番外編.フランク・フォン・ハイデッカー戦記3
「配給!」
号令が掛り整列する。
「ああ、配給だな。」
今日一日の食料を受け取る。
受け取る兵達のテンションは低い。
皆、連日の行軍で疲れている。
今日はキャベツとニンジンだ。
昨日とその前はカボチャ一玉だった。
敵の発見を恐れて火が使えない。
生のまま食べるのだ。
昨日でカボチャの在庫が尽きたと聞いて小躍りした自分をなじりたい。
受け取った後に魔法使いが言ったのだ。
「キャベツは無限に在るから安心しろと…。」
俺達は死刑を宣告された気分だった。
一枚毟って口に運ぶ。
うん、キャベツだ、喉が渇かないのが良い。
今のところソレぐらいしか良い所が思いつかない。
ああ、肉入りの麦の粥を食べたのは何時だったのだろう。
思い出せない。
途中に盗賊の夜営の痕跡を発見した。
恐らく数人だ。
数日前の夜営だ。
キャベツを毟りながら調べる。
我が小隊の兵は皆で知恵を出し合い。
試行錯誤の結果、答えを出した。
キャベツは一枚づつ毟って喉が渇いたら食べるのだ。
丸ごと齧ると消化に悪い上に日持ちしない。
塩を掛けるコトはしない。一つまみ口に入れてキャベツを毟って食べるのだ。
コレが最高だ。
コレ以上の物は無い、コレ以下も存在しない。
朝が来て伍長がイライラし始めたが皆気にしない。
配給を受け取らない兵が出てきたのだ。
実際に俺も一日一玉食べるのは苦痛になってきた。
腹は減っているのだ。キャベツが進まないダケだ。
キャベツ地獄から抜け出すにはコノ森を抜けるしか無いのだ。
怒って何とかなる問題では無い。
無駄な運動はしない。
しかし、伍長は兵達の食が細くなっているコトを軍曹経由で注意されているのを聞いた。
敵の痕跡を追い遂に追跡に入ったこの局面での兵の食欲不足だ。
明日にでも戦闘に入るかもしれない。
キャベツだけで戦闘だ。
キャベツだけでは力が出ない。
のろのろと進む、皆、戦意が低い、小隊長もイライラしている。
魔法使いが今日もキャベツを手から出している。
何でコノ魔法使いはキャベツを出す魔法を知っているのだろう?
もっと良いモノを出す魔法を覚えなかったのだろうか?
他の魔法使いなら…。いや、止めておこう。
どうせ、文句言ってもタマネギしか出せない魔法使いが配属されるダケだ。
軍に期待するほうが頭がおかしいのだ。
キャベツの方がマシだ。
歩いて、キャベツを毟る。
休憩して、キャベツを口に入れる。
睡眠前、毛布の中で毟った一枚を口に入れ租借する。
肉入りのスープが食いたい。
コレは肉入りスープだと信じて咀嚼する。
キャベツだ。
キャベツの味だ。
くっそ!こんな作戦考えたのドコのドイツだ!!
行軍は遅れているがそろそろ森を抜ける頃だ。
キャベツを毟り考える。
俺達は無音で合図を送り会い進む。
静かに、足音を立てず…。会話もしない。
みな、口の中にキャベツが在るからな。
正直、キャベツと言う音も聞きたくない。
目の前にキャベツは在るのだ。
前進した我々は一つの異変に気が付いた。
俺も気になっていたが、誰もが信じたく無かったのだ。
幻覚だと。
日が傾き始め、始めて確証に到った兵が呟いた。
「肉の焼ける臭いがする。」
皆の目が会い風向きを確認する。
こっちだ。
こっちで肉を焼いてやがる…。
ドコの小隊だ?
いや、この先は目的地だ。
なら敵か?
盗賊が肉を焼いてやがる!!
声を潜め小隊長に報告する。
「軍曹、どう思う。」
「恐らく敵の宿営地ですね…。どれほどの規模かは不明です。」
味方だとは言わない軍曹、そうだろう。
我々は火を使うなと厳命されている。
あいつら火を起して肉を焼いて喰ってやがる!
