イモと麦と豆を山羊のミルクで煮たシチューだ。塩味とハーブしかない。パンは付かない堅いクッキーだ。少尉の主食だ。」
マルコが答える。
「ああ、サイテーな味だ。」
「ゲロを美しく見せる為の餌だな。」
乳タイプ兄弟はウンザリ気味だ。
「そうかな?僕は結構好きだけど?」
「僕も悪く無いと思うよ?」
アレックスとフェルッポが持ち上げるが皆は否定的だ。
「まあ、ココのシチューは良いほうだ。」
「従軍すると前線で食べる、大概は、何か欠けるらしい。既に味か欠けているが…。」
乳タイプは詳しそうだ。
流石軍人の家庭。
「そうか…。早まったな。」
イカンな、今日は奴隷の方が美味しいものを食べる日らしい。
校門にガレットの出店が準備していたから後で覗こうと思っていたが…。
「まあ、コレから激しい戦いになると…。戻すヤツも居る。優雅では無いからな。」
言葉を選ぶマルコ。
「なるほど…。」
色の問題か…?
考えていると一人の男が近づいてくる。
体格が良い骨太の男だ、鎧にゼッケンを着けて居る。
誰かの知り合いか?
ミソッカス共を見渡すが、皆同じような表情だ。
「オットー・フォン・ハイデッカー殿はお見えか?」
なんだ?俺の知り合いか?知らん顔だ。
「俺だ。」
素直に答える。
「そうか、噂に聞いたとおりの姿だ、俺は、バーゲ・ミッテドルフ・グリューンベルグ、グリューンベルグ家の者だ。」
「ほう…。」
なかむらくんか…。知らんぞ?そんなヤツ。
「従兄がお世話になった。次の試合で雪辱を果したい。」
「オットー、例の決闘の相手の家の者だ。」
声を潜めるカール。
なるほど…。
あの消毒液君の親戚か。
「うむ、あの件は男同士の約束だ、家同士での話しも決着が付いている。その上での話かな?バーゲ君?」
「ああ、そうだ。神の思し召しだ、名誉の挽回の好機である。良い試合がしたい。是非とも剣での戦いを望む。」
なるほど、コイツは男らしい。
「判った、剣で戦おう。」
「恩にきる、それで…。取上げた名剣を賭けて欲しいのだが…。」
なるほど…。イキナリ本音が出た。
「すまないが取上げた剣は借金のカタで、其方のワイヤード家の者に渡してしまった。」
アレックスを指名する。
「な…。げっふぉ。」
お茶を噴出すアレックス。
「ワイヤード公爵…。様。」
「まあ、良いだろう。どうせ勝ち上がる。直接戦えば賭けても良いのではないか?アレックス・ワイヤード殿。」
鬼回避、アレックスの逃げ道を塞ぐ。
「う、まあね。でも。あの剣。僕は気に入っているんだ。」
「では。貴殿を倒してから、今一度願いに参じる。」
俺を睨むバーゲ。
「ああ、良い死合を行なおう。ミッテドルフ殿。」
手に胸を当て頭を垂れる。
「失礼する。」
立ち去るなかむらくん。
「オットー、僕を巻き込むなよ…。」
恨みがましい目で見る前髪。
「ほらな?言われの在る物は因果が付くんだ。」
「だから家宝になるんだぞ?兄弟?」
いわんこっちゃない顔のジョンに全然効いてないカール。
「わー、何か凄い物語みたい。」
「弟よ…。コレは面倒事だぞ?」
相変わらずのミーハーなフェルッポに心配性のマルコ。
「僕、あの剣は賭けないよ?ドラゴンバスターなんだ。一生掛っても手に入らないかも知れない名剣なんだぞ?」
珍しく拗ねるアレックス。
「まあな、ドラゴンに剣を打ち立てたダケでも自慢できるからな。普通は。」
「そうだぞ?家宝に…。いや、国宝に近い。」
おい、元は唯の鉄くず剣だぞ?
