348.父と息子。
さて、翌日、マルカには午後から日没まで休暇にした。
今日は半ドンだから…。
友達と遊びに行きなさいと命令した。
戸惑うマルカを部屋から見送る。
俺も出かける準備を行い校庭に向かう。
校庭には着飾った魔女達が馬車を待っている。
かなり気合を入れたらしい。
到底戦闘に…。いや。
機敏に動けない服装の女が3人並んでいる。
フランは肩の開いた青いコタルディの様なドレスに髪飾り。
エレノアは薄いピンクの開襟ブラウスに赤いワンピース、シックな胸飾りと帽子。
それより凄い谷間だ。
イネスはドレスにガウンとパレヲを巻いて体が冷えない様に工夫している。
長い髪をみつ網で後ろで団子にしてうなじが見える。
あの冠も装着してかなりの気合の入れようだ。
「初めて御義父様に御会いするのに舐められてはいけないの!」
力強く言い放つフランにうなづく嫁達。
「そ、そういう物か…。」
「そういう物ですオットー様。でも、うれしいです、私も家族として迎えていただけるとは。」
笑顔が怖い工口フ。
「あ、オットー様、来ました。」
馬車と護衛の軽騎兵が4騎随分と物々しい。
騎兵にはヘルムに赤い羽飾りと鎧の上に貫頭衣の様な我が家の紋章が刺繍された陣羽織を見に着けて居る。
着飾っているが家の兵だ、武装もしている。
4頭引き4輪馬車に白い箱のベルトサスペンション付き馬車が来た装飾も施されている。
馬車が止まり、後方の立ち台から降りたヒンメルが俺達の前に立った。
「若奥様方、お待たせして申し訳御座いません。お迎えに参りました、どうぞ中へ」
素早く助手席の者が降りてドアを開いて足台を組み立てている。
これも家の兵だ、武装もしている。
随分と物々しい。
「おお、すまんなヒンメル、この様な馬車、有ったのだな。」
「はい、御当主様の婚礼のおり設えたもので御座います。お城に登城する位しか使用しておりません。」
「そうか…。」
家にもこんな物が有ったのか。
まあ冠婚葬祭用の準備はしているだろうが。
俺が無茶を言ったのでこうなったので有ろう。
「まあ、すばらしい馬車ですわ。」
「ふん、まあまあね。」
「あの、良いのですか?」
「エレノア、怖気付いてはダメ。コレは戦いなの。」
「はい。」
強く拳を握るフラン。
何と戦っているのだろか?
まあ、貴族社会という現実では日々の振る舞いが戦争なのであろう。
手を取り一人づつキャビンに導く。
最後に俺が乗り込む。
軋むサスペンション。
外の兵が足台を片付けドアを閉める。
中は向かい合わせにシートが並びクッションが置いてある。
俺はフランの隣りに座る。
狭いなこの馬車。
ヒンメルがソレを確認した後、指示を出し走り出す馬車。
前後に護衛の騎兵が居る。
流れる王都の風景を眺める。
向かいのエレノアが緊張している様子だ。
「エレノア、大丈夫よ。わたし、オットー様の御父様とは会った事が有るの。随分と前だけど…。女性と子供にはお優しい方よ。」
「は、はい。」
フランの言葉で幾分和らぐ。
いや、俺に優しかった事なんて無いぞ?
放置していたのが優しさなら、充分すぎる程だ。
屋敷の中に入り玄関前に馬車が止まり騎兵も兵も整列している。
謎の緊張感だ。
馬車の扉が開くと先に降りる。
嫁達を一人づつ手を取り、降りるのを手伝う。
「うあぁ、おっきい。」
エレノアが地面に付くと屋敷を見上げて呟く。
ゆっさりと揺れる。
はい、大きいことは良いコトです。
「御当主様がお待ちで御座います。コチラにどうぞ。」
執事のヒンメルの先導で玄関を潜る。
中に入ると玄関ホールに親父が待っていた。
「ようこそ御出でいただきました。私がハイデッカー家当主のユリウスでございます。」
随分と偉そうな口ぶりだ。
まあ、王侯貴族の端くれだからな。
「ユリウス君。久し振りです。」
「い、イネス先生…。」
喜ぶイネスに驚く親父、顔見知りだったのか?
