308.テーブルマナー
時間が来たので鎧のラフ・スケッチを収納する。
さあ、飯だ。
久し振りに食堂に向かう。
食堂の札はあと二人だった。
悪く無い。
廊下で待つ。
来た生徒が驚いた顔だ。
俺の札をひっくり返してドアーを潜る。
一瞬で食堂の空気が変わるのが解かる。
お誕生日席のモミアゲロールパンは笑顔で表情レイヤーに青筋が立っている。
凍りついた笑みだな。
優雅に席に付く、軋む椅子。
Mr.Rは覚ました顔でロールパンにささやく。
ぎこちなく頷くロールパン。
「そろいましたね?始めましょう。」
メイド達が配膳を始める。
皆無言だ。
ミソッカス共は全員揃っている。
マルコがコッソリ合図を送っている、サロンを差している様だ。
頷く。(よくわから無いが後でサロンで聞こう。)
席には空きが多い。
恐らく休暇で家に帰った者が多いのだろう。
配膳が終わり、メイドが壁紙になる。
鬼畜メガネが合図している。
「では、みなさん。豊穣の女神ディアナに感謝を。」
俺も祈る。
”戦友、戦友、戦友、戦友、戦友…。”
さて、食事を始める。
パンとスープとサラダ、小鳥(品種不明)のロースト三匹、根野菜の酢漬け。
サラダは葉物野菜だ、白いドレッシング。
スープはタマネギと芋の半透明のスープだ、ハーブが効いている。
小骨の多い鳥と格闘する。
くそっ。包丁の背で叩いて骨を砕いてから焼けよ!
三匹目から面倒に成ったので骨ごと咀嚼する。
静かに食器の触れ合う音の食堂に派手に響く骨の砕ける音。
全員が手を止めコチラを見ている…。
いやん。
ブチ切れそうなロールパンを無視して手早く食事を片付け席を立つ。
おう、食堂の麩陰気で最悪…。
サロンでお茶をしよう。
無人のサロンの丸テーブル一つを一人で占領する。
メイドがお茶セットを用意して一礼して下がる。
お茶うめー。
焼き菓子を収納する。
焼き菓子も職人殿に追加注文しておくべきか…。
旅で解かったコトは焼き菓子は誰でも喜ぶというコトだ。
袖の下的な意味で。
ミソッカス共が食堂から出てきた。
手を上げて合図する。
「やあ、オットー久し振り。この席良いかな?」
どうやら、前髪はルールどおりが好きらしい。
「ああ、どうぞ。」
「「ありがとう、オットー。」」
メイドが来てお茶を用意する。
フェルッポが何か話したそうだが、一応ルールなのでメイドが下がるまで待っている様子だ。
そわそわフェルッポ。
一礼してメイドが下がる。
俺の焼き菓子も補充された。
「おかえり、オットー。」
「久し振りだな。何か変わったことは有ったか?アレックス。」
「何も…。退屈だったよ。練習しかしてないからね。」
「そうか…。」
練習はしていたのか…。
「ああ、久し振りに緊張感あふれる夕食だった。」
カップを持ったまま話すカール。
「そうだな、オットー、何も変っていないのか?」
なるほど、ジョンの言うことはモミアゲロールパンとのコトだな。
恐らく親父に手紙が届く頃だ。
何も言わず首をふる。
「そうか…。」
「で、オットー。旅はどうだった?何か魔物は出た?」
「弟よ…。魔物なんてそんなに。」
「ああ、出たぞ、フェルッポ。沢山倒した。」
「やった、凄い話を聞かせてよ。」
「出たのか…。」
「そうか…。沢山か…。」
「おもしろそうだね…。オットー。」
ニコニコ顔のアレックスと額を揉む。マルコとカール。
ジョンは苦い顔だ。
「何が出たの?」
うきうきフェルッポ。
「そうだな…。小物の魔物とオーガとサイクロプス。あと、ミノタウロスだ。」
「サイクロプス…。」
「ミノタウロス…。」
「おいおい、盛りすぎだ。オーガくらいならオットーでも倒せるかも知れないが…。流石にサイクロプスは無理だろ?」
”いや、オーガが出ても無理だろ…。”
頭痛が痛い様子の乳タイプ兄弟とマルコ、ツッコミを入れる前髪。
お前等、コレからミノ太とわっしょいするんだぞ?
無論、未だ俺の企みだが。
「まあ、明日の鍛練で見せよう。収納してきた。」
「何のために?」
「折角、狩った魔物だ、皮を売って旅費の足しにするつもりだ。」
「そうか…。」
「俺も、そろそろ防具をそろえたいからな。」
「サイクロプスの皮は革の鎧でも最上級だ、強くて軽くて滑らかだ。オーガより高級だぞ?」
ジョンが言う。
「そりゃ良いな、なら一部売らずに素材を使おう。」
アレだけデカイオッサンだ。俺のコートが何着も出来るだろう。
「仕立て屋。知っているのか?オットー?」
カールが突っ込む。
イカンなゲームでは出てこなかった…。
「王都では知らないな…。」
家ではお針子のメイドが居たからな…。
「武器屋なら知っているんじゃないかな?あと冒険者ギルド。」
「そうだな、ありがとうフェルッポ。」
「え?えへへへへ。」
「弟よ。また物語の受け売りか…。」
「え?良いじゃない。」
「マルコ。そう捨てたものではない。確かに剣には柄や鞘に革加工が要る、恐らく何らかの繋がりは有るだろう。」
「まあ、そうだろうが…。」
「いいなあ、サイクロプス革か…。家の家宝の革の盾はオーガ革と言われている。」
「カール。サイクロプスが最高の革なのか?」
「ああ、手に入る中での話しだ。」
「勿論最高の素材はドラゴンの革だよ。伝説級の鎧で、この国の国宝だ。」
「そうなのか?フェルッポ?」
出てきたか?そんなのゲームに。
「おいおい。オットー」「そりゃ無いよ。」「建国の王の鎧だぞ?」
「そうか…。ソレは知らなかった…。」
うむ、腕を組んで考える。
ゲームの設定本にも無かった話だな、今度図書室でしらべよう。
「まあ、ドラゴンなんて伝説だから…。北の山脈の向こうには居るらしいけど。」
「ソレも、物語の中の話だろ?」
「でも、兄さん、昔は居たって。」
「今は居ないんだ。安心しろ。」
「え~。」
そうだぞ、フェルッポ。もう居ないからな。
明日見せてやる。




