30.実技試験
随分と消耗したロビン君を案内に立たせ。
第一訓練場へと向かう。
ロリとは食堂前で別れたが。
「着替える為に寮に戻ってもよい。気が向かないなら寮で待機しても良い。」
といったら。
「午後の授業には出ます。」
心強い返答だった。
良かった、自暴自棄にならずに生きる活力が出てきた様子だ。
もうすぐ鐘が鳴るはずだが。
考査の順番待ちで列が出来ていた。
皆、広いグランドの片隅で鉄柱相手に火の玉をぶつけている。
「35番モリス!!いきます!ファイヤーボール。」
ああ、ダメだろ。エネルギー収束が低い、もっと魔力を練るんだ。
「はい、35番失格、次。」
「38番ボーデン行きます!!ファイヤーボール!」
なんだ、熱量が足りないだろ?
一応、火の玉が真直ぐ鉄柱に進んで炎に包まれる。
「「「おお~っ。」」」
「よっしゃ!!」
学友がどよめき。ガッツポーズのボーデン君。
「はい、38番合格!次。」
「…。」
教官に促される。
「おい、次。」
あれ?俺、並んでたっけ?
いつの間にか最前列になっていた。
まあ、いい、たかがファイヤーボール。どうと言うことは無い。
「オットー・フォン・ハイデッカー行きます。」
左手に熱量を収束する、ココで対象物を飽和させるだけの熱量を溜めるのが重要だ。
目指せ1万度。
目標前方標的。
GUIのレチクルが目標ロックの状態になる。
打ち出したエネルギーは鉄柱に命中して、白熱化、飴の様に曲がる。
「よっしゃ!!」
ガッツポーズを取るが皆、無言だ。
「あ~生徒番号は?」
「番号は知らされていません。生徒オットー・フォン・ハイデッカーです。」
眉毛にシワが寄る教官、書類を数枚めくり自分だけ納得した様子だ。
「あ~、そうですか。はい。了解しました。」
テンションが低い教官。
「あ~、標的がダメになったので次の番号からは隣りの標的で考査を行ないます。」
「あの、教官、俺は次の考査も受けたいのですが。」
困った顔をする教官。
ペンの尻で頭の後ろを掻いている。
「ソコの、岩に向かって自由に撃って良い。」
「了解しました。」
なんだろ、この、疎外感。
先生まで無視かよ。
とりあえず目の前30M先のデカイ岩に向かってメガ粒子砲を撃つ。
エフェクト無しの本気モードだ。
当たった岩は、強度の赤外線を発しながら溶けた。
うん、少し外れた半分残っている。スゴイ熱量だ。
融解した一部が黒赤い液体になり沸騰している。
突き抜けた魔法は後ろのレンガの壁に当たり表面が飴の様に溶け墜ちた。
う~ん、手加減が難しい。
もうちっと手加減できないと周りが炭になってしまう。
振幅増幅リングを構築して光を搾り出す。
うん、いい感じに岩を削って居る。
光学兵器は残りカスが出ないのが良い。
ただ表面を沸騰させてガラス化するだけだ。
これならかろうじて鎧を着た人間を1.5人分貫く程度だ。
デブにも対応できる。
しかし、このゲームはイケ面が多いのでデブキャラは俺ぐらいと帝国の悪大臣ぐらいしかいない。
10秒が経過してリングが擦れて消える。
何とか連続照射時間を延ばす必要がある。
そうすれば360度全ての敵を焼き殺しながら進むコトが出来る。
後半のモンスターエンカウント祭りで随分楽になるだろう。
「ファイヤーストーム!!」
おお、学生が成功させたらしい。
皆、感嘆の歓声を挙げている。
成功したと思しき生徒がガッツポーズしている。
なるほど。
アレがファイヤーストームか…。
発動は見なかったが大体わかった。
様は火災旋風だな。
熱源で上昇気流を種にして風で酸素を送り続ければ良いのだ。
目標は岩だから可燃物ではない。
目指せ!!一億度!!
気合を入れて魔力で熱源を作り目標に当てる。
大気が白熱化して爆発する力を強引に上に向ける。
よし!!螺旋の力だ!!
