32.ミソッカス
意気揚々と寮に戻る。
廊下を歩いていると食堂の鐘が鳴った。
ぞろぞろ出てくる寮生たち、一旦部屋へ戻るか?そのまま食堂へ向かうか?
どうせ木札の順番待ちだ。
一旦戻っても間に合うだろ。
部屋に入る。
無人だ、まあ、メイドさんずはお仕事中だ。
ちょっと反省会をしよう。
司書のNPCが居たがゲームに負けず劣らずのエロっぽさだった。
やっぱり二次絵と実際の人間とは随分印象が違う。
まるで漫画原作の実写ドラマを見ている様だった。
まさか今までもモブキャラが既に出ているのでは?
気が付いていないダケで。
少なくとも魔法科クラスの連中は間違いなく。
ゲームに登場していたと考えて良いだろう。
部屋を出る。
食堂の入り口では数人が立っているダケだ。
よし、いいタイミングだ。
最後の木札をひっくり返して末席にすわる。
お誕生日席のモミアゲロールパンがにこやかに述べる。
「皆揃いましたね?では、始めましょう。」
素早く配膳するメイドたち。
うん、ウチのメイドも他のメイドに負けていない立ち振る舞いだ。
ロリメイドが配るメインは皆、緊張して受け取っている。
最後のメインが俺の前に来た。
うん、フィッシュフライにソースが掛かっている、今日はパンでは無くバターライスかサフランライスだ。米の粒が長い。
サラダのドレッシングは乳白色だ。それに、カボチャのポタージュスープ。小皿にプリンが付いている。
「皆に行き渡りましたね。では、豊穣の女神ディアナに感謝を。」
モミアゲロールパンナが音頭を取り皆が祈りを捧げる。
流石に二回目は吹き出さない。
食事を始める、フォークとナイフで魚を切り分ける。
白身魚で油が乗っている。
なんだろ?銀ムツか?メルルーサかな?王国に海は無いからひょっとしたらブラックバスかも?
一口食べる。
うん、臭みは無い。
衣はサクサクだ。
ソースは胡椒と酢で甘辛い。少し柑橘系の香りがするので酢では無くレモンを使っているのかもしれない。
米はパラパラで粘性が無い味はハーブとバターの香りがする。
サラダは昨日とは中身が違った、昨日はピーマンかパプリカが入っていたが今日は葉物が主役でドレッシングはフレンチドレッシングに近い味だ、オニオンの微塵切りが入っている。
カボチャのポタージュスープは甘みが無い、なんだろ?何か足りない味付けだ。
最後はプリンで締める。
カラメルは無かったが上に蜂蜜が乗っていた。
うん、甘い。
プリン本体には甘みが無いがねっとりした蜂蜜の甘さでちょうど良い。
食事がおわり解散すると。皆ラウンジに向かう様子だった。
おれは部屋へ向かおう。
食堂の出口で前髪キザ夫君と魔法科のクラスメイトが道を塞いだ。後ろにも立っているのが気配でわかる。
ちっ前に3人後ろに2人か。
同時に襲い掛かられたら骨だな。
腰を落として右手を背中の大ナイフに手を掛ける。
「おいおい!!ちょっと待ってください!!何でそんなに物騒なんですか!?」
かなり焦っているキザ夫くん。
「俺の後ろに立つな。」
空手チョップ最凶の殺し屋の名台詞を言う。
後ろの二人が横に跳び逃げる。
「何か用か?」
「ああ、ほら、僕ら、同じクラスだし、交友を深めようと。」
「さ、ささやかだけど。ヘアトニックも用意したんだ。」
ビビリながら答える前髪キザ夫と黒髪ツーブロック。
「ヘアトニック?」
声を落とす前髪君
「ほら、寮内は飲酒禁止だから、ヘアトニックと言っているんだ。」
「モミアゲロールパンに見つかるとめんどくさい事になるぞ?」
「もみ?」
「アゲ…。」
「「「ロールパンwww」」」
腹を抱えて笑う五人。
食堂には片付けをするメイドたちしか居ない。
コチラを奇異な目で見ている。
「面白いこと言うねオットー・フォン・ハイデッカーくん。どうだい?サロンの個室を用意しているから一緒に積る話でもしない?」
「解かった行こう。」
広いサロンは丸テーブルを椅子が囲んでいる。
奥では従者三人が音楽を演奏している。
昔はBGMも人力か…。
そのさらに奥には個室があった。
黒髪刈り上げ君が解説する。
「ココはちょっとした防音だから暴れなかったら外には聞こえないんだ。でも、異性と利用するのは禁止なんだよ。」
小さいバーカウンターもある。
数人ならパーティも出来るだろう。
こんなのゲームにあったっけ?
