323.馬匹4
さて、冒険者ギルドで、エンリケの店の護衛を指名依頼でベスタが受ける手続が終わった。
対応した受付のお姉さんの顔色が悪かったのが印象だ。
おう、ギルド内の麩陰気で最悪…。
金貨5枚で護衛依頼を受けたベスタは、意気揚々と冒険者ギルドを出る。
「あの…。オットー様。あのようなコトを言って宜しかったのですか?」
娘が随分と控え目に話す。
「心配するな。唯の商談だ、貴族流のな。」
商人には出来ない武力をチラ見せさせる商談方法だ。
モロ見せしすぎると”DOKIDOKI!兵達の大運動会。(首)ポロリも在るよ。”に変ってしまう。
ソコまで話が大きく成る前に止める理性が必要だ。
但し、往々にして理性と言うものは見失うことが多い。
父上に報告することが増えたが…。
まあ良いだろう、その内に又手紙を書こう。
そのまま馬屋に向かう。
暇そうな牧童は俺の顔を見て驚いている様子だ。
「旦那様、馬の引取りですか?」
「ああ、そうだ。又、旅に出る予定だ。」
「そうですか…。申し訳ありません、今、放牧中です。直に厩入れます。」
「そうか。手間を掛ける。」
牧童が壁に掛ったハミを持って走って来る。
「明日か明後日の話だと思い今日一日は休ませる心算でした、昨日から太らせる為、栄養の良い物を食べさせてます。明日、長く走らせるなら今日は生草や、乾草でお願いします。」
歩きながら話す牧童。
頷く、ベスタ。
なるほど、専門家に解る話なのか?
柵の中の馬達は自由に草を食んで歩いている。
あの目つきの悪い馬も居る。
牧童が桶を持ち上げて馬に合図するが痩せ馬が集るだけであの馬は来ない。
「あ、あいつら厩舎に入れられると思ってやがる。」
悪態を付く、牧童。
「どうしたのだ?」
「旦那様、馬は腹が膨れて未だ遊び足りないのです。お嬢さんがハミと鞍を見せれば…。多分寄って来ます。」
「そうなのか?」
「恐らく…。」
牧童がハミをベスタに渡す。
ベスタがハミを持つと目つきの悪い馬が警戒しながら近づいてくる。
収納から鞍を出し、ベスタの肩に掛ける。
ソレを確認した馬が走って来る。
なるほど…流石ケダモノ、現金な物だ。
ベスタの前に止まる乗馬、済ました顔だが尻尾が人に催促をしている。
恐らく早く乗れと言う事だろう。
「あの…。オットー様。」
「ああ、手早く済ませ。」
そのまま馬の装具を付ける娘とベスタ。
困った物だ…。思わずタメ息が出る。道具なのに気分が有るのだ。
あの、世界の移動機械なら機嫌は関係が無いのだが。
但し、翔ちゃんの記憶には機械にも機嫌が有るらしい。
電子制御に支配された機械にすら機嫌が在る。
ソレは人間には理解出来ない範囲での出来事らしい。
この生物は見れば解る。
ソレを伝える目も口も、表情と耳や尻尾と言うインターフェースが在るのだ。
使用者はソレを感じればよい。
解り易い。
機械程では無い、機械は全て人に解らない範囲での変化らしい。
だからこそ限界まで使うことが出来るのだ。
移動機械か…何時かこの世に作りたいものだ。
馬に跨ったベスタが柵の中を三周して戻って来た。
馬の機嫌が良くなったらしい。
馬、機械、奴隷。
国王、王族、貴族、平民。
全ては複雑な社会を簡単なモノにする符号なのかもしれない。
さあ、俺の敵は何だ?




