29.乱闘
四人で長テーブルを囲む。
と言っても両手に奴隷の対面はロビンだ。
「では、頂こう、豊穣の女神ディアナに感謝を。」
ロビン君は驚いて手を組んで黙祷をしている。
まるで、いただきますを忘れた子供のようだ。
昨晩の夕食を真似たのだが、ひょっとしたら特別な時にしか行なわないのか?
そういえば俺は家では何時も一人で飯を食っていたから普通に仏教式のいただきますをしていた。
このルールは標準ではないのか?
しかし、両脇の奴隷は目を閉じて黙祷をしている。
軽く黙祷を済ませる。
ほほう、美味そうだ。
イモとウサギ肉の煮込み汁多めと丸パン、肉と野菜がゴロゴロしている。
サラダはビネガーとオリーブオイル、マスタードと香草で辛めの味付けだ。
麺類はきしめん状の灰色の麺とイモと野菜のチーズ掛けだった。
う~ん、どちらかと言うと大人の味付けの様な気がするがロリは大丈夫だろうか?
黙祷が終わりロリが皆に茶を注いでいる。
「ロビン、午後の実技とは何を行なうのか?」
「はい!座学で学んだ魔法の実技試験です。教授の前で実技を行い考査の得点を得ます。」
「なるほど。考査の得点か…。」
あれ?レポート提出で卒業違うの?
ロリが最後のカップに注ぐがポットの中身が無くなった様子だ。
「あの、お茶を貰ってきます。」
「うん、わかった。」
顔を向けずに答える。
給湯カウンターへポットをもって向かうロリ。
「なるほど、今回は風魔法の考査か…。前回の考査は何だったのだ?」
「はい、前回はファイヤートルネードです、その前はファイヤーボールでした。」
「火の属性ばかりだな。」
レベルアップで初めて覚える魔法とその次に覚える全体攻撃魔法だ。
「はい、炎の方が使い勝手が良いので人気です。」
「うーん、今回は風か…。」
午前中の座学で出たのもウィンドカッターとストームだ。両方とも風系の単体と全体の初期魔法だった。
うん?風は大気の比熱差だから火の扱いのハズだが。
「風魔法と言っていたな?なぜだ?」
「はい、風魔法は一応、火の属性ですがイマイチ人気が無いようです。あの教授は数少ない高位の風魔法が使ます、話が脱線すると風魔法になります。後継者を探しているとの噂です。」
「そうか、高位の風魔法か…。見てみたいな。」
たしか、最高威力は全体魔法のダウンバーストだったな?
ダウンバーストを作るのは確かに難しい。
積乱雲から作らなければならない。
「はい、しかし、あまり、使い道が無い魔法です。」
「それは違うぞ…。」
大きな音がして食堂内の時が一瞬とまる。
振り返るとロリが床に転んで剣を下げた男が二人、ニタニタ笑っている。
床に転がるポットのフタ。
「おいおい、こんな所にくっせぇ奴隷がなんで学園の制服着て居るんだ↑www」
「いってえ~♪骨が折れちぃまったよwwwどう落としマエつけてくれるんだぁ↑w」
振り返ったままロビンを見ずにたずねる。
「あの、制服は見たこと無いが何者だ?」
「王国軍属の従騎士見習いです。くそ、王国騎士団を貶めるコトを…。」
「そうか、では言ってくる。」
席を立つ、ベスタも立とうとするが手を上げ静止する。
「「「ははははは」」」
ロリはゆっくり起き上がり落としたポットを片付けている。
目にハイライトが無い。
コイツ等、絶対泣かす!!