ああ、主人公は貴族の寮では無かったな。
「本当は給仕やバーマスターも呼べるけど、今日は無し。そしてコレがヘアトニックだ!!」
ホントにヘアトニック瓶を取り出してテーブルに置く。
「「「おおおっ!!」」」
皆、感動の呻き声を挙げている。
「中身はバーボンだから安心して。」
アルコールに飢えている様だが、初日にワインを飲んだよな?
「寮でワインが出るだろ?」
「ちっちっちっ、あんな薄い酒精が飛んだ酒なんてジュースと一緒だよ。」
一指し指を口の前で振るキザ夫君、なんだ、ウザイ顔だな。
そうかコイツ等酒が飲みたいのか?
魔法収納から家からパクッてきた酒瓶を出す。
ゴトンと言う音で皆が注目する。
「ブ!ブレン・グランド25年じゃないか!!」
「ああ、家の酒蔵からパクッてきた。」
親父の毒霧の元だ。
たくさん在ったから1本ぐらい良いだろう。
なお、2本ギッて来た
「すごい!!おれ。12年しか呑んだことない!!」
まるで天使が光臨したような目をキラッキラさせながら酒瓶にすがりつく5人、無駄に顔が良いので絵画のワンシーンの様だ。
コイツ等ホントに貴族か?
「よ、よ、よし、で、では、きょ、今回はヘアトニックは仕舞おう。」
貴族はうろたえない。うろたえるかりあげクン。
「割る?ロック?氷ないよ?」
コイツは後ろに立ってた金髪君。
「くっそ!!何で氷無いんだよ!!(逆ギレ)」
コイツも後ろに居た、金髪ロン毛のノッポ。
「えー常温でハーフ?台無しだよ。」
コイツは前に居た…黒髪のチビ。と言うかかなり若い。俺より年下かも?
コイツ等世話が焼けるな。
水差しをショットグラスに入れて凍らせる。-20度ぐらいで良いか?
ロックグラスに落とす。
乾いた音が個室に響く。
「えっ!氷作れるの?」
驚く黒髪のチビ。
水差しをショットに注ぐ。
「グラスを持って並べ。」
大人しく並ぶ貴族の子弟。
と言うか尻尾振っている犬みたい。
全員に氷とグラスが行き渡り。
コルクが抜かれる。
キュポンという音が静寂のサロンに響き最初のグラスに注がれる。
トクトクと鼓動する酒瓶が芳醇な香りを振りまく。
皆が呼吸も忘れてグラスを見入っている。
最後のグラスに注がれると。
自分のグラスから立ち昇る香りと。
琥珀色のグラスの中の宇宙を無言で観察する男たち(未成年)。
「えー、では、私、アレックスが発起人として音頭を取らさせて頂きます。オットー・フォン・ハイデッカー君入学おめでとう!」
「「「カンパーイ!!」」」
そうか、前髪キザ夫君はアレックスと言うのか。
皆、酒の味に我を忘れている。
「では、自己紹介をハイデッカー公爵家三男オットー・フォン・ハイデッカー。15歳(数え)です。」
「僕はワイヤード公爵4男アレックス18だ。」(前髪キザ夫)
なんだ、俺より上じゃないか?
「ああ、先に言っておく、庶子の子なのでミソッカスさ。」
「僕はフェンデリック子爵、四男のマルコ17。こっちは弟の。」
「弟のフェルッポ。14。六男だ。」
黒髪ツーブロックと黒髪チビだった、やっぱり兄弟か。よく似ているからな。
「六男?真ん中はどうした?」
「死んだ流行病だ。」
苦々しくはき捨てるツーブロック。
「では、俺は、バージェル男爵長男カール。17歳。で、コチラは従兄弟で乳兄弟の。」
「ヴォルーデ準男爵次男ジョン。17歳。」
金髪イケ面がカールで、ノッポロン毛がジョンらしい。
「ほう?一番の銀の匙だな?」
「辞めてくれ。三代目でコレで打ち止めなんだ。俺が頑張らないと一族みんな野垂れ死にだ。」
カールは首を振りながら下を向く。
「カールの領地はドコなんだ?」
顔を下に向いたまま呟くカール
「南方国境地帯さ…。」
そこは確かゲーム中盤の主戦場だったはず。
「帝国の隣りか?」
「そうだ、爺さんが防衛で功績を挙げて男爵になったがかなりヤバイ所だ。最近は帝国が落ち着いているから問題無いが、親父が生きている間に手柄を立てないと領地は誰かの褒美になっちまう。」
「そうなったら俺も流民さ。良くて名誉の戦死だなw」
笑う、ノッポ。
何だよ、随分と夢が無い連中の集まりだな。
苦笑する前髪キザ夫君のアレックス
「まあ、そういうわけで、ミソッカス同盟なんだよ。」
