282.最終日2
結局、日が出るまで女子のテントで睡眠を取った。
マルカは俺の隣りで腕枕だ。
泣き腫らしたが何事も無く眠っている。
何も出来なかった…。
何もしなかったが泣き止んだマルカ。
テントの外では皆活動しているようだ。
衣擦れの音や足音で判る。
俺は横に眠るマルカの為に動くことが出来ない。
おう、何も触れんかったわ。笑うが良い。
「オットー様?」
マルカが起きた様子だ。
髪に触れる。
うむ、良い毛根だ。
「起きたか?」
「はい。あの…。」
顔が赤いマルカ。
「何か有ったら呼べと言っただろう。」
「はい、申し訳ありません。」
何故か毛布に隠れる。
蓑虫ゴッコか?この世界で蓑虫は見た事が無い。
「まあ良い。今日で最終日だ。今晩は町のベッドで眠れる。おめでとう。マルカ。」
「はい、ありがとうございます。あの、準備をしますので、先に外に出て貰えますか?」
「ああ、判った。」
テントの外に出て青い空を見る。
いや待て。普通に出てしまったが、奴隷の主人としては出る必要が無かったのではないだろうか?
周囲を見渡すと。
ダーク少年のラカスが鉄拳制裁を受けた後の様なボロ屑になって、冷たい大地に転がっていた。
「何か有ったのか?」
「悪は滅びました~。もうすぐ朝食ができますからね。」
「滅せよ。」
「自業自得です。」
「このおにく、食べたくないでも…。」
「のぞきは死。」
「はいはい、手当てしますよ~。先ずは塩を振って練りこみます。」
「痛い、痛い!!止めて!!」
うん、元気そうなダーク少年だ。問題は無いだろう。
「オットー様。女は怖いですね?」
いや、今更なんだ?オシリスキー。
その様な事は誰でも解かっているはずだ。
「ケダモノ。」
珍しく何かを怒っている朴念仁。
蔑む目が恐ろしい。
放牧場の馬を見に行く。
ベスタとトリーニアは馬の世話をしている。
何故か管理人のサルワが手伝っている。
と言うか皆で飼葉小屋を掃除している。
「おはよう、ベスタ。と…。娘。」
「おはようございます。オットー様。今朝、馬に飼葉を二束やりました。」
「おはようございます。オットーさま…。」
朝から不機嫌そうな顔の娘。稲藁まみれだ。
「おお、おはようさん、団長さん。すまないが隊員の手を借りているよ。」
「おはようございます、ご主人。何か有りましたか?」
慇懃無礼に挨拶をする。
「いや、小屋の悪く成った飼葉を選り分けているんだ。もうすぐ商隊が来そうだからね。」
「そうですか…。」
「あの、飼葉を頂きました。その…。代金代わりです。」
ベスタの報告だ。
なるほど。
勤労で馬の飼葉代か…。
「いや、すまんね。もう終わりだ。後は一人でできる。」
「そうですね。後は日に干した飼葉を片付けるダケです。」
答えるベスタに背伸びしながら腰を叩く管理人。
「人手が有ると早いね。一人だと半日掛ってしまう。」
「そうですね。」
忌々しそうに体の稲藁屑を払う娘。
「普段は商隊が多いからこんな事は無いんだが…。無駄になってしまった飼葉は捨てるしかないか…。」
なるほど…。商隊なら馬も多い。
飼葉も大量に要るだろう。
「何処から運んでいるのですか?」
「丘の向こうに草原が有るのさ。ソコで刈り取ってココで干してる。なに、無くなった分は今日にも補充するさ。」
「そうですか…。」
なるほど、飼葉も手間が掛かるのか。
馬を数揃えれば、かなりの牧草地が要るだろう。
帝国の馬はドレだけ居るのだろうか?
あの騎兵団を維持するには、かなりの牧草地、管理された近代的な牧場が在るコトになる。
稲藁まみれで不機嫌そうな娘にクリーンの魔法を掛ける。
光る娘。
「すごい、魔法使いみたい。」
いや、俺は魔法使いだぞ?
娘の前で魔法使った事は有った筈だ…。あったよね?
「まあ良いだろう。朝食の準備が整ったので呼びに来た。」
「申し訳ありませんでした、オットー様、馬は放牧中です、喰いも良いです、馬に問題は有りません。」
「そうか…。」
朝食を取り。
何故か負傷したまま朝食の準備を行なうラカス。
「くっ、口に沁みる味だぜ。」
梨とパン。それに豆と麦の粥(うさぎ入り)。
女子の白い目を一身に集めるラカス。
29番はゴミを見る目だ。
何をやったんだ?
テントの片付けが終わり。
馬車に馬が繋がれると。
使った場所の掃除に掛る。
管理人は大八車?を押して何処かに行ってしまった。
使った薪代を貯金箱に入れる。
これで全ての準備が整った。
「さて、長かった様な旅だが、今日で目的地に着く。だが危険が無いワケでは無い。今、この場を旅の半ばとして心して掛れ。」
「「「はい」」いてぇ。」
イラッとした炊事班のおっとりさんに小突かれているダーク少年。
「では出発!」
俺達の最後の旅だっ。




