番外編.王宮にて1
(´・ω・`) 今年の抱負:止まってる作品を何とかする。
目の前の灰色の魔道士が霧のように消える。
恐ろしい魔法使い。
人智を越える魔法使い。
誰にも邪魔できない魔法を使う。
ハイデッカー領近くにある当家の避暑地は厳重な魔法結界の中にある。
あの魔法使いは結界を物ともせず一瞬に移動した。
今まで多くの魔法使いを見てきた、しかし、彼ほどの魔法を駆使する者は見た事が無い。
王都の路地、目の前が暗くなった所に戻って来たのだ。
王都と避暑地の屋敷を一瞬で移動する。
足元に割れた私の眼鏡が落ちている。
眼鏡が無くてもブレたり、ボヤけることの無い、はっきりと輪郭が判る。
あの灰色の魔道士が治癒したのだ。
信じられない。
老眼は自覚していたが、諦めていた。
老いは魔法での治癒は不可能だ。
それはこの世の理。
ソレを覆すことが出来るのは神の奇跡しかない。
神に近いコトが魔法で出来ると言う事なのだ。
奇跡の魔法。
ソレを操る魔道士。
到底信じられない、常識の外側の魔法、最早あの魔道士が存在したのかすら危うくなる。
ただ、手の中に渡された眼鏡と指輪が五個光っている。
コレは幻では無いのだ。
壊れた眼鏡を拾い王宮に帰る。
あの魔道士の言うことは到底信じられない。
国王と、王子の命を狙う者が居るというのだ。
人では無い存在だと言う。
城門を進み衛兵の実検を受ける。
何度も受けたので顔見知りの衛兵は多い。
なので笑顔で出迎える兵が多い。
数人と顔合わせを行なうので少々時間が掛る。
印象を変えない為には眼鏡は必須だ。
あの魔道士の眼鏡を掛ける。
この眼鏡、奥様に話すべきだろうか?
迷いながら部屋の前に立つ。
ドアをノックして話す。
「ただいま戻りました。」
返事が無い、居間の方に居るのであろう。
ドアを開け中に入ろうとして動けなくなる。
「ヒッ!」
思わず叫び口を塞ぐ。
何時もと変らない部屋の中の調度品、暖炉の横、白い大理石のローマンスタンドに人では無い目と耳が付いている。
一つではない目は激しく血走った眼球を動かしている。
瞳孔は三日月、まるで山羊の目の様だ。
異様な光景…。動けない。
廊下で待機していたメイドが声を掛ける。
「メイド長さま、お帰りに成られましたね?マーガレット妃様とデービス公爵夫人は庭園でお茶の最中で御座います。」
王宮の若いメイドだ、貴族の令嬢で行儀見習いの身分だが、しっかりした振舞いの者だ。
「そ、そうでしたか。この、花台はココには似合いません。片付ける様に言って下さい。」
「はい、判りました。重い物なので衛兵の方を呼びますが…。」
「なるべく早くに。」
「はい、手配しておきます。」
下がるメイドを見送る。
心を落ち着かせて、庭園に向かう。
未だ話す状況ではない。
奥様と取り留めの無い話をして、お茶の時間が終わり居室に向かう。
お嬢様の寝室に入り。
暖炉の上に目を通す。
「あっ」
恐怖で体が動かなくなる。
暖炉の上の書台の上の辞典。開かれた本に目と口が付いている。
口からは長い舌がだらしなく垂れて居る。
「どうかなされましたか?」
「ひっ!!」
後ろから声を掛けられ驚く。
先ほどのメイドだ。
不思議そうな目で見ている。
こんな恐ろしいモノが居るのに…。
眼鏡を外すと唯の本にしか見えない。
「いえ、ちょっと眼鏡の…。」
「はあ?」
「この本も片付けてください。」
「はい、判りました。」
本を閉じ手に持つメイド。
本の口から出た長い舌がメイドの手を舐め廻している。
何も感じないらしい。
”人では無い。”
あの魔道士の言葉が耳に残る。
本物なのだ、あの魔道士は何かと戦っている。
人に害を成す者が…。
ソレがお嬢様を狙っている。
そしてソレから身を守る術を託された。