「で、俺を誘ったのか?」
「ああ、その資格は在ると思った。あと、この同盟の集まりの時は呼び捨てが基本だ。」
「そうか。」
カールが絶望の声で言い放つ。
「ああ、俺が魔法適正が在って一家の期待を背負って苦労して入学したのに今日の考査は最悪だ!!」
「こいつ、酒飲むと何時もこんな感じ…。カール。俺も最悪だ次の考査。頑張ろうぜ。」」
ノッポのジョンが従兄弟の肩を叩きながら笑う。
「オットーはイイよな~。魔法は一発だし。イイ女は侍らしているし。旨い酒も持っている。」
黒髪チビのフェルッポ。
「ああ、あの奴隷は俺の個人の資産で家のモノではない。」
驚く黒髪ツーブロックのマルコ。グラスは空になっている。
「あんな高そうなのよく買えたな。やっぱ羽振りがいいね。」
マルコのグラスに注いでやる。
「いや、綺麗にしたんだ。始めはヒドイ状態だった。」
「へーでも。スゴイ仕込んだんだな。あんな物腰の女は宮殿にも居ないぜ。」
タメ息を付いて言葉を選ぶ。
「全て俺が仕込んだ訳ではない。奴隷になる前は二人ともソコソコの家のお嬢さんだった様だ。もちろんこの国ではない。」
「え?スゴイ!!掘り出し物じゃないか。」
ノッポのジョンが大喜びしている。
「ああ、そうだな。お前らが戦争で負ければお前の姉妹と従姉妹が敵兵に蹂躙されて、掘り出しモノになる。」
カールとジョンが絶望の底に沈む。
皆、無言でグラスを見ている。
「女、子供は自分の境遇を決めることが出来ない。大概の奴隷はそんな者だ。あれ等は恐らく戦争奴隷だ、買った経緯は偶然だが、後ろ盾の無い女、子供が生きられる世ではない。」
「えーっと。ソレじゃあ…。」
アレックスがしどろもどろになる。
「そうだな。あの奴隷の娘は俺たちの家族の未来か、守らなくてはいけない領民だ。」
ツーブロックのマルコがおどおどし始める。
「どうしよう。俺、邪険に扱っちゃったよ。」
「別に、宝のように扱えとは言っていない。しかし砂袋の様にしろと言っている訳でもない。人間として扱っていれば良いだけだ。」
カールがイキナリ立ち上った。
「くっそ!!姉上も妹も帝国の好きにはさせないぞ!!」
「そうだ!!帝国兵なんぞ俺の魔法で木っ端微塵だ!!」
ジョンも拳を振り上げる。
「そうか、頑張れ。」
俺はグラスを空にする。
黒髪チビのフェルッポが随分と畏まって話す。
「あの、オットー・フォン・ハイデッカー様。今日の魔法はどんな魔法だったんですか?」
おい、ルールどうした!!
「ああ、ソレは僕も聞きたい。何度も狙われてスッゴイ怖い。」
続くアレックス。
カールが目が据わったままコチラを睨む。
「ああ、あの魔法が使えれば帝国軍なんて木っ端微塵だ。」
しまった。
「どの魔法だ?」
「何時も両手から出している光の魔法と、頭の上で光っている魔法と。両手でバリバリ言う魔法と…。大デービスを木っ端微塵にした魔法。」
黒髪チビのフェルッポが指折り数えている。
「グレート・デービス?」
なんじゃそりゃ?
「考査の最後で破壊した岩の名前。昔の伝説の教師デービスが魔法で作った岩。」
黒髪ツーブロックのマルコが説明する。
「あれはタダのウインドカッターだぞ?」
「「「イヤイヤイヤイヤ~」」」
全員が否定する。
「ウィンドカッターはあんなに威力無い。」
「魔法結界で守られた塀を破壊することは無理。」
「と言うか岩を溶かしてたよね?」
「レンガも溶けてた。」
「スゴイ風だった。」
「おいおい、全部混ぜるな?う~ん困ったな…。」
訳が解からなくなる。
「おいおい、ココまできて秘密か?」
馴れ馴れしいアレックス。随分酔ってる。
「俺を放校から救ってくれ~。」
生きる屍のカール。
「「俺に、家族を守る力をくれ~!!」」
屍ジョンも加わり合唱する。
無駄にハモっている。
「解かった。教えよう放課後に図書室に来い。」
「了解したぜ!!」
マルコが親指を立て無駄にいい笑顔で答える。白い歯が光っている。
「サー!イエッ・サー!!」
フェルッポが無茶苦茶な敬礼で答える。
「え?お前らもか?」
アレックスが前髪をかき上げながらキメ顔で話す。
「オットー、俺たち親友だよな…。」
くっそ!!酔っ払い共が!!




