287.最終日7
水差しを持った湯女からコップを受け取り飲み物を飲む。
ハーブと果汁を水で割った物で冷たい。
サウナに入ると皆が木のベンチに腰を掛け暑さに耐えている。うむ、実に男臭い絵図だ。
無言のサウナ内で時折涼しげな音が通る。
鈴と言うかハンドベルを持った湯女が外で時間を知らしている。
「モーガン、ダメだもう出る。」
「ラカス。もっと我慢しろ。」
「生徒ラカス。外で水を被って、飲み物を飲んで来い。」
「はい、そうします。」
ふら付きながらサウナを出るダーク少年。
くっそっ!前の紋章が見えない。
「マッサージの御用意が整いました。」
湯女のよく通る声だ。
「うむ、俺から行こう。」
「早いなザーバ。」
「もう一度ゆっくり入れば良いのだ。」
「ではお先にどうぞ。」
外では女達、二三人でアカスリとマッサージを行なっている。
順番が回ってくるまで待つか…。
ラカスが戻って来た。
「ふーう、熱い。」
「なかなか良いだろラカス。」
「うん、水浴びが気持ちいい。」
やはり対になる紋章の様子だが、細かいので近くで見るしかない。
しかし、ガン見するには理由が必要だ…。
自然かつスマートに。
「うむ、さっぱりした。」
ザーバが香油とハーブの香りを纏って帰って来た。
髭も剃ってもらった様子だ。
「ではお先に失礼しよう。」
教授が出た。
「うむ、極楽極楽。」
顔を手ぬぐいで拭くザーバ。
「おれ、水を浴びてくる。」
ムロが外に出て直に帰って来た。
「あちちち。」
「ムロ上がらないのか?」
「せっかくだ少し楽しむ。」
「う~む、旅の疲れも吹き飛ぶのだ。故郷に帰って家を建てた暁には小さい物でも良いから蒸し風呂を作りたいものだ。」
「ザーバ。水汲み、薪割り大変だぞ?」
「むろん夢の話だ。ココまで立派な物でなくても良い。」
「そうだな…。まあ、王都に居る間は大衆浴場が在るから良いが…。辺境だと無いからな。」
「お次の方どうぞ。」
「おれ、もう限界。モーガン、先に上がるぞ。」
「じゃあお先にどうぞ。俺は水を浴びてもう少し粘る。」
ラカスが退出しました。
まあ、良いだろう未だ湯船もある…。
モーガンが水を滴らせて戻って来た。
拭き上げしろよ…。
「アッー!」
ダークエルフの叫び声が響くが誰も気にしない。
「ふっ、青いな。」
モーガンが鼻で笑う。
サウナの中は微妙な麩陰気につつまれ…。
「次の方どうぞ…。」
皆が”お前行けよ、”と目で通信し合っている。
誰も出ようとしない。
「仕方が無い、俺が上がろう。」
サウナから出ると既に湯船には教授が居なかった。
ダークエルフの少年が片隅でヒザを抱えて泣いている。
”ううっ汚されてしまった…。”
何をやっているのだ…。
「交代しましたのでご安心下さい。コチラの台でうつ伏せにお休み下さい。」
マッサージ室の小部屋に入る。
新しいシーツに替えてある様子だ。
3人掛りでアカスリとマッサージを行なっていく。上に女が乗っているので肌が密着している。
なに、どうと言うコトはない。
普通の大衆浴場では男の雲助だが、ココはハニトラの猟場だ。
理性が保てない者は釣られるのだ…。
そんな餌に俺が釣られる訳が無い。
「では、仰向けに。」
素直に仰向けになる。
腰巻がテントではなく完全に飛び出してしまった…。
ふっイカンな…。
素数を数える暇すらなかった…。
唾を飲み込む湯女達。
手が止まってガン見している。
ほう、お嬢さん方。
俺のタワーが気になるのかい?
「手が止まっているぞ?」
「は、はい、申し訳ありません。」
「あ、あの、コレを…。」
「しっ、」
「ああ、普通に行なえ普通に…だ。」
「はぃ。」
フフフ貴族だから恥かしくない。
湯女達が顔を赤らめたままアカスリとマッサージが終わり。
冷水で洗い流し暴走モードから通常モードに変える。
そのまま、湯船に浸かり素数を考える。
5と11、7と13、11と17、13と19、17と23、23と29…。
29か!
おっと、コレはセクシー素数だっな。
セクシーの罠に釣られたダーク少年に声を掛ける。
「ラカス、湯冷めするぞ。湯船に浸かれ。ああ、よく洗い流してからな?」
「…はい。」
泣き止んだダーク少年。
台の掃除が終わるとサウナから次の犠牲者が出てきた。
オシリスキーだ。
ダーク少年と湯船に浸かりながら世間話をする。
そうだ、遠回りに自然に。
「その背中の紋章は何のために在るのだ?」
直球ストレートを投げる。
「コレは家に代々伝わる紋章です。健康に成る紋章と聞いています。」
「なるほど…。他のダークエルフも着けて居るのか?」
「いえ…。すみません解かりません、父と母が王国に来てから生まれたので詳しいコトはちょっと…。」
「そうか…。ご両親のご出身は?」
「東の方から来たと聞いています。」
「ほう!」
東は山脈で通行が出来ない。
つまり東の連峰を越えてきたコトに成る。
「あ、あの、正直、本当かどうか解かりません。何せいい加減な両親なので。」
「そうか…。うーん。恐らく何らかの身体強化の呪文に見えるが…。前と背中ダケなのか?」
「はい…。あの、女は背中に二箇所で計三箇所です。」
「そうか…。今度、写しを貰えないか?いや、もし一族の秘匿ならば無理は言わない。」
「はい、解かりました、そんなモノでは無いと聞いて…。「アッー!」モーガン、お前もか。」
しばらくするとマッサージ室からオシリスキーが出てきた。
文字どうりアカスリで一皮ムケて大人になった様子だ。
腰が引けている。
無言で冷水で体を洗い流して湯船に入るモーガン。
「「「…。」」」
皆無言だ。
言い難いのは解かる。
「さあ、俺は上がるからな…。」
冷水で火照った体を冷やし水を切って脱衣所に出ると飲み物を持った教授が木の蔓で編んだ椅子に座りくつろいでいる。
湯女が体を拭くのを手伝い着替える間に団扇で扇いでくれる。
「未だ食事の準備は終わっていないそうだ。女性陣は未だ風呂から上がっていない。」
「そうですか。ではしばらく、くつろぎますか…。」
王国では女の長風呂は常識だ。
男性陣が脱衣所に揃い、向かいの大浴場が騒がしくなると。
「お食事の用意ができました。」
給仕の報せだ。
さあ、飯だ。




