306.帰還4
娘とベスタが馬を牽き歩く。
王都の賑わいは変わりが無い。
馬屋に付くと、牧童が笑顔で出迎えた。
「お帰りなさい。ダンナ様、旅はご無事でしたか。」
「ああ、問題なく戻って来た。馬を預けたい。」
「解かりました。ではこちらに。」
水場に馬を繋ぐ。
柵の向こうでは数匹の馬が草を食んでいる。
牧童が馬の状態を確認している。
「痩せてない、怪我も無い。目の色も蹄も問題なしと。」
「ああ、馬の扱いの成れた者が居るからな。」
「そうですね。一日休めば又、使える状態ですね。馬に無理をさせる人が多いので痩せて帰ってくるのが多いんですよ。そういう場合はしばらく休息させないと…。」
柵の向こうの馬を見る牧童。
アバラが見える馬だ。
「あの馬はドコから来たのだ?」
「アレは軍から帰って来たばかりの馬です。かなり無理したのか痩せ馬になってしまって。ココで二三日食べさせて、牧場に戻します一月は仕事できませんね…。」
タメ息を付く牧童。
「そうか…。」
「一応戦争は終わったそうです。コレから馬が帰ってくると思うけど…。あそこまで馬を酷使しているかと思うと…。ちょっと気が重いです。」
「なにっ!ソレは本当か!?」
聞き捨てならんコトを言う牧童。
「え?いえ、馬を持って来た兵隊さんの話です。敵の頭目を討ったって、自慢してました。残党狩りも終わりが見えた、でコレから皆戻ってくるから用意しておけって。」
なるほど先触れか。
「何時の話だ?」
「馬が来たのは昨日ですけど…。一昨日遅くに兵隊さん達が王都に戻ったって。」
「噂になっていないが…。」
「戻ったのは馬に乗った数人だそうです。伝令?なのかな?報告に戻ったけど本隊?が帰るのを待つと言ってました。代わりの馬は要らないって。」
首を捻る牧童。
「そうか…。盗賊の頭目は討伐されたのか…。」
未だ軍が動いているが戻った小隊が居るなら敗残兵狩りも終わりだろう。
そうなると街道の安全は確保される。
ゲームでは主人公が王都の魔法学園の試験に向かう頃だ。
編入試験は年明けのハズだ、年内は盗賊の討伐は続くと思ったが…。
何か早いのか?
眉間を揉み考える。
「オットー様?」
ベスタが訪ねる。
「ああ、すまんな。牧童殿の見立ては。ウチの馬は直に使えるのか?」
「え?ええ。大事を取って二三日は様子を見る所ですが、目の色も毛艶も良いです。問題ないと思います。」
「そうか。解かった。ありがとう、馬はまた近々借りに来る。」
「はい、解かりました。休養と良いモノを食べさせておきます。」
馬屋を出て、ベスタと娘で町を歩く。
「娘、盗賊が討たれたそうだ。街道の安全宣言は時間の問題だ。行商の準備に掛れ。馬車に荷を積め。何時でも出れる様にしておけ。」
「は、はい!!」
「ベスタ、頼むぞ。」
「はい、わかりました。」
よし、行商がうまく行けばエンリケの店は立ち直るだろう。
その為の準備は全て揃った。
空を見上げる。
青空をバックに笑顔のエンリケ…。(会った事が無いので顔は出てこない。)
すまんな、エンリケ、家族のコトは心配するな。
俺が守ってやる。
特にイレーネのコトは…。
ふう。