拵えは名人作だが。
「まあ、良いだろう。あの者には悪いが…。俺が本気だそう。」
昼から本気出す。
「魔法は止めて。」
一転して焦るアレックス。
「そうだぞ?オットー。大会を潰すなよ?」
「俺の軍での評価が掛っているんだからな?」
「僕、穴掘って隠れてるからやる前に合図してね?」
「弟よ、周囲の者も守れ。」
マルコの話で思い出す。
そういえばマーモットも居たな。
コレは困った…。
素手で殺ろう。
「「「…。」」」
皆無言でミルクシチューを啜る。
他のテーブルではテーブルを叩く者が多いので何かと思っていたら。
堅いクッキーをガントレットで叩き潰してシチューに投入している。
ミソッカス共を見るとフェルッポはリスの様にカリカリと齧っている。
後は収納している様子だ。
白いクッキーを頬張る。
うん、堅い。
『バキッ、ボリッガリッ』
奥歯で咀嚼する。
クッキーは麦の味しかしない。
甘味も塩気も無い。
シチューはとろみも風味も無い。
塩と微かにハーブ。
山羊のミルクの臭みと豆の食感。
堅さの不揃いな麦と土臭い芋だ。
家畜の餌に近い。
「今年のは酷いな。」
「ああ、前線により近い。」
「何か、ムリ。」
「前回までは美味かったんだよ?オットー。凄く。」
「従兵が作っているから。今年はハズレだな。」
マルコが結論を出し全員が賛同する。
うん、粉っぽい。
全部喰いきったのは俺だけだった。
通り過ぎる下民共が美味そうな串焼きや、ガレットに巻かれた腸詰めを齧る者等様々だ。
くそっ!おーい、なかむらくんを葬って屋台で喰ってやる!!
ロビンを道連れだ、たまにゃ付き合え。
昼食を終え、試合会場のサークルに座ると直に戦闘だった。
「では、第二試合、第二会場第一回目の試合を始める!85番、軍学校剣士科4年 32位バーゲ・ミッテドルフ・グリューンベルグ、88番魔法学園、オットー・フォン。ハイデッカー。前に!!」
前に進み出る剣士、装甲兵の鎧を着ている。
「85番、軍学校剣士科4年 32位バーゲ・ミッテドルフ・グリューンベルグ宜しいか?」
「はい!」
「88番、魔法学園、オットー・フォン・ハイデッカー宜しいか?」
「はい!!」
仕方がないので今回は相手のリクエストに応じて剣を用意した。
あの、消毒液くんを倒した時の剣だ。
まだ刃がない、先に布は巻いてある。
肩に担ぎ前に進む。
主審の厳しい目が剣に注がれる。
「その剣を検めたい。」
「どうぞ、」
大人しく渡す。
「刺突剣の類だと思うが危険なのではないのか?」
「切っ先共に刃は入っていません。安全の為に布に巻いたまま使用します。」
「ハイデッカー殿に尋ねる、その剣は件の決闘の時に使われた剣か?」
「そうだ。」
「そうか…。教官殿!我はその武器での試合を望む。」
「生徒、バーゲ、コレは安全の為である。」
「教官。コレは我が家の名誉なのです。」
「うっ、85番、どの様な結果で有っても良いのか?」
「はい、それまでです。」
なんか、軍学校サイドで盛り上がるのでしらける。
審判の安全点検を受ける。
戦いの結果は死と生だ。
泥にまみえようと、血に濡れようと敗者の結果は死だ。
死を拒んで恥辱に塗れて生を掴む者も居るであろう。
どの様な恥に塗れても罵声を浴びても、負けを受け入れなければ勝利である。
無論、その勝利は万人に受け入れられる、確定した勝利ではない。
その子孫は末代まで恥辱を受けるであろう。
武人は到底受け入れられない。
「では始めよ。」
主審の声で全てが透明になる。
ソレは恐怖だ。
泡立つ恐怖に身をゆだねる。
死と敗者の拘りだ。
生きる者と死者。
勝者と敗者の境は曖昧ではっきりしている。
俺はなかむらくんの切っ先を無意識に捌いた。