「ユリウス君!私、今、幸せなの。」
両手の平を合わせ臍の下に手を置くイネス。
満面の笑みだ。
きょどる親父、貴族はきょどら無い。が、珍しい物を見れた。
「ハイデッカー卿、お久し振りです。フアナ・フランチェスカ=ロジーナです。」
「フランチェスカ男爵なぜココに?」
「それは、私がオットー様の女だからです。」
「そんな…。オットーは未だ15です。」
「そ、それは…。申し訳ありません…。でも、女なんです。」
うろたえる工口姫、歳のコトを言われると辛いらしい。
「はい、オットー様の子を授かりました。」
「そ、そうでしたか…。イネス先生、申し訳御座いません。」
「あ、はい、はじめまして。エレノア・ハントリーです。」
「ああ君があの、息子が申し訳なかった。責任は取らせる。安心したまえ。」
ほっとして頭を下げる親父。
俺も頭を下げたい気分だ。はい、ムスコが大変お世話になっています。
「さて、昼食の準備が終わるまで、お茶を用意していたが…。少々、息子と話す事が在る、申し訳ないが。私は席を外させてもらう。ヒンメル、彼女達にお茶を。」
「畏まりました。若奥様、ささ、コチラに。」
執事に先導されて小部屋に向かう妻達。
「さて、オットー。付いて来い。」
「ハッ。」
前を歩く親父。
何か親父が疲れた様な怒っている様な後姿だ。
しかし、親父とフランは宮廷で挨拶したことが在るだろうが。
イネスとも顔見知りだとは…。いや先生と呼んでいた、顔見知り程度では在るまい。
案内されたのは前の執務室ではなく書斎の様な場所であった。
部屋には机と壁一面の本棚だ。
椅子に座る親父。
俺は立ったままだが、壁の本棚より親父の後ろに掛った巨大な肖像画に目が行ってしまう。
デブの壮年の男だ、魔法使いローブを着たハゲでナマズ髭、黒っぽい茶色の眉に、目はブラウン。
笑い顔で白い歯を見せ。妙に目力が在る印象だ。
手に、宝石の付いた魔法使いの杖を持っている。
椅子に座ったまま無言で有った親父が語りだす。
「この絵はデービス家にある肖像画の複製だ。元の絵は生前に伝説の魔法使いデービスを写した絵だと言われている。」
「ほう、」
「恐らく、世に出ている絵より最も姿が近いモノの一つだ。」
「しかし何故この絵が?」
「そうだな…。お前には話したことが無かったな。我がハイデッカー家は、デービス家の5男で有った、アルフレート様が戦での功績によりロジーナ王家から姫を貰い、ハイデッカーの地に家を興したコトに始まる。」
「なるほど。」
そうなるとデービス家は本家になるのか?
いや、王家から姫を貰っているのならば同格に近いが…。
「元々、我が家の祖アルフレート様は魔法が稚拙でデービスを名乗ることが許されなかった。其の為。腕と度胸だけで戦を勝ち抜き。王家の為に剣を振るった。」
「うん?」
「当時は、優秀な魔法使いしかデービスを名乗ることが許されなかった。今の世はドレもコレもデービスだが。」
「そうでしたか…。知りませんでした。」
「そうだな…。お前はこのデービスの生まれ変わりと噂されている。」
「唯の噂です。」
そうだ、俺はハゲ無い。
「そうか…。オットー、王宮で聞いたのだが…。ドラゴンを倒したのか?」
「はい、10日ほど前、ハイデッカーの地、炭鉱の町に向かう途中の砦を襲ったドラゴンを仕留めました。」
「…。」
深くタメ息を付きコメカミを揉む親父。
「そうか…。どうやって倒した?」
「魔法で一撃です。」
「そうか…。お前、本当に魔法が使えたのか…。」
「はい、万能では御座いませんが…。在る程度は。」
「我がハイデッカー家で、今まで魔法使いが出なかったワケでは無い。ソコソコ程度の魔法使いは出た。」
「そうでしたか…。」
なんだ?ハイデッカー家はDタイプが多いのか?
「私も、嘗て、父上に頼み、お前の祖父だが、一年だけ魔法学園に通った事が有ったのだ。」
「なるほど、イネスとはそこで?」
「ああ、初等科クラスの担当教師であった。私は良い生徒ではなかった。良く指導されたと思う。」
「ソウデスカ…。」
やべえ、親父の恩師を孕ませた。
それより親父は魔法学園に通っていたのか…。
「当時の私は学園に入れば魔法使いに成れると思っていた。何せデービスの血を引く者だ、しかし、入学したら学友達は歌や踊りを幼い頃から習っていた、私は剣と兵学しか知らなかった、追いつくことは出来なかった。」
「そうでしたか…。」
いや、確かにリズムと音程は詠唱に重要かも知れないが…。
魔法は詠唱が全てではない。
「お前のあの変な踊りでも魔法は使えるのだな…。」
「いえ、その変な踊りは魔法に全く関係が有りません。」
驚く親父。
「そうなのか?お前の踊りを見て魔法使いは無理だと思ったのだが…。」
何だよ、そんなコトで魔法使いの教師を呼ぶのを渋っていたのか?
