番外編.ジェーン1
森に近い、粗末な小屋、人が住むには充分だ。
ブラウン髪の肩まで伸ばした娘がテーブルに木の皿を並べている。
「おじいちゃん、肩大丈夫?」
「ああ、今朝は暖かいから大丈夫だ。」
「さあ、できましたよ。」
母がテーブルの中央に土鍋のシチュー鍋を置き皆で囲む。
「「「豊穣の女神様に感謝」を。」します。」
「お肉が入ってる。」
「そうね、昨日、猟師の方に分けてもらったの。」
「何時も済まないなあ。」
「む~。あの人絶対お母さんに気が在ると思う。」
「いやねえ、子持ちのおばさんなんて、気にしないわよ。」
「む~。村のポッツオとベレータが婚約したって。」
「ほう?石屋の子と…。ベレータって?だれだ?丘の向こうの子だったか?」
「ソレはベルタ。ベレータは大工さんの末の娘。来年結婚だって。」
「あらら、ジェーン、随分と詳しいわね。」
「だって、わたしも後二三年で結婚の歳なんだもん。」
「もう、そんな歳か…。」
「はやいわねえ…。」
「相手を見つけないと!」
「うーん、」
「そうねえ。」
祖父と母が目を合わす。
「おばあさんに聞いてみよう。」
「そうねえ。」
位牌替わり木の板を見る親子。
「ちょっとソレばっかり!村の男の子もあたしと遊ぶなって言われてる!」
「まあ、待ちなさい。良い男を見つけてこよう。」
「そうです、お爺さんに任せて。」
「えー変な男の子は嫌!乱暴なのとか、大酒呑みとか。デブとかハゲとか!!」
「はっはっはっはっ、解ったよ。」
「そんな男の子はこの世に居ませんよ。変なコト言わない。」
「はーい、お母さん。」
「よし、じゃあ仕事に行こう。」
「はい、お爺さんお弁当。」
包みを渡す娘。
中はパンとチーズだ。
「ありがとう。」
外に出て、皆で見送る。
しかし止まる祖父。
「あれは…。兵隊だな…。コチラに向かってくる。御領主様の兵隊だ。」
「え?そんな。急に?」
驚く母。
数騎の騎兵が小屋に向かってくる。
全て武装している。
襲歩だ、通常ではありえない、かなり急な用件であろう。
家族は固まり身を寄せる。
家の前で止まる、指揮官らしき女の騎兵が叫ぶ。
「ココは、嘗て領主様の屋敷でメイドをしていたカーデの住まいか!?」
「はい、私がカーデです。」
母が答える。
「ほう、では。其方のお方が、娘のジェーン様でよろしいか?」
「わ、わたしがジェーンです。」
「ジェーン、前に出てはダメ。」
「でも。」
「騎士様、何分女子供、年寄りしかおりません。」
「ああ、わかっておる。下がれ、お前達。」
「「はっ。」」
従者たちは素直に馬を下げ距離を取った。
「御領主様よりジェーン様を連れて来る様に申し付かった者で御座います。」
「そんな…。急に。」
「申し訳御座いません、ご母堂様。丁重に取り急ぎお連れせよとの命で御座います。」
「あの…。なぜ?御領主さまが…。」
「ジェーン、下がって。」
「カーデ様。ジェーン様の父上は御領主アルトォール様で宜しいですね?」
唇を噛む母。
「そうです。しかし。それは、手切れだと…。」
「ジェーン様、御父上のアルトォール様が御呼びで御座います。お支度は宜しいので我々と直にお発ち下さい。」
礼は忘れぬが強い意志を感じさせる女指揮官。
「そんな…。」
「待ってください。」
「村に馬車を待たせています。時間がありません。」
「あの、家族と挨拶をしたいのですが。」
女は少し、考え冷たく言う。
「あまり時間は取れません。」
「はい、ありがとうございます。」
与えられた家族の時間は少ない。
「お爺ちゃん、お母さん。行って来る。大丈夫落ち着いたら又帰って来れるわ。手紙を書くから。」
「ジェーン。コレを持っていって。」
母がネックレスを渡す。古いコインを使った革紐が付いた物だ。
「お母さん。」
母は娘を抱きしめる。
「ジェーン身体に気を付けるのだよ。」
「お爺ちゃんも身体に気をつけて冷やさない様にね。」
抱合う家族。
「うん、解ったわ。」
「よろしいでしょうか?」
「うん、大丈夫、挨拶は済んだわ。」
「では、お手をどうぞ。」
素直に手を取る娘を馬上に引き上げる指揮官。
「では、失礼します。行くぞ!!
「「はっ!」」
駆け出す、馬、街道を掛ける。
家は小さくなっていく。
そして丘を迂回する道。
丘の上は村の共同墓地だ。
「あの、騎士様。」
「何でしょうか?」
風を切るには揺れる馬上で大きな声しか聞き取れない。
「丘の上墓地へ拠ってもらえませんか?」
「時間が有りません。」
「墓地は丘を上がれば付きます。墓地からは馬車の道が村に続いています。近道です。」
墓地には使用頻度が少ないが霊柩馬車用の道が出来ている。
「…。」
「丘の上からは下り道です。村が一望できます。」
「…。揺れます、よろしいでしょうか?」
「はい。」
「おい!!お前達!我に続け!!」
「「はっ!!」」
道を外れ丘を駆け上がる騎兵の一団。
駆け上がった後、小休止を指示する女指揮官。
一つの墓石にの前に進む、娘。
「おばあちゃん…。行って来ます。」
祈る娘の後ろに無言で立つ女騎士。
「終わったわ、ありがとう。」
「いえ、申し訳ありません、急な話だと思います。村まで揺れると思いますがご勘弁を。」
「解りました。」
丘の上から故郷を一望する。
家があんなに小さい。
”絶対に忘れない、帰って来よう。”
少女は胸に刻むのであった。
(#◎皿◎´)変人で乱暴で、大酒呑みのデブでハゲ…。そんなヤツおらんやろう…。
(´・ω・`)…。