スローモーションで剣の形が変る一瞬の時間が止まると。
そのまま剣の根元を叩く。
なかむらくんの剣が地面に落ちる。
搦め手で跳ね飛ばしたのだ。
レイピアの剣は軽い。
そして曲がる。
ツヴァイヘンダー型のロングソードを肩に担ぎ向き直る。
「剣を拾え。」
「な、なに!!」
「未だ決着は付いていない、剣を拾い向き直れ。仕切りなおしだ。コレは決闘でも死合いでも無い。唯のお遊びだ。俺は死んでない、お前も死んでない。」
空手で俺を睨むなかむらくん。
「俺を馬鹿にするのか!!」
「ではマケを認めるのかね?」
まての状態の主審を見る。
正直、軍の新米士官がこの程度では困る。
敵は強大なのだ。
「85番どうするのか?」
「教官、試合を続けます!」
「では用意をしろ。」
「はい!」
剣を拾い構えるなかむらくん。
頭に血が登り易いが、構えると冷静になるらしい。
うん、悪く無い。
軍人ならソレくらい出来なければ。
部下が死ぬからな。
レイピアを構えるなかむらくんは攻め口を見出せない様子だ。
剣の間合いがコチラのほうが長い。
フェイントを繰り出すが飛び込んでこない。
先ほどの剣落としを警戒している様子だ。
フェイントに乗ってやる。
コチラから突きを出すがソレを避ける。
逃げる方に払う。
驚いた顔のなかむらくんは払う方向に転がり逃げる。
直に立ち上がるなかむらくん。
なるほど、なかむらくんはこの剣が大降りなのを見込んで懐に飛び込もうとしたのか。
槍の構えで向き直る。
持ち手を頭の上、大上段の構え、槍の構えだ。
なかむらくんはコレが唯の長い剣だと思っている様だが短槍としても使えると言うコトに気がつくだろう。
そうなると切っ先を払って飛び込むしかない。
真剣な表情になる。
さあ来い。
一瞬、なかむらくんの肩が動く。
何か飛んでくるので小盾で弾いた。
崩れた姿勢になかむらくんが飛び込んできた。
いいじゃないか、なかむらくん。それならやってやる。
両手に持って、右手と左手の間で相手の剣を受ける。
向きを左に回し力を流す、鎧と鎧、肩と肩がぶつかる。
剣を放した右手で相手左肘を掴み引っ張る。
上半身が崩れるので押し返す。
倒れるなかむらくんをコントロールして追い込む。
地に着いたときは俺がなかむらくんに馬乗りだ。
首鎧の隙間を剣先で叩く。
「ま、参った。」
「勝者!!88番」
倒れたなかむらくんを起こす。
「いや、参った。従兄は負けるべくして負けたのだな。」
立ち上がり俺の手を持ったまま、握手に変る。
「ああ、アレは良い決闘で有ったと思う、まあ、力が入りすぎて痛い思いはしてもらったが。」
「そうだな、かなり、数日間寝込んでいたからな。」
「それは済まなかった。だが俺の女が掛っていたんだ。」
おどける俺に苦笑するなかむらくん。
「それは仕方ない。奥の手だった投げナイフが弾かれるとは思わなかった。」
「肩を見ていたから反応できた。」
「なに?」
「目の向き。足の向き。肩の向きだ。相手が何をしたいか考えて裁くのだ。」
「そうか。」
「タイミングは悪くなかった。」
「そうか、全て読まれていたのだな?」
「まあ、先を読むのも戦の内だ。その上で有利な状態に持ち込む。全ては勝利の為だ。」
「了解した、貴殿と戦えたコトを…。たとえ負けでも誇りに思う。」
ヘルムを取り王国式の敬礼を行なうなかむらくん。
「まあ、唯の遊びだ。人の生き死にも最愛の女の人生も掛ってない。生き延びれば名誉の挽回も出来るだろう。」
返礼を行なうが、俺のほうが下なのでコレは無効のハズだ。
敬礼を解除して頭を垂れるなかむらくん。
「ありがとうございました!!」
そのまま試合会場を後にする。
さて、今日は後一試合。
サクッと終わらせよう。