”信頼できる魔術師を探せ”
腕の良い者でないと…。
ダメだ、当家の魔法使いでは対抗できない。
人を操り人には見えない者達、こんな者達は聞いた事が無い。
周囲を見渡す。
特におかしい物は無い。
「奥様に相談しなければ…。どうすれば…。」
「こちらがその物です。」
奥様に相談したところ、俄かには信じてもらえなかった。
唯、灰色の魔道士が警告に来たのだ。
あの魔道士の腕は確かな者だ、奥様も無下にする気も無い。
但し到底信じられない話なのだ。
城の倉庫に置かれた花台の前に立つ。
衛兵も連れて来ている。
「この石ですか?」
「はい、どうぞ奥様。」
眼鏡を渡す。
受け取った眼鏡を掛け固まる奥様。
恐ろしい物が見えているハズだ。
血の気の引いた顔をしている。
後ろの衛兵に声を掛ける。
「この花台は木箱に入れ封印して下さい。厳重に。」
「はっ、判りました。」
衛兵達が作業に掛る。
「奥様、コチラに。」
部屋の外に出る。
「あの魔道士は一体…。」
「わかりません。唯、人でない者と、到底信じられない者と一人で戦っていると。」
「何故?」
「それも言いませんでした。お嬢様と王子様、国王陛下の身を守るコトがあの魔道士の勝利に繋がると…。道具を託されました。」
「それは?」
「この指輪です。」
五つの指輪を見せる。
全て同じもの、指に巻きつける指輪。
一つ取る奥様。
眉を潜め眺めている。
「あの魔道士は身を守る指輪だと…。あとは。支配下に有る者を酷く苦しめ開放するとも。」
無言で指輪を装着する奥様。
指輪が光る。
何も起こらない。
ただ指輪の謎の紋章だけが光る。
見つめる奥様。
「あの、この本はどういたしましょうか?」
若いメイドがあの本を持って来た。
私には見えないが眼鏡を掛けた奥様には見えているはずです。
奥様が酷く動揺しておられる。
本に恐る恐る指輪をした手をかざす奥様。
一瞬本が黒く光る、酷く悪い想像が駆け巡る。
だが、何も起きなかった。
奥様の安堵した顔で安全だと判る。
手にはめた指輪を握って胸にあてている。
「その本は燃やして下さい。」
「はあ?よろしいのですか?」
不信そうな若いメイドに答える。
「そうですね、燃やしたほうが良いと思います。確実に灰にして下さい。」
「はい、判りました。」
首を傾げて本を持って歩くメイドの後姿を見送る。
声を潜め奥様に語り掛ける。
「奥様…。」
「この指輪の効果は本物です。」
「やはりあの魔道士の言うことに嘘は無いのですか?」
無言で頷く、奥様。
「あの異形の者を滅する指輪です。恐ろしい形相でした。」
「安全なのですか?この指輪は?」
「恐らく…、我々には、デービス家には無い紋章です。」
「あの灰色の魔道士は敵は人に害する者で人智の及ばぬ者だと、人をも操ると言っておりました。」
「そうでしたか…。他には?」
「全てを話した仲間も居ないとも…。コレは私も含まれると思います。唯、お嬢様の周囲の者の身を守ればあの者の加勢に成ると。だから協力せよと…。」
「そうですか…。他にも知らずに戦う者が居るのですね?あの魔道士の同士が…。」
「それは…。ただ、”信頼できる魔術師を探せ”と。魔法でしか対抗できないとも言っていました。」
「判りました。この話は誰にも言ってはいけません。」
「はい。」
「魔法使いを探します。我が家の者では対抗できないでしょう。このような魔法、指輪の紋章も見たコトは有りません。到底王国の魔法では対抗できない者です。」
「わかりました。しかし。」
「大丈夫です。当てはあります。探しましょう。”信頼できる魔術師”を。」
(´・ω・`) マーガレット母と老メイドはデービス家の人間なので魔法に詳しいですが、灰色の魔道士の魔法は理解できない様子です。