「はい、魔力の発動には音程もダンスも不要です。」
「しかし。いや、お前がそう言うのならそうであろう。」
「現在、魔法学園では魔法の使え無い者の原因を探り訓練する方法を研究中です、近い将来には多くの者が魔法使いに成れるでしょう。」
絶賛、マーモットに芸を仕込んでいる。
「そうか…。ソレは恐ろしいな。」
「はい?すばらしいコトです。」
恐らく火力で帝国軍を圧倒できます。
得意げに話す俺に、盛大にタメ息を付く親父。
「困ったモノだ、あの、女男爵のフランチェスカ殿だが…。」
「はい、一応今の国王の姫になります。」
「姫、までは…。まあそうだな。庶子の子で爵位は男爵だ。家も興している。婚姻は当人同士で何とか成るだろう。」
「はい」
「しかし、今の国王は子煩悩だ。何か言ってくるかも知れない。」
「では、こうしましょう。”ドラゴンの素材が欲しくば、姫を出せ。”と。」
「うーむ、」
頭を抱える親父。
「王宮は国宝の鎧の複製を作るのに必要としている様子です、断られても問題在りません本人同士の意思は硬いです。」
「随分と乱暴だな。」
「ドラゴンを倒して国王の姫を貰うのです、それなりの理由です。難色を示したらドラゴンでも何でも、”自分で獲りに行くも良し。”と言って下さい。」
「確かにこの国を起こしたロジーナ王は魔法使いデービスを含む仲間と共にドラゴンを倒して王と成った。国王本人の気持は解らんが、周囲の者は納得するだろう。」
「そうでしたか?」
ほう、そんなのゲームの裏設定にあったかな?
「まあ、正史では無く吟遊詩人の伝説だ。お前の家庭教師は教えなかったかも知れない。下世話な話が多いからな。」
「はあ?」
「図書室に本が有るだろう調べてみろ、王国の庶民には童話として語られる物語だ、知らぬものは居ないハズだ。」
「解りました。調べてみます。」
「あと…。エレノアと言う娘だが…。」
「はい。」
「どうやら、デービス家の所縁の者らしい。問題は多いが何とかして置く。」
「はっ、ありがとうございます。」
「お前の所為で方々に頭を下げねばならない。お前はやはり所領から出すべきではなかった。」
「はっ、申し訳御座いませんでした。…あの、何故、俺は急に学園に途中入学できたのでしょうか?」
「宮中でお前の兄のフランクとクラウスが会った折、お前の話が出たのだ。その話がデービス家当主アルトォールの耳に入った。」
「そうでしたか。」
なるほど、兄上の働きかけか。
「アイツは私が魔法学園に居た時も散々馬鹿にしていた。きっと私を笑うために面白半分に招いたのだろう。又、ハイデッカー家の男が魔法使いを目指していると。」
「まあ、俺は人に笑われない程度の魔法使いです。鼻を開かす事には成ったのでは?」
「そうだな、私もお前が魔法を使えるとは思わなかった、お前本当に死んだ人間を生き返らせる事ができるのか?」
「条件が揃えば誰でも出来ますよ?ソレこそ魔法なんて必要有りません。」
復活のアイテムは目下開発中だ。
「条件…。アイツはお前が伝説級の魔法使いと判った途端に態度を変えてきた。縁談の話もだ。アイツの所には男が居ない、時期当主にお前を、とまで言って来た。」
「要りませんね、自分で家を興します。」
今は戦力を整え軍での立場を上げるコトに専念した方が良い、帝国軍が来たとき、最悪でも中隊長以上の指揮官になっていないと。
撃退することは出来ないであろう。
領地のコトはその後で良い。
「そうだろうな。お前の目的は変らないな…。」
勿論だとも、俺は目的を見失わない。
翔ちゃんの知識では目的を見失っては成らないと有った、手段が目的に成る何て持っての他だ。
特に後輩君が手段の為に目的を綺麗さっぱり忘れて迷走していたからな。
ドアがノックされた。
『ヒンメルでございます。お食事のご用意が整います。』
「わかった。行こう。さて、お嬢さん方を待たせている。そろそろ戻るか…。」
「はい、そうですね。」
親父が席を立ちドアを開ける。
部屋を出る前に立ち止まった。
「しかし、お前、凄いのを集めてきたな?」
「はい、みなイイ女です。」
ギリギリお嬢さんだ、だが俺には良い女だ。
親父は呆れていた。




