292.炭鉱の町4
ギルド長からは大した話は聞けなかった。
ドラゴン情報も隠蔽していたのだ。
何らかの…。悪巧みが有ったのは間違いないだろう。
理由は下らないモノかもしれない。
冒険者達とはギルド前で別れた。
俺の託した個人的な依頼の為に意気揚々と出陣した。
まあ、タダ酒が飲める依頼だ。
嬉しいだろう。
俺は冒険者ギルドの中の町の地図を見て次の選択の目星を付けた。
ベスタを連れて歩く。
町の北側らしい。
道は石畳から土に変り薄汚れた住宅が密集している。
貧民街だ。
何かを動かす音で騒がしい。
ココを抜ければ目的の場所だ。
住人の視線が刺さる。
皆ボロを着て何日も風呂に入っていない顔だ。
ベスタと俺は無言で道を進む。
「死体はないか~」(カンカン)
前方から小汚い男が荷車を牽いて来る。
肩にロープを掛け片手に割れた鍋、刃の磨り減って潰れた手斧で叩いて皆に知らせている。
「死体はないか~」(カンカン)
荷車の上には全裸の冷たい死体が乗っている。
重いのかゆっくり軋みながら進む荷車。
なんだ、死体回収業者か…。
この世界にも色々な仕事が有る。
きっと正義の植木屋も居るだろう…。後、黒騎士。
横を通り過ぎる。
「う、あ…。」
死体ではなくベスタの声だ。
振り向くと足が止まり荷台の上を凝視している。
顔色が…唇が真っ白だ。
「どうかしたのか?」
「い、いえ、何でも有りません…。」
何も無いワケが無い。
「見知った顔でも有るのか?」
「は、はい。」
震える指で示すベスタ。
荷台の上の手足の細くなった女を示している、腹が膨れている。
恐らく妊婦で栄養失調で病気を患い死んだのだろう。
順番は不明だが結果は死だ。
「おい、ソコの男。」
「死体は…はい、何でございましょう?ダンナ様。」
死体回収業者を呼び止める、意外に若い男だ。
「お前は何を運んでいる?」
一目瞭然だが相手も解かっての話だ。
まあ、挨拶の儀式だ。
「はい、私共は、死人を冥府の王に送り届ける為に教会のお手伝いをする者で、墓地に運び埋葬する者でございます。」
「そうか…。その腹の膨れた女は何者だ?」
「はい、売春宿の女で子を身籠りましたが、はやり病が治りませんでした。」
「そうか…。」
手足に枷の痕が残っている。
木の枝の様な手足でアバラが見える。
余り良い宿では無かったらしい。
死なないと枷が外れることが無かったのであろう。
「小銅貨9枚で運んでおります。」
なるほど、一番安い運び賃だろう。
金額により待遇は違うのか?
ベスタの顔色が蒼白だ。
「あ…。あ…。」
立ちすくんで動くことが出来ない様だ。
仕方ない。
死体回収業者に語り掛ける。
「その女は我が配下の顔見知りらしい。母子で冥府の王の前でも恥かしくない様に取り繕ってくれ。」
大銀貨一枚を取り出し指で弾く。
鳴り物を捨て両手でキャッチする死体回収業者。
掴んだ手の中を大きな目で見開いて驚愕している。
「だ、ダンナ様。こんなに!!宜しいのですか?」
「ああ、迷う事無く冥府の王に送り届けてくれ。その手間賃だ。」
手で早く行けと合図する。
一礼すると落とした鳴り物を拾い荷車を引く死体回収業者。
ベスタが泣いている。
涙を流していないが泣いている。
前から抱きしめ背中から肩を優しく叩くたたく。
「オットー様。あの者は…。同じ馬車に乗っていた者です…。」
震える声のベスタ。
どの馬車か一瞬理解できなかったが、ベスタを初めて見た時。
あの、ゲスい小男の奴隷商の薄汚れた馬車を思い出した。
あのときに並んでいた女か…。
「わたしがオットー様に買っていただけ無かったら…。あの、車に…。」
優しく声を掛ける。
「そうか…。気にするな。悪い方に考えると物事が悪い方に動く。今は悲しんでも良いが…。忘れろ、そして時々思い出してやれ。お前は未だ生きているのだ。」
「はい。」
荷車を見送る。
深呼吸して落ち着いたベスタ。
いや、無表情だが心の中では泣いている。
だが歩き始めた。
(´・ω・`)ベスタさんのBADEND(ゲーム内)の話でした。
(´・ω・`)ククククこの話を書くためだけに。課外授業編を組み立てたのは内緒だ。




