288.最終日8
外はもう既に日が落ちて暗い。
中庭の池を囲む回廊の柱にはランプが揺らめき足元を照らしている。
油ランプだろうか?煙に煤が多めだ。
女中(奴隷女)の先導で食堂に向かう。
風呂上り女性軍とも廊下で合流して室内に入る。
長テーブルには大皿に乗った、パン&果物が並んでいる。
お誕生日席に座るガナドルの前には大きな肉料理が在る。
なるほど主人が切り与える方式でコースでは無いらしい。
まあ、主人は小男だココの歓迎者の主役だろう。
女中に指定された席に付く、向かいは教授だ。
「ようこそ、この町においで下さりました。この町の責任者ガナドルが歓迎の宴を用意しました。ご存分にお楽しみ下さい。」
コチラを見るガナドル。
何か話す必要があるらしい、席を立ち返礼を行なう。
「歓迎に感謝する、我々、魔法学園の一団は街道を突破して、この町を目指し到着した。二三日逗留後、王都に帰還するのでお世話になる。」
テーブルを見渡す、下座の末席にマルカとベスタも座っている。
冒険者より下だが仕方ないだろう。
奴隷の身分で有るが破格の対応だ。
「はい、ごゆっくり旅の疲れを癒して下さい。」
「うむ、世話になる」
給仕の奴隷が皿が乗ったワゴンを用意した。
メインの大皿から切り分けるガナドル。
俺と教授は一番良い所だ。
と言っても初めの一切れを皆に渡すのが重要なだけで後は給仕が行なうだろう。
皿が皆に行き渡る。
真鍮のコップに飲み物が注がれる。
黄色い液体で泡が出ている。
皆に肉と酒が行き渡るのを確認すると杯を上げるガナドル。
「では、乾杯。」
「「「乾杯!!」」」
一口飲む。
酸っぱいビールではなく微炭酸で酒精が低い。
クワスの様なモノらしい。
食事に掛る。
「ハイデッカー様。街道の通行ありがとうございます。町の者を代表して御礼申し上げます。」
「うむ、問題は無い。街道の安全は領主の仕事だ、俺は代理の様な物だが安全が確保できれば商人には関係は無い。」
「はい、早速明日にでもコチラの兵を街道に向かわせる心算です。」
「ソレが良いだろう。商隊の移動を早期に再開する必要が有る。」
「実は…。お食事中にお話しするのはアレですが…。熊の件なのです。」
「ああ、構わん。話せ。」
「熊を南広場で、あのオットー様の潜られた門の広場で解体をしております。魔石は取上げました、今綺麗にしております。それで、その…。」
「何か出てきたか?」
「はい、結果やはり我が兵を襲った熊だと確定しました。」
はぐからすガナドル。
意味は解かった、あまり言いたくないらしい。
おそらく見てきたのであろう。
渋い顔だ。
「遺族に返還せよ。」
「はい、解かりました。」
気落ちするガナドル。
恐らく肉は売れないだろう。
大損だ。
仕方ない。
「熊の肉の代、金貨40だが…。」
「はい、」
追い討ちを掛けられた顔のガナドル。
損は嫌いなのだろう。
「兵の遺族に配分せよ。配分方法は貴様に任せる、不満の残らぬ様にせよ。」
「は、はい!!」
金貨40枚は貴重だが未だギルドの賞金が在る。
但し他の領地で現金を大量に入手すると、その町の現金が無くなり流通と物価に影響するだろう。
この町で手に入れた金は出来るだけ物に替えて持ち出さなければ。
「明日、ギルドに向かう。生徒達も町に買出しに出るだろう。」
「いえ、町は余り…。そうです、必要な物なら商人を御呼びいたします。」
「ガナドル。代官代理としての成果を見せてもらう。」
貴族はこんな直球ど真ん中は話さない。
「は、はい解かりました!!」
普通は他の領地のコトに文句は付けない。
ココまでハイデッカー家を怖がるならば、この町で何らかの宣伝工作に名前を使っているのだろう。
しかしコイツの性格はわかった、付入る方法もだ。
充分、物で払って貰う。
「物価はどうなっている?市井の者の生活は?」
「街道の閉塞の為に品物が手に入らなく成っており、高止まりの状態です。もう既に耳の早い商人がハイデッカー領に向かうための準備を行なっています。」
「なるほど…。」
「はい、時期に落ち着くと思いますが…。もう暫くは…。」
「そうか…。ハイデッカー領の兵が魔物寄せの臭い袋を使用して大規模な掃討をを行なった。結果、危険な魔物との遭遇は無かった。」
「魔物寄せ…。魔物はどうなったのですか?」
「大型の魔物は壊滅した。」
「先月から、ドラゴンを見たと言う者の報告が上がっていたのですが…。」
おい、知らんぞ?ギルドに警報を出せよ。
「倒した。」
「はあ?」
どうせ家の兵が見ていた、証拠もある、その内、町でも聞こえるだろう。
「小物だたいした物ではない。我が兵と共に倒した。ココでは見せられないが…。まあ広い場所で見せよう。」
「は、はい、おねがいします。」
饗宴が終わり各自部屋に戻る。
ベスタとマルカも戻って来た。
ベッドで川の字になり…。
爆発した。