馬鹿笑いする兵士の前に立つ。
「これはこれは王国騎士様、我が奴隷が何か粗相をいたしましたか?」
「おうおう、随分と羽振りの良いボウズが出てきたなwww」
「コイツのせいで腕の骨が折れちまったw。いてぇから慰謝料よこせw」
よっし。骨の数増やしてやろう。
「どれどれ、ケガのお加減は?」
「あーん?」
痛がってる腕を素早く引っ張り関節を決めて体重を掛ける。
こういうのは思いっきりが重要だ。
静寂の食堂に何かが折れる音が響く。
響く男の悲鳴。
学生は皆耳を塞いだり口に手を当てたりしている。
「おやおや、これは本当に折れている。コチラの腕のお加減はどうでしょうか?」
「おい、お前!!王国騎士団と知っての所業か!!」
剣に手を掛ける。サンピン。
「これはこれは王国騎士様、我が女奴隷に危害を加え丸腰の生徒に剣を抜かねば権威すら保てぬコシヌケ揃いなのでしょうか?」
「何を!!」
剣を抜いたので遠慮なく右フックをアゴ先に撃ち込む。
脳がゆらされて一瞬で床に崩れ落ちる。
「ウデガー!!ウデガー!!」
五月蝿い男を首を絞めて落とす。
まるで床に死んだ様に眠る男二人。
よし!!飯を食おう、冷める前に。
「マルカ、ゆっくりでよい。お茶のお替りを頼む。」
「は、はい。」
濡れた制服を整えてポットを持って給湯カウンターへおぼつかない足取りで向かうロリ。
席に着き何も無かった様に食事を始める。
うん。美味い。
大皿のウサギシチューは味付けは濃い目だ。
麺はパスタと言っていたが蕎麦の味がする。
パンはボソボソの食感だがシチューの汁に付けると柔らかくて油が染みて旨い。
麺料理は、どう見ても蕎麦です、この麺を手に入れれば笊蕎麦が食べられるのでは?
しかし、めんつゆどうしよう?出汁は乾燥キノコでいけるけど、醤油がなあ…。
「あの、オットー様ココを離れられた方が良いのでは?」
心配そうに話すロビン君。
おい、俺が食い終わるまで席を立つ訳ないだろ?
「心配するな。俺の兄上は軍の上役だ。」
最近会ってないけどな。
まあ、一個師団壊滅させても兄弟喧嘩ですまないかな?
少々汚れたロリにお茶を注いで貰い。
大皿と麺を片付ける。
食後のお茶を楽しむ。
「ロビン、席が空いているからゆっくりしてもよいだろう?」
そわそわ落ち着かないロビンに声を掛ける。
まだ、午後の鐘までは時間が有る。
「あの、そろそろ、移動を…。」
「見習い!!何時までサボっておる!!」
騒がしい、カイゼル髭の細身の鎧騎士が食堂に怒鳴り込んできた。
床に伸びている男二人に絶句している。
「な…に…が起こった!?」
食堂に残っている少数の皆は目を伏せている。
「その、無礼者は俺の資産である奴隷に危害を加えた、よって制裁したのだ、文句があるなら掛って来い。」
やせ馬鎧が剣に手を掛けコチラに向き直る。
「なにっ!!貴様!我々を王国騎士団と知っての所業か!!」
「知らん!」
お茶うめ~。
「ふぁっ?」
剣を抜くヒゲ鎧。
「貴様等が何者で在ろうが、俺の女に手を出すモノは容赦せん!!」
剣を抜いたので容赦はしない。
カップを置いて席を立ち両手にメガ粒子砲、頭に増幅リングを構築する。
この、ヒゲ炭にしてやる。
「お待ち下さいオットー・フォン・ハイデッカー様!!その方は私の叔父上でございます!!」
テーブルを飛び越え腰にタックルするロビン君。
「叔父上!!このお方はハイデッカー公爵家三男オットー・フォン・ハイデッカー様でございます!!剣を御仕舞い下さい!!」
お互いびっくりする。
ヒゲ鎧はその場で剣を置いて肩膝を付く。
「なにとぞ御慈悲を!!」
腰にしがみついたまま涙目で叫ぶロビン君。
ちっ、また人に向かって撃つチャンスが無くなった。
席に座ったままのベスタが”お茶おいしー”と呟いたのを聞き逃さなかった。
ゴタゴタは在ったが上の方でカタがついたので後はナアナアだ。
まあ、こういう場合は下っ端が粋がってもなんともならない。
しかも。ヒゲ鎧は俺の兄貴の部下だった。
こうなると名前の知らない部下の失態で兄弟喧嘩をリアル軍隊で行なうなぞ。
スキャンダル以外の何者でもない。
全ては闇に葬り去られる。
ただし、学園内での噂だけがこの先生きのこる。
女奴隷を守る為、騎士を相手に素手で倒したとか。
女の為に王国軍相手でも戦うとか。
2人前はデザートの内とかである。(性的な意味で)