「偵察を出したい。数が多いなら他の小隊と合流したいが…。」
「偵察は賛成です、他の小隊との連絡は難しいと思います。」
「そうだな…。軍曹。偵察隊を編成せよ。」
「了解!」
日が地に着く前に伍長が指揮する偵察隊が組織されて俺もその中に入った。
鳴り物を外し身軽になった俺達は静かに森の中を進む。
途中の枝に目印に白いリボンを縛る。
くそっ!肉の焼ける臭いがしやがる。
あふれ出る唾で喉を潤す。
この臭いだけでキャベツ3枚は食える。
伍長が止まれの合図を出した。
みな、その場に伏せる。
木々のざわめきしか聞こえない。
随分とあたりが暗くなった。
”前方に敵2”
伍長の合図だ。
”下がって、迂回”
敵の見張りをやり過ごし。
何とか敵根拠地を見下ろす場所を確保した。
敵は森の中の窪地を…。小さな谷の様な場所で馬車と天幕を張り宿営地にしていた。
焚き火に鍋が掛っている。
肉を焼いている。
今は数人しか見えないが。
鍋の大きさから10人は越えるハズだ。
馬は居ない。
窪地で木々に遮られ光も煙の漏れない。
ただ、臭いが谷を抜ける風に乗っている。
「伍長殿、見た限りです。」
「恐らく。未だ居るはずだ。」
「テントの数から多くても30名以下ですね。」
「そんな所だろう。」
「恐らく。歩哨に立っているのが数名出ているハズです。」
「そうなると…。十数名が出ていると思います。」
谷の中が騒がしくなる。
見つかったのか?
剣に手を掛け身を強張らせる。
いや、盗賊共が気の抜けた顔だ。
胴鎧を着た一団が谷の中に入って来た。
緊張感の無い笑顔で肩を叩き有っている。
「全部で26名です。」
「よし、3人残して戻る。」
暗闇の中、白いリボンを頼りに集合地点に戻る。
毛布を被ったまま報告を受ける小隊長。
薄暗い蝋燭の中、周囲を光が漏れない様に兵達が毛布で隠している。
伍長は谷の地形と歩哨の場所を地面に書いている。
報告を受け納得する小隊長。
「軍曹、攻撃を掛けたい。どう思う?」
小隊長の目は絶好の好機だと言わんばかりだ。
「同数以下です、奇襲をかけるなら此方に有利です。」
「二三名、話せる人間は欲しい。」
「判りました、弓を使える者を監視地点に置きましょう。」
「私もやりましょう。」
魔法使いが進言する。
コイツ、キャベツ以外出せるのか?
「命令で戦闘に参加させるなと厳命されています。」
「判っています。弓が撃てる場所を確保しているなら。支援攻撃で、ファイヤーボールを打ちます。足元が明るく成る筈です。敵に混乱を与え反撃を防ぐコトが出来ます。」
小隊長に食い下がる魔法使い。
スゲー、キャベツ以外の魔法が使えるのか…。
「しかし…。」
迷う小隊長、伍長が進言する。
「小隊長殿、監視に残したのは腕の立つ者を残しました護衛には充分です。」
「奇襲を成功させるには良い案だと思います。」
続ける軍曹。
「よし、判った、私の権限で魔法使い殿には戦闘に参加してもらう。但し。直接接近戦には係らないこと。」
「了解しました。ありがとうございます。小隊長殿。」
暗闇の中を進む我が小隊30名。
途中、弓を持った数名と魔法使いが監視地点に向かった。
俺達は正面から攻めるコトになる、敵が動き出したら弓と魔法で攻撃開始の手筈だ。
攻撃開始位置に移動した…。谷を見下ろす位置だ。
「くそっ!!あいつら肉喰ってやがる。」
誰かが呟く。決して大きな声ではない。
口を開くコトは厳禁とされているが、皆同じ心だ。
思わず俺の口から出たのか?と錯覚したくらいだ。
睨む軍曹に皆が縮む。
皆の目は鍋の…。肉入りの鍋に釘付けだ。
軍曹が数名を連れて移動した。
盗賊共は食事中の様子だ。
酒も呑んでいる。
いいなあ畜生!