目標中心に強力な上昇気流ができ、大気が中心に向かっている、スゴイ吸引力だいそん。
可燃物なら高温に曝されて燃焼を続けるだろう。
生徒が皆、大地にしがみ付いて風に耐えている。
ふっ軽いヤツはコレだから。
悠然と歩き。
教官に報告する、
「教官、生徒オットー・フォン・ハイデッカー。ファイヤーストーム成功しました!!」
実験場の脇の木が音を立てて地面から抜けて吸い込まれて燃え尽きる。
「わかった!!止めろ!!」
「他って置けば収まりますが?」
「今すぐ止めろ!!」
「了解しました。」
目標を魔力で真空のチューブで包み吸引を止める。
チューブの中だけの循環になるので熱を閉じ込めた状態だ。
そのままチューブを縮小して高温の球を作り熱を異空間に閉じ込める。(収納魔法のスクロールを解読したので出来る様になった。)
白い光の球が黒い球に変わり一瞬で消えてなくなる。
「止めました。」
岩は完全に消失して地面は未だ熱を孕んで沸騰している。
他って置けば冷えて汚いガラスか玄武岩に変わるだけだろう。
「生徒オットー・フォン・ハイデッカー!私が良いと言うまでこの授業での魔法の使用を禁止する!!」
「この後、ウィンドカッターの実技を行ないたいのですが?」
「呼ぶまで待機!!」
やれやれ、やることが無いな。
まあ、見学でもするか。
後ろの離れた所にベンチがあるので座る。
座ったまま生徒たちを眺める。
ああ、今日は天気が良いな。
夕飯はなんだろう?
風魔法の考査が始まった様子だ。
なるほど皆ウインドカッターから始めている
失敗するものが多い。
カッターと言っても高圧空気をぶつけるだけだ。
誰も1Mpaに達していない。
せめて30Mpaぐらいは出せよ。
ウインドストームは単純に風を操作して竜巻を作るだけだった。
上昇気流を利用すればもっと威力が出せるハズだ。
ほぼ全員が考査が終わった様子だ。
まあ、一部の生徒は次の実技で最考査も居た。
クラスの皆はウインドカッターが出せる様子だ。
半数の生徒がウインドストームまで行った。
「生徒オットー・フォン・ハイデッカー考査を開始する。」
全員の注目を受け教官に呼ばれてゆっくり歩く。
生徒の表情が非常に固い。
「目標はあの岩だ。」
ちょっと遠いな50mぐらいだ。
剣と魔法の世界と言っても。
戦場での遠距離攻撃の主役は弓だ。
と言っても弩が多い。
普通の弓も在るがロングボウは見たこと無い。
猟師のタッポは”自分の利き腕を伸ばして体の中心までが適当な長さだ。”といっていた。
なので平野で100m先から攻撃されるなんて殆どない。
「オットー・フォン・ハイデッカー行きます!!」
両手を広げ目標まで魔力で円筒形シリンダーを形成する。
空気を遮断して手前から引き絞って目標手前で高圧圧縮空気を開放する。
岩に上手く衝撃波が伝わったので綺麗に木端微塵になる。
木っ端微塵になった破片は音速を超えて後方のレンガ塀で停止するが。
遠いので砂埃が巻き上がっている様にしか見えない。
「よし!!」
ガッツポーズを取る。100Mpaは行っただろう!
「今のは何だ?」
教官が呆然として尋ねる。
「ウインドカッターです。次、ストーム行きます!!」
よーし!デカイの行くぞ~♪
「まて、合格にしといてやる。」
焦っている教官。
「いやいや、コレからが本番です。デカイのを打ち立てます。」
「生徒オットー・フォン・ハイデッカー、考査は終了だ。合格だ。」
「はい、了解しました。」
なんとなく不完全燃焼だ。
呆然としている同級生たち、音をたててレンガ塀が崩れ正気に戻った様子だ。
しまったやりすぎたな。
とりあえずごまかそう。
「ああ、もっと広いところでやらないと迷惑だな。」
皆が頷いた。
崩れたレンガ塀は土魔法で直して置いた。
かなりの厚さだったが古いので壊れたのだろう。
全体的に強化しておくか。
ナイフの柄で叩いてみる。
うん、金属の様な音だ。
せめて核融合ぐらいには耐えられないと。
溶けたレンガは表面だけだったのでそのままにしておいた。




